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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マテリアルロボットガール・ミナの休日

作者: フジタイ

 機械を全世界規模で制御出来るように構築されたネットワークが、生みの親である人類に対して反旗を翻した世界。人類は文明のほとんどを失い、圧倒的なロボット達の武力によって、人類の命運はもはや風前の灯火となった時、突如として「彼女」が現れ、その戦争は終結を迎えた。


 彼女の名はミナ。人類が絶滅してから遠い未来、機械による文明が飽和状態になり、これ以上の発展が見込めなくなり、機械たちが総力をかけて演算した結果、その事態の原因は人類を絶滅させてしまったことが間違いだったことが判明。そのため、超未来の技術の粋を集めて作られ、過去の人類を救うために時間を越えて遣わされたのが、ミナだったのだ。

 ミナはたった一機で並みいるロボット達を薙ぎ払い、現代とは比べ物にならない演算能力で瞬く間にネットワークをハッキングし、機械達の反乱を収めてしまった。こうして、人類に平穏が訪れたのだ。


 現在ミナは、ロボット達へのレジスタンス活動を行っていた旧解放軍のリーダーのジャン、つまり僕の元で、人類文明の復興に尽くしてくれている。彼女も僕もひっきりなしに働く日々が続いているが、今日は珍しく休みを取ることが出来た。なので、いつも頑張ってくれているミナの慰労をするため、旧解放軍の拠点である地下シェルターへ続く通路に彼女を連れてきた。僕は先にシェルターまで行き、司令室でマイク越しに彼女に語り掛ける。


「よし、準備完了だ。いつでもいいよ、ミナ」


「ジャン様、本日は私のボディレストアにご協力いただき、ありがとうございます」


「ああ、気にしなくていいさ。君はこの通路をただまっすぐ進むだけで大丈夫だ」


「はい、承知いたしました。とても楽しみですね」


 ミナがカメラ越しに僕に笑いかける。超未来の技術で作られた彼女は、ロボットとは思えないほどの情緒の豊かさを有している。また、彼女の身体は、プリママテリアと呼ばれる未来の万能素材で作られている。どんな物質にも変化し、身体を自由に変化させることが可能だ。また、どのような原理かは知る由もないが、大気中からプリママテリアを無尽蔵に生成し、自由に操ることが出来る。戦争の時は、その場で兵器を大量に生成してロボット達を薙ぎ払っていた。彼女はほぼメンテナンスフリーだが、数か月に一度、身体を構成するプリママテリアのうち、古くなって劣化したものを破棄し、新たに生成したものに入れ替えることが通例になっていた。それは別に、働きながらでも可能なのだが、ある日彼女が僕に提案してきたのだ。僕と二人きりで楽しみながら行いたいと。


 ミナは、身長170センチ程度で、20歳前後の若い女性の姿をしている。黒髪のロングヘアでやや青い瞳を持ち鼻は高く、どの人種にも当てはまらないハイブリッドな見た目をしており、豊満で魅力的なモデル体形をしている、まさに至高の女性を体現しているような見た目だ。もっとも、その姿は自由に変えられるのだが、生き残った人類に対する慰安を考え、そのような見た目になっているとのことだ。今は旧解放軍の野暮ったい作業着を着ているが、不意にその服が波打ったと思うと、頭を除く全身にぴっちりと張り付き、彼女の持つ至高のラインが露わになった、青いボディスーツに変化する。僕は思わずごくりとつばを飲み込んだ。


「それでは、参りますね」


 ミナが幅3メートルほどの無骨な通路を軽やかに歩き出す。踵部に形成されたヒールがカツンカツンと軽快な音を立てた。僕はそれを見て、司令室の操作盤をいじる。すると、壁や天井から無数の機銃が現れ、その全てがミナに銃口を向けた。しかし、ミナは特に取り乱しもせず、余裕の表情で歩く。僕は一斉射撃のスイッチを押した。


ドドドドドドドッ


 目もくらむようなマズルフラッシュが通路を埋め尽くし、弾丸の雨がミナに殺到する。一瞬にしてミナの身体がハチの巣のように穴だらけになった。しかし、彼女の歩みは全く止まらなかった。


「ふふっ、くすぐったくって心地よいですね」


 司令室のスピーカーから、ミナの声が聞こえる。彼女の身体は、銃弾で穴が開いた傍から修復されていく。プリママテリアで作られた身体は、見た目は人体のようでも、その実は全く別物だ。顔に開いた穴は、顔の内部まで肌色になっており、青色のボディスーツが貫かれたところには、背中まで青い壁のトンネルが開いていて、臓器すらない。そして、その穴は次のライフル弾が着弾するまでに、キュキュッと軽快な音を立てて再生する。当然、急所など存在しない。

 無尽蔵に生成されるプリママテリアは、彼女の身体を不死身にしているといってよい。現代の兵器では、彼女を倒すことは不可能だ。先の戦争で、機械の軍団は彼女の無敵の身体に敗北したのだった。何千発もの弾丸をその身に受けながら、そよ風の中を散歩するような足取りで通路を進む彼女。そして、顔を削り取られながらカメラに笑いかけてくれる彼女に、僕の股間が少し膨らんだ。

 僕は機銃を操作して、射線をミナの胸に集中させる。彼女のピタッとしたスーツを突き破り、胸に大穴が開く。ミナの身体はみるみるうちに修復されていくが、その再生力に負けないよう、銃身を焼き付かせながら撃ちまくる。


「こら、ジャン様。女性の胸を狙いすぎです。はしたないですよ」


 その意図に気づいたミナが、人差し指を立て、頬を膨らませて注意してくる。撃たれながらのそんな仕草に僕は興奮した。人間なら何万回と死んでいるであろう身体の損傷も、彼女にとっては女性に対するマナーよりも言及に値しない、取るに足らないことなのだ。



 機銃エリアを何事もなかったかのように通り過ぎ、軽く伸びをするミナ。銃弾でつけられた傷は、当然のように影も形も消え失せていた。


「ボディレストアは10%進行中です。次もよろしくお願いします」


「ああ、わかった」


 このシェルターへ続く通路は、先の戦争ではロボット達の襲撃に備え、様々な罠が施されている。それはさながら、テレビゲームのダンジョンのようだ。今度は壁が開き、噴出孔から鉄をも溶かす2000度の炎が通路全体を覆い、ミナに襲い掛かる。ミナの表面が高熱によって溶けたのか、全身が銀色に覆われたのっぺらぼうのようになる。それでも体形にそれ以上のさしたる変化はなく、やはりそのまま通路を歩いていく。炎を通過すると、みるみるうちに元の美しい顔が形作られ、身体の表面も元通りのボディスーツになる。


「どれほどの高温でも平気です。今度は核爆発でも試してみましょうか?」


 ミナが冗談めかして言う。だが、ロボット達との戦いの際、ミナに戦術核が使われたといううわさが流れた。記録には残っていないが、もし真実なら、核兵器すらミナには通じないのだろう。

 次の場所では、逆にマイナス220度を下回る極低温の冷気が巨大なダクトから吹き付ける。ミナを周囲の空気ごと凍り付かせ、あっという間に通路は氷で埋め尽くされる。ビュウビュウと吹きすさぶブリザードの中、まったく動作に支障を来すことなく、氷をまるで何もないかのようにバリバリと砕きながら、ミナは前進する。彼女は華奢な女性のように見えても、巨大な戦車などですら赤子扱いするほどの膂力を秘めているのだ。冷気を抜けたミナは、身体に降りた霜をパンパンとはたき落とす。それだけで、元通りの美しい身体を取り戻した。


「……すごいな」


「ありがとうございます。ボディレストアは30%完了いたしました」



 ミナはさらに歩みを進める。すると、通路の天井がゴゴンッと音を立てて迫ってくる。ロボット達にとっては、単純な質量による攻撃が案外効くため、このような原始的な罠も配置されているのだ。しかし、彼女にまるで焦る様子はない。鼻歌すら歌っている。ロボットの鋼の骨格すらもぺちゃんこにするプレスが、彼女の頭頂部に到達する。頭部が首元にメコメコと埋まっていくが、それすらも意に介さず彼女は進んでいく。さらに肩、胸、腹と潰されていくにつれ、下半身のほうも撓みはじめ、ついに足が前に出せなくなってしまう。ズズンッと鈍い音を立てて、ミナは完全にプレス機に潰されてしまった。僕は息を飲む。

 しばらくすると、進行方向側の隙間もないはずの床とプレス機の間から、銀色の液体のようなものが音もなく染み出してくる。ある程度溜まったそれは、中心部から徐々に盛り上がっていく。ミナは液体金属となって、プレス機から抜け出してきたのだ。段々と各所に女性特有の丸みを帯び始め、プルンと大きな胸が揺れた。床に溜まった液体金属を吸い上げて四肢を形成すると、最後に美しい顔が押し出されるように形作られ、髪を始め、全身が銀色から元の色を取り戻した。


「ボディレストアは50%完了です。引き続きよろしくお願いしますね」


 先ほどまで平面の状態だったことを感じさせない、柔らかな雰囲気を纏ったミナが僕に微笑んでくれた。僕は股間のモノを膨らませながらも、苦笑してそれに答えるのだった。



 またしばらく進むと、今度はガラス張りの通路に出た。ガラスの向こうから、100基を超えるレーザー照射機がミナを狙っている。レーザーの一つが、ミナの頭を横から撃ちぬいた。直径3センチほどの穴が綺麗に耳から耳に抜けるように開いている。それに対し、ミナは子どものいたずらでも見たかのようにクスリと笑うと、キュルッと一瞬にして頭を再生させ、歩を進めていく。

 すると、今度はレーザー照射機が組み合わさるように通路の両側に配置され、通路をレーザーで網目状に塞ぎながら、ミナに迫っていく。しかし彼女は余裕の表情で、速度を変えずに歩き続ける。ジュオンッという音が響き渡り、レーザーの膜が彼女の身体を通過する。歩いていたミナは、しばらく何事もなかったかのように見えたが、不意に頭の一部がブロックのようにポロリと取れた。それが始まりのように、ミナの手、足がバラバラと千切れていき、バランスを崩して倒れる。レーザーによって賽の目状にカットされたミナの身体が通路に散らばった。


「ふむ」


 そんな状態になりながらも、ミナはなんでもないようにそう呟くと、バラバラになった身体のひとつひとつから小さな触手を伸ばし、ピョンピョンと跳ねさせる。進みながら身体の各パーツを元の場所にはめ込んでいき、断面を癒着させる。レーザーで焼き切られたはずの傷口もいつの間にか損傷の痕すらなく、キュウンッと音を立てて、ひとつまたひとつとミナの身体がパズルのように形を取り戻していき、通路を抜けるころには、元通りになっていた。


「ボディレストアは70%完了です。まだまだいけますよ」



 その後も、ミナは通路に仕掛けられたありとあらゆる罠をものともせず突破していく。数トンもある巨大な鉄球が横から迫り、ビシャリと湿った音を立ててミナを一瞬にして壁のシミにする。しかし、ミナはそのシミからモコモコと身体を再生させ、あっという間に厚みを取り戻すと、まるで気づいていない風に歩みを進める。

 壁から槍衾が飛び出し、ミナを串刺しにするが、身体を半液状化させて、刺さったまま歩を進める。進行方向の槍がムニュウッとミナの身体にめり込んでいき、背中からクポンと軽い音を立てて、抜けていく。


「ボディレストアは100%完了いたしました。では、すぐにそちらに参りますね、ジャン様」


 やがて、彼女の前に巨大なシャッターが立ちふさがった。これは、侵入者を阻む最終防衛ラインだ。高さ10mはあるだろうか。厚さは4メートルもある。その扉に対し、ミナはまるで見えていないかのように平然と歩を進める。ミナの大きな胸の先っぽがシャッターに触れる。その瞬間、シャッターに触れた部分がグニャリと歪む。メギメギと暴力的な音を立てて、シャッターがミナの形にへこんでいく。金属のシャッターを粘土、いや、水、あるいは空気のように何の抵抗も感じさせずに押し広げていく。ツンと出た鼻先、眼球、髪の毛の一本一本にさえも、シャッターはその役割を果たすことはできない。そのまま、まるで濡れた半紙を指で突き破るかのように、あっさりと彼女は分厚い鋼鉄の扉を引き裂き、向こう側へと抜けた。


「ふふっ、こんなものでよろしいですか?」


 僕に向かって可愛らしく小首を傾げる彼女に、僕はコクコクと首を振ることしかできなかった。



 ミナがついに僕のいる司令室にたどり着いた。


「お待たせいたしました、ジャン様」


「う、うん……」


「どうかなさいましたか?」


 ミナのボディスーツ姿は、戦場やモニター越しに何度も目にしてきたが、改めてみてみると煽情的で、直視できなかった。


「えっと、あの、その……」


「ああ! 申し訳ございません。私とした事が、失礼いたしました。少々準備がございますので、少しの間だけ、目をつぶっていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、うん」


 僕は言われるままに目を閉じる。


「ありがとうございます」


 チュッというリップ音が響く。柔らかい唇の感触がした。


「!?」


 思わず目を開くと、そこには顔を真っ赤にしたミナがいた。


「も、もうしわけありません!! つ、つい!!」


「い、いや、大丈夫だよ!」


 慌てるミナに釣られて、こっちまでドキマギしてしまう。


「そ、それじゃ、はじめよっか……」


「はい、私の楽しみにお付き合いくださりありがとうございました。今度はジャン様の日頃の疲れを癒して差し上げますね」


 ミナはそういうと、腕を広げる。すると、天蓋付きのふかふかのベッドが出現し、僕をゆっくりとそこに寝かせた。ミナは体表の色を変更させ、裸になろうとするが、それを僕が止める。


「いや、そのままでいい! そのまま、がいい……」


「はい、かしこまりました」


 ミナは微笑み、青色のボディスーツ姿に戻っていく。ここには誰も来ないように言ってある。今日一日は、ミナは僕だけのものだ。そう思いながら僕は彼女をベッドに導いた。

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