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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
カズ編 「初めての友達」
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有象と無象


 私の前に行っている面談がまだ終わっていないらしく、教室の閉じられた扉からは大人の笑い声が聞こえる。よそよそしい笑い声だけでも、普段の先生とは雰囲気が違うのを感じ取れるし、きっといま面談している誰かの親も普段とは違う笑い方なのだろう。


 大人の持つ二面性に慣れていない私にとっては、ヒトやママのような大人の方が信用できるが、そっちの方が世間から見れば異端なのは解っている。大人は裏と表があって然るべきなのだ。


 私とヒトは廊下に並べられた椅子へ横並びで座り、順番がくるのを待った。私達の近くにはクラスメイトの有象無象が二人いて、こちらを見てこそこそと話している。有象の親が先生と二人で面談しており、無象の方が有象の友達としての付き添いといった所だろう。


 女子は一人で待つ事も許されないものだ。有象の付き添いに利用されている無象には同情する。


「こんにちは」とヒトは言った。もちろん有象無象に言ったのだが、二人はヒトを一瞥しただけで無視した。有象無象は私達に聞こえないように何かを耳打ちした後、こちらを見て小さく笑った。それが悪口なのは誰にでも見当が付くだろう。


 ヒトは空気を読まずに「カズの友達?」と言った。有象無象に言ったのだろうが、返事がないのでヒトは私の顔を見た。


「同じクラスメイト」と私が小声で答えると、ヒトは何度も頷いた。


 有象無象はこちらを横目で見て笑っている。何が面白いのかは理解できないが、私のようなクラスで浮いている人間が誰かと話しているのがおかしいのだ。それに、有象無象は私に父親が居ない事も知っているのだろう。もしかするとカズっていうあだ名がおかしいのかもしれない。私には笑われる要素が多過ぎる。


「学校は楽しい?」とヒトは言ったが、返事が返ってくることはない。


 ヒトがしつこく有象無象に話しかけるので、私は彼の脇腹を肘で突いた。それでもヒトは「カズはクラスでどんな子?」と更に話しかける。


「あのぉ」と有象が言った。「カズって誰ですか? というより、あなたって荒井さんのお父さんですか?」


 有象の質問に対して、無象は「やめなよぉ」と小さく咎めたが、二人の顔には嫌味な笑顔が張り付いて離れていない。嫌な奴は嫌な質問をするものだ。


「便宜上、父親を名乗ろうとは思ってるけど、どう思う?」


 有象は首を傾げて「どうって?」と言った。無象の方も同じように首を傾げている。有象無象が自分の意見を持っていないのではなく、質問の意味が解っていないのだろう。私だってヒトが何を尋ねているのか解らない。


「君たちの担任は怖い先生かな?」

「怖くないですよ」


「それなら、堂々と父親を名乗ってみるか」とヒトは呟いた。「まぁ、君達を見ていて、先生は優しい人なのだろうとは予想出来たけどな。ほんと、先生は良い人そうだ」


 ヒトは「良い人」という言葉を強調したが、それが何を意味するのか解らない。ヒトはいつも意味深な事を言うので、強めた言葉には何かしらの意味があるだろう。


「きっと、君達のお父さんやお母さんと同じで優しいんだろう。世の中は良い人で溢れている」


 ヒトの言いたいことが理解できず、全員の間に沈黙の瞬間が訪れたが、濃縮された気不味い空気は、すぐに教室の前扉が開く音によって四散した。教室の中からは中年の女性が二人出てきた。


 最初に出てきた女性は清潔感のある白のピンタックブラウスを着て、手には高そうなコートと鞄を持っている。彼女が名前を呼ぶと、有象の方が「ママ」と言って駆け出した。


 有象のママは出来過ぎていた。ママのモデルケースみたいな見た目をしている。理想のママを無理やり当て嵌めているので、どこか偽物じみており、私には雇われた役者のママみたいに見えた。


 有象のママはこちらを見て軽く会釈し、有象無象と共に帰って行った。きっと、シルバニアファミリーみたいな家に帰って、ごっこ遊びのような幸せの日常を送るのだろう。


「えっと」と残された女性が言った。彼女は担任の先生だ。いつもはジャージを着ているが、今日はタイトな黒のパンツスーツを着ている。正直に言えばあまり似合っていないが、ヒトのスーツ姿だって似合っていないので、ある意味この二人はお似合いなのかもしれない。


「和ちゃんはお母さんが来るのじゃなかったっけ?」


 普段の先生は私の事を荒井と呼ぶが、今日は下の名前でちゃん付けだ。その事に動揺して黙っていると、ヒトが「母親の代わりに私が来させて頂きました」と返事した。


 ヒトが自分の一人称を「私」と言った事に違和感を覚える。彼は初めて会った時に、自分で敬語が使えないと言っていたが、そんなのは大人の言う冗談でしかなかったのだ。やはりヒトも立派な大人らしい。


 先生は戸惑いながらも、ヒトに「とりあえずどうぞ」と言って教室へ案内した。クラスの問題児が連れてきた、いない筈の父親に困惑しているのが見て取れる。


 ヒトは私にだけ聞こえるように「行ってきマンモス」と言い残して、教室へ入ってドアを優しく閉めた。大人二人が私について何を話すのかは謎だが、きっと碌でも無いことを言うのだ。クラスに馴染めていないだとか、いつも本を読んでいて内気だとか、集団行動が苦手だとか、体育の成績が悪いだとか、授業に対して活発的ではないだとか、私にとってはどうしようもないことを、大人達はどうにかしようと躍起になる。


のっがみまっことです☺︎


喉が痛い時はハチミツですね★

ハチミツはとても偉いです!!

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