表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常煽動劇場  作者: 野神 真琴
カズ編 「初めての友達」
13/34

健全ではなくとも健康だ


 最近の朝は台所の物音で目が覚める。今日もヒトが朝食を作っているのだろう。ヒトと出会ってから一ヶ月以上が経過したが、彼は毎朝家にやってきて朝食を作る。私とママの分、そしてヒト自身の分の朝食だ。


 ヒトは朝に来て夜には帰るので、決して家には泊まらないが、代わりにママがヒトを家に送ると称して帰ってこない日が多くなった。それでもヒトは毎朝、私が起きる前に来て朝食を作り、学校が終わって暫くすれば晩飯も作ってくれた。これまでの生活には朝ごはんを食べるという習慣なんて無かったが、ヒトと知り合ってから一日三食とるようになった。


 私はまだまだ眠たかったが、惰眠より朝食の魅力が上回ったので、布団から起き上がった。隣ではママがだらしなく寝ており、パジャマの代わりに着ているドレスは、下着を見せ付けるように捲れ上がっている。ママはこの歳になってもお姫様に憧れているのだ。


 もしもママがどこかの姫だとしても、こんなに大きく口を開けて眠っていれば、王子様でも流石にキスは出来ないだろう。触れなくとも見た目で解るくらい生地が安っぽいドレス、新体操のオリンピックに出場している夢を見たかのような寝相、大型動物のような鼾、どうやってもママをお姫様とは言い表せない。


 私はママを起こさないで寝室の襖を開け、居間を通って台所へ向かった。


「おはよう」と私はヒトに言った。狭い台所はガスコンロのお陰で暖かく、この前までは台所全体が冷蔵庫のようだったのが嘘みたいだ


 台所には英語で読めない調味料が綺麗に並べられている。これらの大袈裟な調味料は全てヒトが持って来たやつだ。彼は片付けと料理が好きらしく、天職が主夫のような人間だ。


 ずっと散らかっていた我が家は綺麗に整頓され、ずっと出来合いものを食べていた私は、今や雑多な料理に溺愛されている。


「最近は起こさなくても起きるな」とヒトは喋りながらも、手際良く料理を作っている。ママは滅多に料理をしないので、今では台所がヒトの部屋のようになっていた。


「台所がうるさいから目が覚めるの」

「素敵な目覚め方だ」


 確かに悪くない目覚ましだ。ヒトが来るようになってから、早寝早起きになったし、自分がどんどん健康になっていく気がする。健全ではなくとも健康だとは思う。


 私が「いつも、朝ごはんをありがとう」と言うと、ヒトは嬉しそうに頷いた。ヒトの笑顔を見ると感謝のしがいがあるから、ついつい私も過剰に感謝を伝えてしまう。ヒトの無邪気な笑顔が好きだ。


「ママはまだ寝ている?」

「相変わらず」


「それじゃあ」ヒトはシンクで手を洗った。「今から俺がママを起こしてくるから、朝ごはんを居間に運んどいてくれ」


 私が頷くとヒトはママが寝ている寝室へ向かった。私が台所と居間を往復している間、寝室からはピンク色の笑い声が聞こえた。お姫様を王子様が起こしたのだ。ママがお姫様でヒトが王子様なら、私は一体何なのだろうといつも考えてしまう。




 エスニックな朝食を食べ終えた後、私は鞄に教科書を詰め込んでいた。ママとヒトは食後のホットワインを優雅に飲んでいるが、私はそろそろ学校へ向かわないといけない。何度も時間割を確認して、忘れ物をしないようにするのが朝の日課だ。忘れた教科書を見せてくれる友人がいないのだから、私は絶対に何かを忘れてはならない。


「今日だよな?」

「何がよ?」


「ママじゃなくて」ヒトは準備をしている私を見やる。「確か今日の夕方だったよな?」


 私は準備をする手を止めた。どうやらヒトは今日の放課後に行われる面談の事を言っているらしい。初めて会った時に一度だけ話した面談の事を、ヒトは覚えていたのだ。私だって今日が面談なのは覚えてはいたが、どうせママは来ないだろうし、ヒトもその事は忘れているだろうと思っていた。


「今日の夕方がどうしたのよ?」ママは不満そうに首を傾げた。「一応言っておくけど、私の誕生日はまだまだ先よ」


「今日は十五日だ」

「昨日が十四日だって事は解ったわ。何月かは解らないけど」

「十一月十五日。今日はカズの三者面談だろ?」


「ああ」ママはホットワインを一口飲んだ。「勿論、覚えていたわ。明日は十六日だから、今日はカズの面談がある日ね。カズには悪いのだけど、今日の私は外に出られそうにないのよ。ごめんね。先生には適当に言っといて頂戴」


 私は止めていた手を動かして、ママに「解っている」とだけ言った。教科書を鞄に詰め込み、そろそろ家を出ようかと思った時に、ヒトが私を呼び止める。


「十六時くらいでいいか?」


「何が?」と私はとぼけてみたが、ヒトが面談に来ようとしているのはわかっている。


「何って何が?」ヒトは私よりもとぼけてみせた。


「学校の場所は解るの?」

「プロバブリー」


 ヒトが言った返事の意味が解らなかったので、私は面談の案内が書かれた紙を手渡した。ヒトはそれを受け取って、微笑みながら「ママが無理だとしても、俺は行くから」と言った。ヒトが来るにせよママが来ないにせよ、先生には説明が必要だろうが、私には上手く説明が出来る気がしない。


野神真琴でさ☺︎


実は後書きを書くのが好きです★

後書き……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ