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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
由紀夫編 「第三章 ハッピーエンド」
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ポテト野郎


 荒井は手にしていた大量の薬を口に入れて、容器の蓋を外してスプライトを飲んだ。それから太々しく「なんで?」と言った。言葉尻には明確な敵意が込められており、一気に雰囲気が険悪になった。僕は自分の吐いた唾に後悔して、覆水を盆に返す方法を考えた。


「君が薬を飲む姿を見たくないんだ」

「そんなの知らないわ」


 荒井は更に瓶から薬を取り出して、右手を皿のようにして大量の錠剤を置いた。僕を煽って挑発しているのだ。店内の照明を一気に暗くされて、エアコンの温度を一気に下げられたように感じるのは、僕が荒井に怯えているせいだろう。


「知らないって言われても」僕の語尾は弱くなっていく。「そんな、目の前で飲まれたら……」


 今度は荒井が僕の話を遮って「目でも瞑れば」と言った。物理的に瞼の裏を見ろと言っているのか、悪事を見逃せという意味なのかは判然としないが、僕の目は今も開いたままだ。


「僕は荒井とまともに接したいんだ。正直に言うと、ラリっている君を見ているのは辛いし、それに合わせている僕だってしんどい。もっと、まともに楽しみたい」

「自分が楽しみたいからって私の楽しみを奪わないで。私にはこれしかないのに、それを取り上げようなんておかしいわ。まともじゃないのはそっちよ」

「そんなので楽しむのは間違っている」


「間違っている?」荒井の声は次第に大きくなってきた。「勝手に物事を正解と不正解に区別して、他人にそれを強要するのは正しいの? 私からすればそれこそが間違いよ。間違っている」


「そんな詭弁はやめてくれ。僕は荒井と喧嘩したい訳じゃない」

「私だって喧嘩を買いたい訳じゃない。売ったのはそっち。押し付けてきたのもそっち。押し売りされたのが私」

「僕はただ、荒井に薬を辞めて欲しいだけなんだ」

「道徳を垂れたいなら他を当たってちょうだい。由紀夫は私の親にでもなったつもり? それとも先生かしら?」


「君の友達だ」僕は自信を持って言った。「荒井の友達として言っているんだ。親でも先生でもない。ただの友達だ」


 荒井は鼻で笑ったが僕は全く笑えないでいた。僕たちの声がうるさすぎたのか、周りに居る人達の視線を感じる。出来るだけ冷静さを保つ為に、荒井が何かを言う前にコーラを一口だけ飲んだ。紙ストローの不快な口触りから伝ってくるコーラは、炭酸のせいではなく僕の胃を痛めつける。


「いつから私の友達だと勘違いしているの?」

「ずっとだ。僕はずっと荒井を友達だと思っている」


「やば」荒井はそう言って薬とスプライトを飲んだ。「私帰るわ。こんなキモい奴と一緒に居たくないし」


「帰るって、まだ残っているぞ」

「そうね」


 荒井は食べかけのハンバーガーを手にして、リスのように頬張ってみせた。怒りにまかせて食べてから、薬と同じようにハンバーガーをスプライトで流し込んだ。


「ポテトが残っているぞ」

「ポテトはあんただよ」

「どういう事だ?」


 急に立ち上がる荒井に対して、僕は反射的に中腰になった。思わず怒鳴るように「待ってくれ」と叫んだが、荒井は小さく「じゃ」とだけ言い残して、逃げるように店から出て行った。


 直ぐに荒井を追いかける事も出来る。しかし、追いかけたところで何になるのかという疑問は拭えない。短絡的な言動のせいで失敗したのだから、今度はもっと考えるべきかもしれない。


 窓から下の通りに目をやると、ちょうど店から出た荒井を見る事が出来た。荒井は迷う仕草も見せずに、駅とは反対の方向へ足早に歩いていく。


 まだ間に合う。今追いかければまだ間に合う。それでも僕は中腰のまま動く事が出来ずに、最終的には再び椅子に尻を着けた。プラスチックの椅子は冷たくなっており、僕の行動を否定しているような気がした。


 周りに居る有象無象からの視線を感じつつも、とりあえず残っているポテトを一つ手に取り、出来るだけ冷静を装って食事を続けた。本当は周りに「見せ物じゃないぞ」と叫んでやりたかったが、僕は荒井とは違って素面だ。薬なんか飲んでいない。


「大丈夫」誰にも聞こえない声量で言った。「次会う時に謝ればいいだけの話だ」


 僕は荒井が残していったポテトも食べる事にした。半分以上も残っていて勿体無いし、共食いだと揶揄われる心配もなさそうなので、少しだけ抵抗はあるが荒井のポテトも食べ始めた。何も出来ない自分への嫌悪感を紛らわす為に、今は味のしないポテトを食べるしかない。


 荒井が居ないので格好をつける必要もないと思い、テリヤキバーガーを食べ終えた時に丸めた包み紙を開き、へばりついているソースにポテトを付けて食べた。やはりテリヤキは偉大だ。味のしなかったポテトにも味がする。比喩としての味がしないという表現にも、テリヤキならば味をつける事が出来るのだ。


 残っていたポテトを全て食べ終えると、最後に食えないポテト野郎だけが残った。それが僕だ。こればかりはテリヤキソースをつけても食べられないだろう。荒井が僕の事を気に食わなかったのにも納得だ。


ノガミマコトです☺︎


みくどなぁ( ͡° ͜ʖ ͡°)

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