第一話「特別な日」
今日は特別な日だと誰かが教えてくれた。
そのせいか電球で照らされたこの世界もいつもより喜んでいる気がする。
わたしはお母さんに頼んで空が見える階まで連れてきてもらった。
お母さんを説得させるのはわたしの一番得意なことだ。
みんなには秘密だけど、わたしは魔法の言葉を知っている。
「後で迎えにきます」
お母さんはそう言い残してどこかへ行ってしまった。
今日の夜ご飯は昨日よりも美味しくなりそうだ。
なん日も同じパンとスープはもう飽きてしまった。
わたしは天井にある大きな窓の真下に座った。ここなら赤い空もあの扉も見える。
きっとわたしの隣で立っている人も同じ事を思っているんだろう。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
大きな音と共に開いた扉から暑そうな服に身を隠した人たちが入ってくる。
わたしの隣にいた人は音と同時に扉に駆け寄った。
でもわたしは動かない。あれが『白い人』ではない事を知っているから。
それにあんなに急いでもあの透明な壁より前には進めない。
ほら。
あの暑そうな服を脱いだ人の肌は空に焼かれている。この星と同じ色だ。
わたしの身体もこの空にちょっと焼かれている。
『白い人』はあの暑い服を着ていないとお母さんが教えてくれた。
お母さんはなんでも知っている。
今日はこの世界に『白い人』がやってくる日。
わたしは何度か『白い人』を遠くから見た事がある。
けれどここにいる人はきっと『白い人』を見たことがない。この特別な日を除いて。
だってこの星にいる『白い人』は空が嫌いだから。
だけどみんな『白い人』を知っている。みんな『あの星』に憧れている。
『あの星』に憧れることは曇った鏡を見る事と同じことだから
って前のお母さんは言っていた。
だけどわたしは前のお母さんの顔をもう思い出せない。
『あの星』には青い海と青い空がある
って前のお母さんは言っていた。
でも『あの星』も『白い人』も青くない。
前のお母さんが言ったことは嘘だったのかもしれない。
前のお母さんとはずっと会っていない。でもお母さんよりも優しかった。
また会いたいな……
天井の大きな窓が白く曇った。もしかしたら『白い人』がくるのかもしれない。
わたしはみんなよりも一足早く透明な壁に近づいた。
ずっと前から並んでいた人もいたけれど、わたしの身体はみんなよりも小さいから足の隙間を通り抜けられる。
ここからなら『白い人』が大きく見える。
この透明な壁から声が届くのかは分からない。
でも、もしも『白い人』と話すことができたら何を話そう。
わたしたちが『あの星』を綺麗だと思うように、『白い人』たちもわたしたちの星を綺麗だと思うのかな……