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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
由紀夫編 「第二章 アラカザム」
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モテる要素を持ってるモテモテ男


 三好に案内された教室は、いつも僕と荒井とソクラテス先生でご飯を食べている教室だった。普段は使われていない教室で、いつもはソクラテス先生が鍵を開けてくれるのだが、三好はその鍵を既に持っていた。


「とりあえず、皆さん机と椅子を用意してください」


 僕と荒井はいつも使っている椅子と机があったので、それをそのまま持ってきたが、三好と大森は教室の端に寄せられた机と椅子を適当に持ってきた。僕と荒井が横並びに机をくっつけると、向かいに三好と大森が横並びになって、四つの机で島が形成された。


「ねぇ」大森はそう言って横並びになった僕と荒井を交互に見やる。「ずっと気になっていたのだけど、あんた達って付き合っている訳?」


 荒井が何かを言う前に、僕が「それは補習と関係あるか?」と返したが、大森は何も聞こえなかったように同じ質問を繰り返した。どうやら逃してくれるつもりはないらしい。


僕は助け舟を求めて三好を見たが、彼女も興味深そうな視線を向けるだけで、話を逸らすのを手伝ってはくれなさそうだ。付き合っていないと正直に言うのも何故か恥ずかしいし、これ以上誤魔化すのも匂わせ野郎みたいに思われそうで怖い。


 僕が答えるのに戸惑っていると、荒井は「付き合ってないわよ」と端的に言った。はっきりとした回答には、暗に付き合うつもりもないという意味合いも含んでいそうで、僕は少しだけ傷付いてしまった。付き合っていないし、付き合うつもりもないし、付き合うわけもないのだ。


「てっきりデキているのかと思った」

「どうしてよ?」

「ほらなんか、あんた達凄く仲良いし」

「その理論で言うと、そっちは彼氏が六人くらいいそうだけど?」


「買い被りすぎ」大森は楽しそうに笑った。「私は三人くらいしかいないわよ」


 流石に冗談だとは思うが、大森なら本当に三人くらい彼氏がいてもおかしくはない。派手な見た目に短いスカート、男子から好かれるのは間違いないだろう。現に三好は「えっ」と言って驚いたが、大森は直ぐに冗談だと説明をした。どうやら大森も冗談が好きらしいので、もしかすると僕や荒井と気が合うかもしれない。


「あんた達付き合えば良いのに」


 大森からの提案に一瞬だけ時間が止まったように感じたが、それは僕だけの感覚かもしれない。動揺を隠せない僕を見て、きっと周りの皆は何かしら悟ってしまっただろう。童貞だとかと思われるくらいなら運が良い方で、荒井に恋心を抱いていると思われるのは恥ずかしすぎる。そして厄介な事に、その二つは紛れもない事実だ。


 少しだけ間が空いてから、荒井は場を誤魔化すように「友達よ」とだけ言った。


その言葉だけでも僕は救われた。てっきり友達ですらないのかと思っていたが、どうやらいつの間にか友達には昇格していたらしい。人間関係の一歩目で足踏みをしていたが、これからは堂々と荒井を友達だと思うようにしよう。


 またも大森が何かしら余計な事を言おうとしていたので、僕は遮るように「そう、友達だ」と言った。自分で口にして実感が湧いてきたが、僕と荒井は本当に友達なのだ。


 嬉しい。周りからすればただの友達かと思うかもしれないが、僕にとって荒井は大切な友達だ。そう、友達なのだ。同じクラスメイトで隣の席に座る友達。ここで肝要なのは、僕は荒井の友達であって、荒井が僕の友達であるという事だ。自他共に認める交友関係を築けたのだ。契約書だか誓約書だかに判子を押して、役所かどっかに手続きをするべきだろう。


「ですけど」三好は目を輝かせながら言う。「クラスの皆も気になっていたのですよ。殆どの人が由紀夫くんと荒井さんは付き合っていると勘違いしていますよ」


 勘違いされている事に関しては悪くない気分だ。僕なんかが荒井と付き合える訳ないのに、周りはそうではないと思っていたのは光栄だ。きっと、孤立している同士でお似合いだと思われていたのだろう。


「みんな詮索するのが好きなんだな」と僕が返すと、荒井は「詮索じゃなくて妄想よ」と言った。妄想ではなくて予想なのだと、誰かしらが言ってくれる事を期待したが、結局は僕の幻想に終わってしまった。


「でも」大森は言って僕と荒井を交互に見やる。「実際に、この先付き合ったりするかもしれないでしょ」


 女子はこういった色ボケた話が好きなのだろう。大森も三好も好奇の目を向けてくるが、荒井は全く動じていない。大森の嫌がらせに近い質問に対して、僕は否定が出来なかったし、したくもなかった。女子特有の勘の鋭さがなくとも、僕が荒井に好意を抱いているのは解ってしまうだろうし、それを知った上で大森は揶揄っているのか、もしくはアシストをしようとしているのだ。高校生からすれば恋愛はエンターテイメントでしかない。


 荒井が否定の言葉を口にするのが怖いので、僕は先に「僕なんかを好きになってくれる人なんていないだろ」と言って自虐的に誤魔化した。我ながらうまい逃げ方だ。これなら誰も傷付かないし気も使わない筈だ。少なくとも僕は傷付かない。


「そんな事ないですよ」三好は眼鏡を整えながら言う。「由紀夫くんはモテると思いますよ」


「確かに、あんた結構女子の間では人気だし」

「マジか?」

「割とね」


 大森がそう言うと三好は軽く頷いた。人生において三回やってくるといわれるモテ期の内、一回目が高校一年生の夏なのだとすれば実にいい塩梅で安牌だ。荒井は「何、にやけてるのよ」と咎めるように小さく言ったが、まさかそれが僕の事だとは思わなかった。自分でも知らない内に広角が上がっていたらしい。


 僕は出来るだけ平静を装いながら、改まって「どうしてだろうな」と言った。もっと褒めてほしいと言う気持ちもあったが、素直に好奇心が沸いてしまったのだ。どうして僕が女子からの人気を博すのかが解らない。


「そんなの知らないわよ」

「あれじゃないですか?」


 大森は僕の質問を一蹴したが三好は食いついてくれた。僕はすかさず「何だ?」と尋ねると、荒井と大森は眉をしかめて非難しているような仕草をした。


「由紀夫くんってクールじゃないですか」

「僕はクールなのか?」

「大人数で群れて騒いでいる男子生徒と違って、いつも本を読んでいるのとか格好いいですよ」


 三好はそう言いながらブレザーを脱いで椅子に掛けた。真っ白のカッターシャツは清潔で、一番上まで止められたボタンの箇所には地味なリボンが付いてあるが、僕の目には三好の姿が派手で下品に見えてしまう。胸を張らなくとも胸が張っているように見える大きな胸は、概ねの男子生徒が目を見張ること請け合いである。


「本を読んでいるのが格好良いってのは解るかも」今度は大森が言った。「私なんて絶対に本なんて読めないし。この先の人生で一冊も本を読むとは思わないわ」


「本なんて誰でも読むだろ?」

「誰も読まないわよ。少なくともこの学校にいる人はね」

「どうしてだ?」

「楽しくないし、面白くないし、文字を読むのなんて苦痛でしかない。馬鹿な高校に通っている奴が本を読むなんて、新学校に通っている奴が大麻吸っているくらい変な話ね」

「僕だって馬鹿だけど読んでいる。本を読んでいるから賢い訳でもないし、本を読まないから馬鹿って訳でもないだろう。僕は暇だから本を読んでいるだけだ」


 大森は顔を振りながら「どれだけ暇でする事がなくても、絶対に本は読まないわね」と言った。


「本を読んだくらいで格好いいと思われるのなら、本屋さんがこんなにも閉店していく訳がないだろ?」

「じゃあ、ギャップが良いんじゃない? 馬鹿なのに本を読んでいるとか?」

「それだと……」


「私達にはする事があるんでしょ?」と荒井は不機嫌に言って、僕と大森の話を止めた。どうして荒井が不機嫌なのかは解らないが、その要因は僕にあるような気がする。荒井の言葉を聞いた三好は思い出したかのように動き出した。


「そうです」三好は切り替えて皆にプリントを配った。「とりあえずはこれをやりましょう。もしも、解らない所があれば私か、由紀夫君に聞いてくださいね」


 僕がモテる根拠をもっと聞き取りたかったが、とりあえず配られたプリントを見る事にした。内容は前のテストと全く同じだったので、半分くらいは解るといった具合だ。


の神まことdえす☺︎


伏線です★

普段、絶対に本を読まない人が、どういう状況になったら読むと思いますか?


ヒントというより、答えは、スピンとカバーがない本を読みます……

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