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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
由紀夫編 「第三章 ハッピーエンド」
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財布には岡本ではなく福沢


 何を着ればいいのか解らなかったし、そもそも選択肢が少ない中で僕が選んだのは、履き慣れたジーパンと半袖の黒いシャツだった。鏡に映る男は最近買ったばかりのスタンスミスを履き、緊張した面持ちで優しく微笑む。鏡を隔てて中にいる男が自分なのだとしたら、すぐにでも帰りたくなってしまった。


「大丈夫」


 僕は駅のトイレに在る鏡に向かってひとりごちる。あと十分後には待ち合わせ場所に荒井が来ているだろう。これから荒井と二人で合うことを、デートと言うのは難しいかもしれないが、遊びだとか遊ぶだとかと言うには僕は本気過ぎた。


「何を緊張しているんだ、お前は?」


 トイレは貸し切り状態だったので、安心して鏡の男に話しかける事が出来た。その男は髪の毛をセットする事が出来ないらしく、似合ってもいないニューエラのキャップを被って誤魔化しながら、引き攣った笑みを顔に張り付けている。


「別に普段から会っているだろう?」


 僕は自分を無理やり安心させようとする。尻ポケットに入った財布には心強い味方がいるが、それは岡本ではなくて福沢の方だ。


「勘違いするなよ?」


 僕は最後にそう言い残してトイレを出た。これからヨドバシカメラの前で荒井と待ち合わせだが、そこからの予定は全く決めていない。とりあえず会って遊ぼうと約束をしただけなのだ。


 改札を抜けると夏の太陽が容赦無く僕を襲う。夏休みだからか同年代の人達が多い気がするし、中にはカップルのような二人組も見受けられる。僕は周りの同年代カップルを見ながら、どのような振る舞いをしているのか観察し、時間をかけてヨドバシカメラの前へと向かった。


 待ち合わせ時間の二後に荒井は現れた。制服のスカート姿しか見た事がなかったが、今日の荒井はルーズなズボンを履いており、ストリート系のファッションに身を包んでいる。上には生地の薄そうな長袖のシャツを着ており、傷だらけの腕は隠れていた。荒井だからお洒落に見えるのか、服のセンスがいいからお洒落に見えるのか解らないが、とても着こなしていて格好いい。


「よっ」と荒井は嬉しそうに言った。その瞬間に気付いたが今日の荒井は素面ではない。普通ならこんなフランクに接してくるとは思えないし、もっとクールな振る舞いをするだろう。


 僕は感情を出さないように「おう」と返した。正直言えば素面ではない時の荒井はあまり好きではないが、そんな事を口にすれば喧嘩になってしまうだろう。むしろ素面じゃない時の荒井こそが通常なのかもしれないが、僕はそんなのを求めていない。


「由紀夫が私服姿って何か変な感じ」

「制服で来た方が良かったか?」

「制服よりは似合っているわよ」


 荒井は嬉しそうに微笑んだ。僕が勝手に細分化した荒井の微笑みパターンから察するに、楽しそうというよりは嬉しそうだった。楽しそうだとか嬉しそうだとか、荒井の感情を勝手に考察しているが、答え合わせもしていないので所詮は妄想の類だ。


「私はどう?」


 荒井は軽く手を広げてみせた。こんな行動も素面なら絶対にしない筈だ。荒井はもっと奥ゆかしい女性なのだ。言葉に詰まってしまった僕に対して、荒井は「ねぇ」と言って更に手を広げた。ハグでもする勢いだ。


「そうだな」と僕は言って最初に思い付いた事以外を考える。「荒井が体操服以外のズボンを履いているのなんて初めて見たかも」


「それが感想?」

「そうだな」

「由紀夫は変な所で照れるわよね」


 似合っているだとか可愛いだとか、直接的すぎて僕の口から出す事は出来ない。無自覚で恥ずかしい事を言ってしまう時もあるが、基本的に僕は照れ屋な性格なのだ。


「そんな事より、これからどうする?」

「どうしよっかなぁ」

「ここら辺なら映画館も動物園もあるし、カラオケとかショッピングモールとかゲームセンターもある」


 この辺りに何があるかくらいは事前に調べておいたし、高校生が行く一般的なデートスポットも把握している。しかし、僕は今あげた場所へ一度も行った事がない。映画館で映画を観たことが無いし、動物園で飼育されている動物だって見た事だってない。そもそもチケットの買い方すら解っていない。カラオケだってちゃんと機械が使えるか不安だし、ゲームセンターに至っては想像もできない。


「この辺に詳しいの?」

「いいや。ネット調べたんだ」


 インターネットで調べたのは辺りにある建物だけではない。デートで使えるお洒落なジョークだとか、好きな女性に嫌われない心理的なテクニックだとか、告白の仕方からセックスの仕方まで、ありとあらゆるものを調べてきたのだ。


「私達は自由ね」荒井は少し上を見ながら訳の分からない事を言った。「それなら、今言った奴を全部しましょう。一つずつ全部。残さず全部行きましょう」


 荒井はそう言って歩き出した。僕は置いて行かれないようにするだけではなく、荒井の隣を堂々と歩く。彼女をリードやエスコートするなんて事はまだ出来ないけど、横並びくらいはしないと駄目なのだ。


野神真琴です★


危ないところでしたっ!!

何とか今日中に間に合いました☺︎


今から明日の分も書きまぁ

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