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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
由紀夫編 「第二章 アラカザム」
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アルバイト


「いやいや」大森は楽しそうに言う。「結局はセブンのチョコ棒が一番コスパいい」

「そんなの」荒井も楽しそうに言う。「スーパーでも何処でも売っているじゃん」

「今度」三好だって楽しそうに言う。「みんなでお菓子持って来ましょうよ」


 さっきまで険悪だった雰囲気は嘘のようになくなっており、今では女子生徒三人が楽しそうにお菓子の話をしている。こうして見れば荒井も普通の女子高生なのだと実感する事が出来た。もしも荒井に友達が増えていけば、精神的に安定するのではないだろうか?


「さっきコンビニがどうって、その事を言ってたんですね」

「そうそう、新しく出た期間限定のやつを由紀夫と買いに行こうと思っていたの」

「美味しかったら教えてよ」

「私も食べてみたいです。今日の放課後ですか?」


 大森は「ダメダメ、邪魔したら」と口にしたが、言われた本人である三好は首を傾げている。大森が余計なお世話を焼いてくる度に、僕と荒井の仲が冷めていくような気がした。


「今日よ」荒井は微笑みながら言う。「もし暇なら皆で行きましょうよ。別に由紀夫だっていいわよね?」


 僕は適当に「ああ」とだけ返事をした。本当はこの姦しい空間が苦手だし、できれば荒井と二人きりの方が良かったが、僕には断ることなんて出来ない。


「嬉しいです。放課後に皆でコンビニなんて、高校生って感じでいいですね。大森さんも一緒に来てくれますよね?」

「まぁ、二人が良いなら良いけど」

「そう言えばさ」


 僕は女子三人の会話を適当に聴きながら、ずっと荒井の事を考えていた。僕は荒井がこうして普通にしているのが嬉しくて仕方ない。荒井の人生や生活に、少しでも普通が介入できればいい。僕は普通の荒井をもっと見たいのだ。普通が何かなんて解らないが、僕が言いたいのは一般的という意味だ。


 大森と荒井は性格や話し方が少し似ているから、仲良くやっていける気がするし、三好は面倒見が良くていい人なので、友達としては打って付けだろう。


「由紀夫?」と荒井は僕に言う。「ちゃんと話を聞いてる?」


 何の話をしていたのかは聞いていなかったが、僕は再び「ああ」とだけ返した。ガールズトークっていうのは、頭を使わずに行うものらしく、聞いていた筈の話が右から左へ流れていく。僕は彼女達が何を話していたのか、もう全く覚えていない。


「じゃあ、今度みんなで由紀夫のバイト先に行くわね。確か二駅先の近くよね?」

「待ってくれ、それは聞いていない」

「いいじゃない。こっちはお客様よ」

「僕のバイト先で一番古参の人が言っていたけど、今の時代は客に御も様も付かないんだ。そっちがお客様を名乗るなら、こっちはお店員様だってね」


 僕が情けなく必死に働いている所を、荒井に見られるなんて冗談じゃない。荒井は僕に「そいつは男、女?」と尋ねて来たので、僕は件の古参アルバイターが三十三歳の男だと伝えた。


「それにしても」大森は話しながらプリントの答えを写す。「あんたがコンビニでバイトしているなんて想像つかないわね。私もアルバイトしたいのだけど、コンビニってどうなの?」


「コンビニはやめといた方がいいぞ」

「どうして?」


「レシートってあるだろ?」僕は三人の顔を見て頷くのを確認する。「会計をする度にレシートが出てくる訳だけど、それを渡すとキレる客がいるし、レシートを渡さないとキレる客も居る。要するに、こっちは何をしてもキレられるんだ」


 コンビニでアルバイトをして気付いたが、人間は素晴らしくない生き物だ。共感能力が低い人間は、相手の立場になって物事を考えられないので、少しの失敗にも寛容になれない。失敗ならまだしも、偏見という価値観を押し付けて、無理やり相手を咎めようとする奴もいる。レシートがいい例だ。


「他にも、袋は入りますかと聞いただけで、要るに決まっているだろと怒鳴ってくる客もいるし、箸を付けますかと聞いただけで、手で食えって言うのかと反論してくる客もいる。勿論、手ぶらの人を見て勝手に袋を入れようとすると、ポケットからエコバッグを出して怒鳴る客もいるし、何も聞かずに箸を付ければ要らないと怒る客もいる。要するに、どうやっても客から怒られるような仕事だ。現代社会の人間はカルシウム不足だと実感するよ」


 どこにも不満をぶつける事が出来なかったせいで、今になって爆発してしまった。少し力説をしすぎたせいか、周りの女子生徒に白い目を向けられている気がする。僕は誤魔化すように「まぁ、バイトしないと定期とスマホ代を払えないから仕方ない」と最後に締めくくった。本当はもっと愚痴を語りたかったが、これ以上は我慢しておいた。


「由紀夫くんは自分で携帯代を払ったり、定期券を買ったりしているのですか?」

「そうだけど?」

「すごく偉いですね」


 三好は感心したように何度か頷いた。携帯代と言っても格安のキャリアを使っているし、電車もそこまでの距離ではないので、二つを合わせた所で大した額にはならない。突き詰めればスマホなんて要らないし、自転車で通学する事だって可能だ。無理に稼がないといけないという訳でもなく、最低でも月に一万円くらい稼げればいいと思って始めたバイトなので、こちらとしては気楽にやっている。


「偉くないだろ。勉強も部活もせずに、放課後が暇なだけだ」

「私には無理だなぁ」

「私も」

「私もです」


 女性達はバイトをするのが無理だと言いつつも、何かしらのバイトはするつもりらしく、あれが良いだとかこれが悪いだとかと話し始めた。荒井と大森も放課後は暇を持て余しているらしく、楽なバイト探している最中らしい。


 色々な事を話しながらもプリントは進んでいき、終盤に差し掛かった所で教室にソクラテス先生が入ってきた。ラコステのポロシャツを身に纏い、だらしない腹を揺らして禿げた頭を触りながら、ソクラテス先生は「遅くなって、ごめんね」と言った。


のがみま事です☺︎


この章は伏線を張りすぎていて、無駄が多く感じるでしょうし、なかなか話が全然進まないですね……

しかし、あと一話か二話で終わらせて、新しい章にいきます!!


ちゃんと進む章です!!

メイビー( ͡° ͜ʖ ͡°)

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