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日常の奇妙な短編集。

ベランダの男

作者: 三春星秋

私の隣人はベランダでしか話さない。

団地の五階、一番奥に住む私。その左隣で一方的に話してかけてくる男が居た。顔は見たことないので声で判断すること以外、情報がない。

朝にゴミを捨てる時も、会社に向かう時も会わないこの男。何故か無性に気になってしまう。

仕事を終えて家に帰り、ベランダで煙草(たばこ)を吸っていく。紫色とオレンジ色が()ざって今日はやけに綺麗な空だった。

「今日、上司に怒られたんだよね」

始まった。


「そうなんですか?」と簡単な相槌(あいづち)を打つ。


「そうなんだよ」

「ただ、座って指示してるだけで上司面してくるからムカつくんだよね〜」


「大変ですね、どんな職業をされてますか?」


「そんなことより煙草、辞めた方が良いんじゃないか?」

質問を質問で返された。

「えっあっそうですね〜」


「健康にも悪いし最近、値上げしているしお金の無駄だよ」


「そうです…ね、考えときます」


「いや、考えるんじゃなくて辞めろって言ってんの!」

「お金の無駄だから」


このままじゃ(らち)が明かないので嘘を言う。

「すみません!、電話が鳴っているので」

窓とカーテンを勢いよく閉めた。


朝が来ていつも通りゴミ捨てに行こうと思って玄関の扉を開けると、隣の扉から六十代の女性が出てきて鉢合わせた。


「おはようございます」


「おはようございます」

オウム返しのように挨拶を交わす。

「もしかしてお母様ですか?」と尋ねると漫画みたいに目を丸くする。

「息子のお知り合いですか?」


「はい、一応」


「そうなんですね、息子に何か用ですか?」


「あっ…いえ、用はないです、ただ昨日ベランダで仕事の愚痴を聞いたので…」


「あの子が…?」


「はい」


「そんな訳ないです、あの子は仕事してません無職です。」


「嘘って言うことですか?」


「そうだと思いますよ」

(ろく)に働かない(くせ)に、ギャンブルに()まってもう大変ですよ~」


「そうなんですか…」


男と会話したことを思い出す。


ーそんなことより煙草、辞めた方が良いんじゃないか?ー


ー健康にも悪いし最近、値上げしているしお金の無駄だよ。ー


ーいや、考えるんじゃなくて辞めろって言ってんの!ー

ーお金の無駄だから。ー


「健康に悪いのは百も承知なんだよ!ギャンブルやっているお前に言われたくない!」


小さなプライドが育った。

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