猫の待ちぼうけ
頑張ります
俺は猫だ。昔は飼われていたが、今はこうして変わりのない道路をただ眺める野良猫をしている。
俺のもとには時々、物が運ばれてくる。ボロボロの野良猫を哀れにでも思ったのだろう。猫缶や水などはありがたいが、流石に花束はやりすぎな気がする。
長いことずっと同じとこにいると、たまに話しかけられる。
すると早速、男が話しかけてきた。見た目は30代くらいの人だ。
「やあ猫さん、ちょっと話を聞いてくれるかい?」
そういうと、男は俺の隣に座り、語り始めた。
「俺は銀行マンで仕事ばかりだったんだ。残業続きで休日出勤も当たり前だった。だから家族との時間が取れなくてさ。」
男は泣きながら言った。
「娘は俺の顔覚えてるのかな...」
俺は困った。当然そんなことわからないからだ。
無言で猫缶を差し出す俺を見て、男は少し落ち着きを取り戻したらしい。微笑みながら言った。
「優しいんだな、君は」
男は俺にいろいろと語り続けた。家族のことに仕事のこと。俺はなんて返せばいいかわからず、ひたすら相槌を打ち続けていた。
その時だった。
男は突然黙り、目を大きく開きながら一点を見つめていた。
目線をたどると、6歳くらいの少女とそのお母さんらしき人がいた。そして彼女らは
「お父さんが亡くなってから1年だね。寂しい?」
「寂しいけど大丈夫!お父さんはまだそばにいるもん!」
と話ながら通り過ぎるのだった。ふと隣を見ると、男はもういなかった。
それからしばらく過ぎ、猫缶を食べていると、ある少女の声がした。
「タマ...タマなの!?」
その瞬間、俺の中に電撃が走った。何も考えられなくなった。いや、何かを考えようとしていたのかもしれない。よく知らないような、それでいて細部まで知っているような、そんな感覚だ。
意識を戻すと、目の前には中学生くらいの女の子がいた。その子は俺を抱きしめると、泣きじゃくりながら言う。
「ごめんね。ごめんね」
俺はすべて思い出していた。そして悟った。俺は死んでいて、未練があるから現世を彷徨っていたのだ。
生前、俺はこの子に飼われていた。しかし、両親が離婚し、経済的に厳しくなった彼女は、俺を捨てるしかなかった。野良になった俺は、車にひかれて死んだのだ。
俺が思い出に浸っていると、彼女は驚いた顔になっていた。
なんと、俺の体が消え始めている。そうか、未練がもうないからだ。
俺は「天国では一緒に暮らせるといいね」という願いを込め、彼女の手を舐めた。
あの少女は今も現世を彷徨っているのかもしれない。
切なさの表現って難しいですね
頑張ったので読んでほしいです