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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
由紀夫編 「第二章 アラカザム」
20/34

値頃感


 昼休みが始まると学校の熱は一気に上がる。あちこちから大仰な笑い声がけたたましく湧き上がり、我こそが一番の青春遊戯者だと主張し始める。一人一人が青春を煽動する活動家のようだ。


「行きましょう」と荒井は言った。騒がしい教室の中でも、彼女の声は透き通っていて美しい。荒井の声を聞けば周りの雑音が中和されて、自分も青春を謳歌しているのかと勘違いしてしまう。


「せっかくだから僕も食堂で何か買うよ」


 鞄から財布を取り出す僕に対して、荒井は「それなら奢ってあげるわ」と言った。僕は財布を尻ポケットに入れてから、しっかりと荒井に向き合った。


「奢られるのは嫌いなんだ」

「じゃあ、奢るのは?」


 僕は教室の前扉へと向かいながら、荒井に「もっと、嫌いだ」と返しておいた。


 僕と荒井が連なって廊下を歩いていると、周りにいる名前も知らない生徒達からの視線を感じた。僕と荒井が釣り合っていないせいだろう。美人の隣にはイケメンが居て然るべきだ。


「本当にこっちなの?」

「恐らくは」


 気がつけば僕が少し前を歩いており、荒井がそれに付いて来ているような形になっていた。荒井は周りからの視線に慣れているのか平然を保っていたが、僕は少しだけ落ち着かなかった。僕が周りを気にし過ぎているだけなのかもしれない。最近は教室で空気のように扱われるようになった僕達でも、廊下へ一歩踏み出せば物珍しい奴等になってしまう。


「恐らくはねぇ」

「違うと思うのか?」

「違うとも合っているとも思わないわよ。ただ、由紀夫が自信ありげに歩いているから、何かしらの根拠があるのかなって勘違いしただけ」


「あそこの女子を見ろ」僕はそう言って前に歩いている二人組の生徒を指さした。「いかにも、これから食堂でランチしますって感じじゃないか。手には大量の小銭が入っていそうなポーチを持っているし、きっと『ぉ昼にぃ何ぉ〜食べましょ〜かしらぁ』なんて事を話ししているに違いない」


 荒井は僕の裏声を聞いて冷たい目を向けた。もともと冷たい一対の目を持っている癖に、更に温度を下げる事が出来るらしい。荒井がバナナに目を向けさえすれば、それで釘を打つ事だって可能だし、薔薇を見つめれば粉々に粉砕する事が出来るだろう。


「そんな馬鹿な声を出す女子高生は絶滅危惧種よ」

「じゃあ、どんな感じで何て言っているんだ?」

「マジであのパパキモいんだけど。勘違いしてホテルに誘ってくるし、マジありえない。死ねよ」

「日本はそこまで腐っているのか? もっと、未来のある女子高生にしてくれ」

「今日の日経平均株価を鑑みるにぃ、値頃感から買いが増えているのは自律反発狙いかしらねぇ」


 僕が大仰に「丁度いい女子高生は何処だ」と言ってあげると、荒井は嬉しそうな顔を浮かべた。笑っているというよりは口角を釣り上げているという感じだ。


 荒井と馬鹿げた会話をしていると、前を歩く二人の女子生徒が急に直角方向へ曲がった。その先にあったのは女子トイレだった。荒井は「まだ付いていく?」と僕を見て言った。真剣な顔で言う荒井を見て、素直に謝った方が文句を言われないだろうと悟った。


「悪かったよ」

「食堂への近道かもしれないわよ。とりあえず入ってみたら?」


「僕を犯罪者にさせないでくれ」とりあえずトイレを通り過ぎて適当に歩みを進めた。「大体、トイレへ行くだけなのに、なんで小さな財布みたいなのを持ち歩くんだよ。ややこしい事をしていたあの女子生徒を責めてくれ。僕は悪くない」


「由紀夫って女の子の事を何も知らないのね」

「知っているさ。どうせトイレで化粧でもするんだろ?」


 荒井は僕の隣を歩きながら顔をこちらに向けた。整った顔は精一杯歪められており、僕の推察を無言で非難している。綺麗な眉は片方だけ上げられて、薄い唇はへの字になっており、どれだけ自力で歪めても、荒井は相も変わらず可愛いままだ。


「なんだよ?」


 荒井は頭を軽く横に振って、静かに「なんでもないわ」と返したが、何かしらあるのは明白だ。何かあるくせに何もないと言われるのは、何もない時に何かあると言われるのと同じくらい不愉快だ。


「言ってくれよ」

「何をかしら?」

「さっき荒井が浮かべた表情の意味だ」

「由紀夫があまりにも女の子を解っていなかったからよ」

「どう言う意味だ?」


「化粧ポーチはもっと大きいのよ」と荒井は言った。「って言うのは、まぁ半分冗談だとして、私が言いたいのは少し違う。そうね、私達くらいの女の子は確かに日経の平均は知らないけど、月経の平均なら調べているものなのよ」


 株価の話に戻ってきた訳だが、僕は未だに意味が解らないままだ。直接的に答えている訳ではないだろうから、何かしらの比喩だか冗談の筈だが、僕の頭では全く理解できない。


「どういう事だよ?」

「そのままよ」

「あいつらはトイレで経済新聞でも読んでいるのか?」


「そんな事よりも」と荒井は改まって言う。「このままだと、本当に食堂が何処か解らないまま昼休みを終えてしまうわ。この学校って意外と広いわよね」


 とりあえず僕は「誰かに聞くしかない」と返した。さっきの話が未だ腑に落ちていないが、とりあえずは食堂の発見を優先すべきだ。株価の話は後でゆっくりと整理して、飯でも食べながら荒井に聞けばいい。


 近くに一人で歩いている女子生徒を見つけたので、話し掛ける為に近付こうとしたが、荒井は僕の腕を急に掴んで阻止した。どうしたのかと尋ねてみると、荒井は「食堂の場所は解ったわ」とだけ言った。


「本当に解ったのか?」

「ええ」

「どうやって?」


 荒井は鼻を鳴らしながら「匂いよ」とだけ返した。どちらかと言えば猫のような女性だと思っていたが、どうやら犬のような一面も持ち合わせているらしい。ついさっきまで解らないと言っていた癖に、今の荒井は自身ありげな顔を浮かべている。踵を返して歩き出す荒井に、僕は猜疑心を隠しながら付いて行く事にした。


野神まことでせう☺︎


まぁ〜、読まれていないですね!!

無理して毎日投稿する意味はないですね……


とはいえ、十万字まではがんばります★

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