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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
由紀夫編 「第二章 アラカザム」
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対照的な二人


  一時間目の授業が終わるや否や、一人の女子生徒が荒井の元にやってきた。名前は解らないが、膝を全く出さないスカートを履いて、暑いのにブレザーを着ている彼女は、確かこのクラスの委員長だった筈だ。彼女は金色の小さい腕時計が巻かれた手で、寝ている荒井の肩を叩いて「荒井さん」と優しく言った。


 荒井は体をびくつかせてから、照れを隠すように「びっくりした」と大袈裟に言った。僕は本を読むふりをしながら、二人を横目で伺っている。盗み聞きをするつもりはないが、荒井が僕以外の生徒から話しかけられているのを初めて見たので、少しだけ興味があるのも事実だ。


「ごめんなさい。驚かすつもりは無かったのですけど……」

「私が勝手に驚いただけよ」

「ごめんなさい……」

「というよりも、あんたは誰?」

「三好です」

「スミヨシ?」

「ミ、ヨ、シ、です。私は三好美久と言います」


 二人の間に少しだけ沈黙が生まれる。どちらもコミュニケーション能力に長けていないらしく、互いの間合いを計りかねている。荒井は「何の用?」と尋ねて、座ったまま足と手を真っ直ぐに伸ばした。座ったまま寝たせいで体が固まっていたのだろう。伸びをする荒井は気持ちよさそうだ。


「荒井さん、この前のテストで欠点でしたよね」

「そうなの?」


「そうです」と三好は自信満々に言った。「このクラスで欠点だったのは荒井さんと大森さんだけでした。今日の放課後に補習という形で提出物をやりたいのですが、問題ないですかね?」


 荒井は「問題しかないわよ」と強めに言った。三好は明らかに困惑した表情を見せており、度のきつそうな黒縁眼鏡が少しずれた。


「ですけど……」と三好は小さく言う。「私は先生に言われて来たのです。一任されて来たのです。もし課題の提出物をやらなければ、留年するかもしれないから、補習で荒井さんと大森さんを見てやって欲しいって言われたのです。夏休みに補習を受けたくないなら、今の内から放課後に残って、提出物で内申点を稼ごうって、先生に……」


 泣きそうな顔で捲し立てる三好を見て、僕は少しだけ気の毒になった。彼女だって教師に頼まれて仕方なくやっているだけで、自ら進んでやっている訳ではないだろう。担任の教師が直接荒井に言えばいいものの、恐らくは口論を避けるために三好を利用したのだ。


「スミヨシが何を言いたいのか解らないわ」

「三好です……」

「名前は解ったから、何が言いたいのかはっきりして頂戴。私、寝起きで頭が回らないのよ」


「ですから」と三好は更に小さく言う。「今日の放課後、欠点の方達に出された課題を一緒にやらないといけなくて……」


 荒井は首を傾げて「どうして?」と言った。飄々とする荒井と恐々とする三好を見るのは、活字なんかよりも面白みがある。荒井と三好は見た目も中身も対照的な人間だ。さらさらとして内側に纏まる細くて短い髪と、外側にうねりながらボリュームを出す長い髪。一度見たら忘れられない程に美しい顔と、何度見ても覚えられ無さそうな地味な顔。スレンダーすぎて殆ど壁の胸と、肉付きが良くて豊満な胸。堂々と悪い事をする図太さと、おどおどと良い事をする繊細さ。この二人は外見と内面が真逆すぎて仲良くなれないだろう。


「今日じゃなければ、明日か明後日でも良いのですけど、大森さんは今日ならいいって……」

「私は今日も明日も嫌なのだけど?」

「ですけど、放課後に残ってもらわないと……」

「私は残りたくないと言っているのだけど?」


 困っている三好に助け舟を出そうと思い、僕は読んでもいない本を閉じて二人に体を向けた。僕が椅子の背もたれを脇腹にくっつけると、二人は僕の方を何も言わずに見た。三好の目は明らかに僕の助けを求めている。


「要するに」僕は当たり前のように会話へ入っていく。「荒井は放課後に残らないと留年になるから、残らないと言う選択肢は残っていないと言う事だ。学校に残りたいなら放課後に残るしかない」


 荒井が僕と三好を交互に見やった。三好は無言で何度か顔を縦に振って、僕が言った事に対して肯定している。荒井は顔を天井に向けて「残りたくないなぁ」と呟いた。恐らくは学校にも放課後にも残りたくないのだろう。


「良いじゃないか、少し放課後に残るくらい」

「少しなの?」


 期待を込めた荒井の質問に対して、三好は「課題が終われば帰れます」と返したが、どれくらいの時間を要するのかは言わなかった。


「由紀夫が私の代わりに残ってよ」

「変われるなら変わってやりたさ」

「冗談よ」


 荒井は天井に向けていた顔を三好に戻して、気怠げに「解ったわ」と言った。明らかに安堵の色を見せる三好は、何故か感謝を述べてから自席へと逃げるように戻った。荒井の気が変わらない内に逃げたのだろう。


「前のテストでは何点だったんだ?」

「忘れちゃったわ」

「荒井は意外とお馬鹿さんなんだな」

「この高校に馬鹿じゃない人なんているの?」


 荒井の言う通りだろう。名前を書けば受かるような高校に来ている時点で、頭の良い奴なんて一人も居ない。僕は中学生の頃にクラスで一番の馬鹿だったが、この高校で受けるテストでは平均程度の点数を取れる。具体的に言えば、中学の頃はテストで一桁台しか取れなかったが、この高校に入ってからは五十点以上取れるようになった。僕が高校で受けた一番のカルチャーショックだ。


「確かに」僕は深く頷いた。「僕以外の奴はみんな馬鹿かもしれない。賢いのは僕だけかもしれない」


「間違いないわ」と荒井は返す。「きっと、由紀夫以上に賢い人はいないわね。貴方は天才よ。本気を出せばノーベル賞だって取れるんじゃない?」


「ノーベル賞くらい本気を出さなくても取れるさ」

「ノーベル文学賞?」

「村上春樹より先にとって、ハルキストを煽ってやる」

「楽しみにしているわ」


 僕は鞄から次の授業で使う教科書を取り出した。僕の得意な英語だ。全てのアルファベットを順番通りに書けるし、ローマ字だって読めるので、これなら次のテストでも欠点は免れるだろう。


のがmいまことで☺︎


パンについているシールを集めています★

あと二枚です!!

あぶねぇ〜です!!

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