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無自覚テロリスト  作者: 鯖缶
2/2

元は猫派だったんです

絆されていく医者と無自覚可愛いテロリスト。

カフェイン補給の後、髪を括り直してPCにログイン。新しく僕の担当になった患者さんのカルテを開いた。


筒香 航平 26歳男性、夕方から腹痛を認めて市販薬を飲んでも改善せず。未明に嘔吐しトイレで動けなくなっている所を家族が発見し救急搬送。

当直医からの申し送りの記録や検査結果をまじまじと確認した。

「さて、患者さんのとこに行きますかね」

病棟に着いてすぐ馴染みの看護師さんたちに話しかけられる。

「先生、航平くんの担当になったんですって?」

「ん?ああ、筒香さんね。26で君付けなんて可哀想でしょ」

「会ったら分かりますよー。まだちょっと痛そうなんだけどね。鎮痛剤は最終9時に投与してます」

「へー可愛い系なんかー」

部屋番号を聞いて病室に向かう。今時の子ってどんな子なんだろ。考えながらカーテン越しに声をかける。

「筒香さん、今よろしいですか?」

「はい」

カーテンを開けるとそこには緊張した面持ちのガタイのいい青年がいた。

「失礼します、担当医になりました佐伯です」

「よ、よろしくお願いします」

…可愛い系か?そう思いながらも診察していくと腹部のある所を触ると顔をしかめた。

「痛いのはここかな」

「はい、だいぶマシにはなったんですが」

「かなり痛かったと思うよ。放置してたら手術が必要になってたくらいだし」

「手術?!」

ぱちくりと驚く彼だが、検査結果からも危うく手術1歩手前だったことは間違いない。よく我慢したなーと思いながら話を進めた。

「ま!今この段階で治療できてるからよかったよ!しばらく入院になるのは覚悟して下さいね。」

「手術にならないでよかったー…先生、よろしくお願いします!」

そう言って笑った顔は陽だまりのようだった。

くう、これは可愛いやもしれぬ。


筒香くんの人懐こさはすぐに広まり、彼はたった数日で病棟のアイドル化していた。

「せんせー、また病院に泊まったの?隈すごいよ?」

「人の心配する前に君は自分の心配しようね?まだ食事も始められてないんだから」

「でも痛みはほとんどなくなった!先生のおかげだよ!」

まだまだ痛いはずなのにこの子はもう…。

ないはずの犬耳とブンブン振ってるしっぽが見える気がする。なんだかゴールデンレトリバーに見えてきた。

狭心症かな、先生胸がきゅんとしちゃう。

これだけ懐いてくれるんだもの、弟のような飼い犬のような愛着が湧いてしまう。決して患者さんを差別してる訳じゃありませんよ!


担当患者の診察とカルテ記載を終えて一息つく。

「佐伯くーん、お昼食べた?」

コーヒーを持った(おお)先生から声がかかる。

「ちゃんと食べましたよ、大先生」

医師として働くことに誇りを持っているがやりきれない事も多々あってこの立場に恐ささえある。

冷たい家に1人でいるとその恐さが足元から上がってくる感じがして眠れなくなることは誰にも言えない。

だからこそがむしゃらに働くことで家に帰らず気絶するように医局で仮眠をとっている。大先生には気付かれてる気がするが突っ込まないでいてくれるのは有難い。

「一服してきます」

隈を隠すために眼鏡をかけてそそくさと屋上へ逃げ込み電子タバコを吸った。

ふと視界の端に入ったのは点滴台。吊るされた点滴を辿るとそこには見覚えのある後ろ姿。向こうはこっちに気付いてないようだ。

「大丈夫だって兄貴!もう痛くないし大人しくしてるよ!」

病棟でアイドルになってる彼はベンチに座って身振り手振りをわたわたしながら必死にスマホに話しかけている。いつもはニコニコな大型犬が今はしっぽを丸めて縮こまっているように見えてしまう。

「俺もう26なんだから来なくて大丈夫だって!兄貴のが大変なんだからちゃんと家で休んでよ。だーもう切るかんね!」

怒りながら相手を心配する、そんな会話が微笑ましく感じてつい笑ってしまった。

「?!せんせーいたの?!」

「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよー」

くすくすと笑いながら彼に近付くと電話でのどこか甘えた様な声色が続いていた。

「うー、ごめんなさい。」

なんとなく、このまま彼と話が終わるのは嫌だと思った。

「電話の相手はお兄さん?」

「そう。一回りも違うからすっごい過保護。俺の事まだ小学生くらいだと思ってるんじゃないかな」

確かにさっきの彼の言葉からお兄さんの過保護さは伝わってきた。

「せんせーは兄弟いる?」

「んー弟?がいるかな」

「はは、なんで疑問形なん!確かにせんせー面倒見良さそうだもんね」

「そんなことないよ。僕のがお世話されてる感じだし」

好きな映画やメーカーの新作など気付けば彼と色々な話をしていた。にこにこと笑って話をする彼が可愛くて、何度か頭を撫でそうになる手を止めた。

何気ない会話に癒される自分がいた。彼と話すと空気が暖かくなる気がして呼吸がしやすい。

胸ポケットに入れてるPHSが音を響かせ僕と彼の会話を止めた。

「はい、佐伯です。…はい、今どの点滴繋いでる?━分かった。オーダー入れるから採血取っておいて。」

PHSに出ている間静かにこちらを見ていた彼の眉尻が下がっていて、悪いことしたと反省してる犬みたいで。『大丈夫だよ』と伝えたくてついほわほわとした彼の頭に手を伸ばしていた。

「━!」

彼の驚いた顔を見て自分が何をしたか自覚する。

「じゃ、すぐ行きます。」

PHSを切って我慢できなかった自分に苦笑した。

「先生まで俺の事子ども扱い?」

「いんや、むしろ犬かな?」

「犬?!」

「君のおかげで気分転換できたよ、ありがとね。」

素直な気持ちを伝えると彼は赤くなって顔を逸らした。そんな反応すら可愛く見えて笑ってしまう。

「ごめんね、僕先に出るからスタッフに見つからないように部屋に戻るんだよ。」

そう早口で伝えて急いで屋上を後にした。

初書きなので色々ツッコミ所満載ですがとりあえず書き終わりを目指します。

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