仲間ができてしまった
荷物の整理を終わらせた後、一通り引っ越し手続きや不動産屋での購入手続きを済ませてから「瞬時移動」で家があるという場所まで移動した。
ちなみに金については、不動産に疑われなかったので事情は話していない。
土地を買うために40億ほど支払ったのに、そこで詮索されなかったのが不思議でしょうがない。
…んで、見事なまでに更地だ。
荒れ果てた土地のど真ん中に、違和感しかない大きな家。遠くを見渡しても見えるのは森だけ。なんだここ。
日本にこんな所があることにびっくりだわ。ここだけ別世界みたいな状態なんだが…
見晴らし最悪だし、後で木を植えたり何かしら建てたりする必要がありそうだな…
まあ「創造生成」の検証ついでと思えばいいか。
さて…パッと見、人は見えないが念のため「地図展開」で確認――
…何かいるんだけど。しかもよりによって灰色の点と赤い点だ。
悪寒は別に無かったはず…いや、集中したら僅かに感じるな。分かりづらい…どうやら、意識しないと感知できないらしい。
場所は自分の家の横?何やってるんだか。
前の時みたいに「瞬時移動」で、見えないギリギリの位置に移動する。
「離してよ変態っ…!」
「そう言うなよ、大人しく諦めた方が身の為だ」
……聞いたことある声がするんだけど。
え、違うよね?前にあの少女が襲われてた所とここ、かなり距離あるぞ?地図で見た感じだと、26kmほどは離れている。
まさかあれからずっと歩いていたのか?
とりあえず止めとこうか。
「何してる?」
「っ、誰だてめぇっ!」
「え、アリエルさん?」
…ですよね。
おそらく、以前助けた少女がすぐそこにいた。おそらく、なのは男が覆い被さっていて全身姿が見えないからだ。というか自分の敷地内でやるなよ…
「また性犯罪に巻き込まれてるのか。呆れるな」
「それどころじゃないですよ!?」
「おい、俺の前でペラペラと」
「ちょっと静かにしてて」
不快なので殺気をぶつける。勿論、前回の二の舞にならないよう威力は抑える。男は倒れる。少女は話しかけてくる。自分は怯える。
…助けてくれ。
「また助けられちゃいましたね…ありがとうございます。会えて嬉しいです」
「喜ぶな変態」
「酷くないですか!?」
短時間で二回も性犯罪に巻き込まれるという謎の不運っぷりを発揮するわ、あの場所から(多分)歩きでここまでやってくるわ、悪魔に対して好奇心が勝るわで、もうこれは変態以外の何者でも無いだろ。
というか、なんで初めて会った場所からピンポイントで自分の住所までやってきてるんだよ。
「あ、口外するなって言われたこと、ちゃんと守り通してますよ。誰にも言ってません」
「そうか、助かる。んで、何故ここにいるんだ?」
ここは森に囲まれた更地、建物もたった1つだけ。わざわざこんな所に寄る理由が無い。
男は十中八九追っ掛けてきたからだろうが、この少女だけは理由が分からない。
「ここまで歩いて少し休もうかなと思って、この家の庭で休んでたら襲われたんです」
「あ~…まあ周りに建物も人もいない森の中の更地だもんな。そんな所を、少女一人が歩いてたら格好の的だ…ってそうじゃない。
そもそも、なんでここまで歩いてきてるんだ?見て分かると思うが、ここ来るのは普通の理由じゃ有り得ないぞ?」
そう言うと少女は口ごもってしまう。だが悪いな、自分は心が読めるんだ。「思考透視」。
(親に捨てられて宛先も無くさまよってたなんて言って、アリエルさんに迷惑かけたくない…ただでさえ二度も助けてもらってるのに、そんな失礼な――)
見るのをやめた。
「…お前、見た感じ小学生だよな?そんな小さな少女を捨てるって、どんな狂った両親だよ」
「え、私は何も…そういえば貴方は悪魔さんでしたね。隠せるわけがありませんよね…でも1つ言わせてください、私一応中学生です…」
あ、中学生だったのか。どう見ても小学校低学年の見た目なんだけど…
まあ、クラスに何人かいた小柄な女子とでも思っておこう。
…あれ、待てよ。
・親に捨てられて宛先がない少女。
・近辺には自分の家がある。かなり大きく、一人増えたくらいじゃ問題無さそう。
・これ放っておいたらまた襲われかねないよな?
…嫌な予感がしてきた。
「はぁ…捨てられたんなら家が無いんだろ?」
「そうなりますね…」
とりあえず落ち着こう。もう何を言われるかは大体分かってるんだ。
「あの、この家ってアリエルさんのものですか?」
「そうだな。住むのは今日からだが」
「…もし、良ければですが…アリエルさんの家に住ませてもらえませんか?」
「う~ん…」
分かってはいるんだけどな。
小さい女の子を家に泊めるっていう絵面が既にアウトだ。だが自分以上に誰かを守るのに適した人材は他にいないと思われるし、この際女性恐怖症の克服お手伝いを頼むのもありかもしれない。
だがなぁ…
「お願いします…助けてもらっておいて失礼なこと言ってるのは分かってますけど、これ以上つらい思いはしたくない…」
泣きそうな声で言わないでくれ…
事情を知った以上、追い返すのは鬼畜だ。直視はできないが少女の服や靴はかなりボロボロになっており、このまま帰してもまた変態に襲われるか警察に補導されるかの2つだと思う。
正直、この手の問題に関して警察は頼りないしな…
「…分かったよ」
「ありがとうございますっ!!」
嬉しさのあまりか、笑顔で飛び跳ねる少女。こうして見るとただの可愛い女の子なんだけどなぁ…
かなりの変わり者ではあるが。
「でもさ、少しは男の家に住むことに抵抗持てよ」
「宛先がないんですから無理言わないでくださいよ…それに二度も助けてくださったアリエルさんなら信頼できますし」
「分かった変態」
「…初めて会った時から思ってましたが、接点なくても容赦無いんですね」
「悪いか?これが自分だ。悪魔とかそれ以前に自分はそういう生き物だ」
完全に呆れられてるが気にしない。この冷めた対応をしてしまう癖も治さんとなぁ…
「にしても探したわけではないのに、26km先で似たような展開と同じ少女がいるってのもおかしな話だなぁ」
「運命の糸で」
「殴るぞ」
「ごめんなさいっ!?」
反射的に拒絶してしまった。
にしても変な謝り方だ。驚くような謝り方というか、少し珍しい気もする。
「とりあえず家に入れ。疲れてるんだろ」
「はい…お邪魔します」
自分の家に、小学校低学年の見た目をした少女がいる。
傍から見たら事案なんだよなこれ。
「同居する以上は名前を聞いておきたいんだけど、良いか?」
「前に言おうとした時、すぐ行っちゃったじゃないですか…まあ良いですけど。風谷 友香って言います。これから宜しくお願いしますね、アリエルさん」
「宜しくしたくないんだけど宜しく。あとため口でいい、居心地悪いしこれから暫くは関わるわけなんだし、早めにくだけた方がいい」
「…分かった。それじゃ遠慮無くそうさせてもらうね」
すぐにため口に変わる。元々こっちが普段の喋り方なんだろう。
…悪魔になって早々これって、この先どうなるんだか。
主人公が冷めてるせいで分かりづらいですが、一応ロリコンです。
異性に対して素直になれないって大変よね