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日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
カズ編 「初めての友達」
14/34

命取りな足取り


 校門が見える廊下の窓に寄り掛かり、本を読みながらヒトかママが来るのを待った。外は風が強く寒いので、恐らくママは家から出ないだろう。ママは嫌な事からは逃げる人間だし、一度逃げたからには逃げ切ろうとする性格だ。天気と気分が優れなければ、一歩も家からは出ないだろうし、ママの気分は秋の空や山の天気なんかよりも不安定だ。


 図書室で借りた世界文学全集は重くて、読んでいるだけで腕が鍛えられそうな代物だ。内容は大して面白くはないが、異国の情景を想像しながら読むのは楽しかった。小説の中に登場する人間は、賢くてタフでユーモアがある。現実とは大違いだ。


 私は活字の世界と現実の世界を交互に見続けた。現実の世界よりは活字の方が鮮やかに見える。外や心が曇っているからだろう。白黒の世界と白黒の活字は今の私に丁度いい。鮮やかな色が複雑に混ざりすぎると、絵の具と同じで真っ黒になってしまうだろう。一度心が黒くなると、きっとママのような弱い人間になる。私は誰よりもタフでないといけない。


 変な事を考えながら校門を眺めていると、私は「あっ」と思わず声に出した。廊下を歩いていた有象無象が私の方を一瞥したが、特に何かを気に留める事は無かった。私は読んでいる頁にスピンを挟み、校門で怪しく彷徨うヒトの元へ向かった。


「よかった」ヒトは私を見るなり言った。「勝手に入っていいのか解らないし、なんか不審者と間違われてる気もするし、どうしていいのか解らなくてさ。危ないところだった。さすがカズやで」


 何が流石なのかは解らないが、確かに私が駆けつけなければ、警察を呼ばれてもおかしくはなかっただろう。


「どうしたのそれ?」


 私はヒトを指差した。いつもきているような小汚い服ではなく、ヒトは本当にスーツを着てきたのだ。髪の毛もいつもより纏っており、髭は全て剃られている。ヒトを校内から見た時、最初は別人だと思っていたが、怪しすぎる行動を観察している内に、その不審者こそが待っていた人だと気付いたのだ。私が思わず声を上げてしまうのも仕方なかっただろう。


「ディオールだぜ」

「高いやつなの?」

「見ての通りさ」


 見ての通りで言うならば、全然高いスーツとは思えなかった。ヒトが着ているから安く見えるのか、ハイブランドのマークに金が掛かっているだけで、もともと安い生地なのかは解らない。


 ヒトはスーツをひけらかすように襟を両手で触り、私に向かって「どうよ?」と言った。


「コスプレにしては似合っているよ」


「おいおい」ヒトは変な柄のネクタイを締め直した。「コスプレじゃなくて正装だ正装。社会人たるもの決めるときは決めるんだ。こと学校という社会においては、舐められたら終わりだからな」


 あまり決まっていない台詞を口にするヒトに、私は不安を抱擁せずにはいられなかった。舐められないように必死な人間は、往々にして周りから舐められるものだ。


 私は深い溜息をこぼした。こぼれたというよりは、わざとこぼしたのだ。ヒトは「溜息をすると幸せが逃げていくぞ」と迷信じみた事を言って、私の頭を軽く撫でた。


「まだ時間は早いかもしれないけど、とりあえず教室の前まで行こう」

「そうだな」

「先生に変な事を言わないでね」


「心配するな」ヒトは私に付いて来ながら言った。「俺なんかよりも教師の方が変な奴だ。俺は今までまともな教師を見た事がない。変な事を言う変な奴、それが教師で教師がそれだ」


「私の担任はまともだよ」

「じゃあ、まともなふりをした変な奴だ。一番変なタイプだな」


 私は教室への道中半ばで立ち止まった。ヒトにしっかりと伝えておかないと、変な事になりそうで怖い。ヒトは優しいし悪い人ではないが、私が思い浮かべる大人とは程遠い存在だ。


「何にしても」私は下からヒトの顔を見つめる。「絶対に変な事は言わないでよね。当たり障りのない事だけを言っていればいいから」


 ヒトは私に笑顔と立てた親指を見せつけて、元気に「任して」とだけ言った。ヒトの口からはアルコールの臭いがする。私はもう一度くらい溜息を吐いてやろうかとも考えたが、演技がかった自分にも辟易としていたので我慢した。


「早く行こう」


 ヒトは楽しそうに言ったので、少し危機感を与える為に、私は「お願いね」ともう一度念を押してから教室へ向かった。私の歩き出す足は重く暗い。深海を歩く気分だ。暗く重く息苦しい。


のがまこで☺︎


エピソードタイトルが適当すぎますね……

まぁ、ノリです!!のり!!

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