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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
カズ編 「初めての友達」
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未来の友達


 家に帰るとママは窓際でタバコを吸っていた。私とヒトを交互に見てから煙を吐き出し、ママは「どうだったの?」と首を傾げながら尋ねた。


 私が何かを答えるよりも早く、ヒトは「寿司を買ってきた」と言って話を逸らした。ヒトは居間にあるローテーブルにパック寿司をひろげ、少し早めな晩御飯の準備を始めた。


「で、どうだったの?」


 ママの質問に答える者は居なかった。ヒトは台所と居間を忙しそうに行き来して、私は何を答えればいいのか解らないので黙ったままだ。


「なんで無視するのよ」ママは窓際から私達に話しかける。「これは確実にいじめね。先生に言いつけてやるわ」


「さぁ」ヒトはママを無視してテーブルの前に座った。「とりあえずは寿司を食べようじゃないか。今の俺は寿司を食う為にしか口を開けない」


 私達は狭い居間にある小さなテーブルを囲み、お寿司を我先にと食べ始めた。コップにはお酒が入っていて、大人たちは美味しそうにアルコール飲む。私のコップには緑茶が入っているが、本当は私もお酒を飲んでみたかった。


「それで」ママは改まって言った。「面談はどうだったのよ?」


 私が何かを言うべきなのか、それともヒトが何かを伝えるのかを探る為、ヒトの目を見ると互いの視線が交差した。そんな私達を見たママは、にやけながら「何かあったのでしょ?」と尋ねた。お寿司のネタに加えて話のネタも求めているらしい。特上のネタを仕入れる職人みたいな顔を浮かべるママに対して、私は肩をすくめて返した。


「そうそう」ヒトは海老の寿司を箸で取りながら言った。「確か先生がママに何かを伝えてくれと言っていたな」


「先生は何て?」

「友愛礼讃と友人至上主義についてだったかな。あと、次はママが面談に来てくださいってさ」


「何よそれ」ママは私とヒトを交互に見やる。「もう少し具体的に解りやすく言って頂戴。それに、私が行こうとパパが行こうとどっちだっていいじゃない。もしかして、パパは何かをやらかしたの?」


 私は曖昧に頷きヒトは苦笑いを浮かべる。ママの詰問に耐えられず、私とヒトは面談での出来事を話した。先生がどんな事を言ったとか、ヒトがどんな事を返したとか、私がどれだけ大人しかったとか、その手の事を詳細に伝えると、ママはお寿司を食べるのを忘れる程に大爆笑をした。


「パパは本当に面白いわね。最高よ」

「ママはそう言ってくれても、カズには申し訳ない事をした」


「別にいいじゃない」ママはそう言って私の頭を雑に撫でた。「カズだってそんなので怒ったりしないわよ。この子はね、とてもよくできた賢い子なの」


 私は乱れた髪を整えながら、全ての元凶はママにあると内心では怒っている。ヒトに怒りはしないが、ママになら怒ってもいいだろうが、本人は怒られる可能性など微塵も感じていないらしい。


「パパはどうしてムキになったのかしらね?」


「どうしてだろう」ヒトは他人事のように首を傾げた。「きっと、学校や教師が大嫌いだった事を忘れていたからだ」


 私は疑問に思っている事を口にするか迷っていた。言うのなら今しか無いだろうと思い、小さく「ヒトには本当に友達が居ないの?」と聞いた。もしかすると怒られるかもしれないと考えていたが、ヒトは私を見て微笑んで見せた。


「一人も居ないな」

「どうして?」

「俺がいい奴だからだ。優しくていい奴は友達という他人から利用されるのは明白だ。いい奴でタフで賢い奴は友達が居ないんだ。それが俺で、俺がそれ」

「ヒトは確かにそうかもね」

「カズだってそうだ。いい奴で優しくてタフで賢い。だから友達が居ないんだな。それに、友達が多い奴は嫌味な人間が多いだろう? あいつらは互いに牽制しあって馴れ合っているだけさ。カズはそんな事をしなくていい」

「ヒトは子供の頃から友達が居ないの?」

「思い返せばそうだな。俺はカズみたいに賢くなかったから、友達だと勘違いしていた奴は何人か居たが、今そいつらを他人にしか感じないって事は、やっぱし俺には友達が居なかったのだろう」


 私とヒトが友達について話していると、ママは「カズがさっさと友達を作ればいいだけの話よ」と割って入った。確かに私は簡単な話を複雑にしているだけだ。


「ママだって友達いないじゃん」と私は言った。まるで自分が反抗期とやらに突入した気がしたが、実際は退化してイヤイヤ期に戻ったのだ。


「私はいいのよ。友達なんていらないわ」

「どうして?」

「私にはカズとパパが居るじゃない。それだけで充分なのよ」


「それなら私だって……」と口走ってから言葉を詰まらせた。私にだってママとヒトが居るから充分だと主張しようとしたが、それを言っては駄目だと気付いたのだ。いつか私も親から離れなければならないのだから。


 ママは片方の眉を上げて、試すように「私だって?」と言った。気の利いた返しを見つける為に、私は目だけを使って周りを探してみたが、近くには読み終わった本しかなかった。


「私だって、ヘミングウェイと三島由紀夫が居る」

「あら、そんなにも友達が居るのなら。今度家にでも連れてきなさいよ。ママも会ってみたいわ」


 皮肉を言うママに向かって、私は「いつか合わせる」とだけ返しておいた。ママやヒトだって友達が居なくても日々を楽しそうに過ごしているのだから、私だって友達が居なくても楽しく過ごせるはずだ。それに、ママはヒトの事をパパだと言っているが、私からすればヒトは友達みたいなものだ。


「俺にもカズの友達に会わせてくれよ」

「パパは駄目よ」

「どうして?」

「カズの友達だろうと、女とパパが話をしていたら、私が嫉妬しちゃうじゃない」


 ヒトは大袈裟に笑ったが、ママの目は少しだけ本気だった。ママが「男の友達ならパパと会ってもいいわよ」と変な事を言ったが、それに対してはヒトが大反対をした。どうやらヒトは男女間の交友関係には懐疑的らしい。


 もしも、この先に私やママやヒトと同じように、友達が一人も居ない変な人が居たら、その人と仲良くしてみるのも悪くないだろう。きっと、その人も私やママやヒトと似ていて、少し捻くれて皮肉が好きな性格なのだろうとか、まだ会ったこともない架空の友達を妄想するのは楽しかった。いや、架空の友達ではなくて未来の友達だ。人生は長く続くのだから、きっといつかは私にも友達ができるだろう。



(了)


の神マコトでさ☺︎


この章はお終いです!!

次からは由紀夫編の二章に戻ります◎

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