両親への打ち明け
助けた少女から逃げるように離れた自分は、真っ先に「瞬時移動」で実家に向かっていた。テレポートをする上で大事なのは、誰の視界にも入らない位置を選ぶこと。そして移動後、すぐに出ないようにすること。
「地図展開」が凄い優秀だな…今後のレギュラー魔法となりそうだ。
…そういうわけで、タバコ臭い家の隙間で待機していた。
ここ吸いがら落ちすぎじゃないか…?
流石に放置しているのもあれなので、魔法の練習がてら遠くから掴むようにして1つにまとめる。これは「念力移動」とするか。
…念力って魔法の部類に含まれるのか?
1つにまとめたら、次は「創造生成」で灰を通さないくらい細かい目の網を作って上に浮かせておき、下に散らばってる灰を下から突風を引き起こして、網に灰をぶつけた後裏返してから回収する。
空気だけ通すことを意識して作ったからか、空気が横に逃げることはなかった。構造どうなってるんだこれ。
回収したものはどうしようか…とりあえず「創造生成」で小さめのレジ袋みたいなのを作って、その中に網もろとも全部突っ込んでおくか。
ゴミ袋は…適当においておこう。ゴミを一ヶ所にまとめたから不法投棄ではないはず、うん。
ある程度時間が経ったので、表に出て実家のインターホンを押しに行く。
自分は一人っ子だった。両親ともにしっかりしてて、正直言っちゃうと親馬鹿って呼ばれるくらい煩悩に溢れていた。一人だったからこそ甘やかしてくれたのかもしれないが、自分はそれに助けられてきた。
女性恐怖症を発症した後なんか、何かある度に怪我するもんだから凄い心配されたな…
にしても、自分の為に大きな家を買うだけの余裕はあるのに何故実家から引っ越さないんだろうか…
実家は二階なんて無いし、聞いた話だと両親が買ってくれた家はここよりでかい――
「何してるんだお前」
「うぇっ!?」
いつの間にか父さん――篠崎 萬がそこに立っていた。
その後ろに、姿は見えてないけど母さん――篠崎 美月の反応がある。集中してて気づけなかった。
「久しぶり、入っても良いか?」
「聞かんでも、元々お前も住んでた家なんだから普通に入ってこい」
「あ、そうだった。お邪魔しま…いやただいま?どっちだこれ」
「相変わらずねぇ」
反応にもあった母さんが出てくる。
ちなみに二人の反応は水色で緑の点は無い。最近会ってなかったのもあるだろうが、打ち明けるべきか悩んだからかもしれない。
…とか言ってたら緑の点が入った。これ緑の点は付けたり外したりできる感じか?
試しに念じてみると、父さんの反応から緑の点が消えた。
設定できるのは良いな、とりあえず二人は登録しておいて…と。
「さて…西郷、機密事項とまで言った話ってなんだ?」
「…話はするけどちょっと待ってくれ」
聞かれてたらまずいので「創造生成」で盗聴発見器を出す。魔力を込めたのでかなり高性能のはず。
…反応は無いな、これなら話せるだろう。
「えっ!?」
「おい、お前今…」
「…ねぇ、今のそれって機密事項と関係あるの?」
無から生み出したのを見ていた二人は当然驚き、かなり真剣な表情になる。
「これも機密事項に関することだけど、これだけなら別に機密事項にならないと思う」
「いや無から生み出した時点でおかしいことに気付け」
突っ込まれてしまった。
「まあおかしいのは否定しないけど、これだけじゃないんだ。実は自分…人間じゃなくなってしまったんだ」
「……はい?」
「どういうことだ?」
「とりあえずこれを見てくれた方が早いと思う」
そう言って翼を出す。
相変わらず禍々しい雰囲気を放っているが、別に害があるわけではない。無い…はず。
「…それは何?」
「翼…?」
「まあ分かりやすく言うなら「悪魔」になった。翼だけじゃ判断しづらかったけど飛び抜けた身体能力の強化に加えて数多くの能力、加えて誰かを殺めても罪悪感を感じない。これらから間違いなく悪魔なんだろうなと確信した」
「ちょっと待て、お前人を殺したのか!?」
「殺したって、いくら何でも――」
「待ってくれ、無差別にやったわけじゃないっ!」
先に説明しておくべきだったか…
「この身体になってからというもの、何でもできるようになったんだ。さっき無から生み出したのは『創造生成』ってやつで、試した感じ生み出せない物はほとんど無さそうだった。
そして人を殺した件。これは色々あって人助けをしたんだが、その時いた犯罪者が刃物を持って襲いかかってきたから殺気をぶつけたら…あっさり死んでしまった。
心を読むこともできるから、それで遠慮が無かったのもある」
「…ってことは、前科があるか確実に繰り返すのが分かったから殺したのか?」
「意図してないがそうなる。あと小さい女の子を襲おうとしてたのもあって怒りが湧いた」
「それは死んでもいいな」
おい父さん何を言ってるんだ。
「だがな。殺してしまったのは事実なんだろう?仮に無実だとして、警察にはどう説明するんだ?」
「事故のようなものだからバレはしないと思う。ただ今後もそれだと色々不都合だから、警察内部とも繋がっておくつもりだ」
人の命を奪った件に関しては反省してはいない。
こんなことで敵対されるのなら容赦はしないつもりでいる。
っていっても悪役になりたいわけじゃない。罪の無い人を苦しめるならともかく、極悪人を制裁することに関しては自由にやりたいというだけだ。
心も覗けるし、相手に行動させてもおそらく自分に危険はないから間違いが起きることもないしな。
「ねぇ。生み出せないものがほとんど無いって、例えば時計も?」
「おい美月、まさか――」
「前から買おうと思ってた時計があるんだけど、それも生み出せたりするの?」
そう言って渡されたチラシには、如何にも高そうな…というか実際に凄く高い、数億クラスの時計に丸がついていた。
どこで貰ったんだよこのチラシ。
「…美月は前からそれが欲しいって言ってたんだけどな。俺も美月への誕生日プレゼントとして渡すのもありだと、最初は思ってたんだ。だが、その値段を見て買えると思うか?」
「…思わんな」
「えへへ…」
「えへへじゃねぇ…」
なんてものを要求してるんだこの母親は。
とりあえずチラシを見ながら念じてみる。絵を見るだけでも不思議と情報を読み取れるのか、完璧に生成することに成功した。
「え」
「美月?」
絶句していた。
「…ね、ねぇ萬」
「…言いたい事は分かる。おい西郷」
「ん?」
「その能力、絶対バレないようにしろよ…見つかったら最悪殺されるか監禁されて利用される。そうでなくても、世界中に目を付けられるのが目に見える」
「…いやぁ、その件なんだけどさ」
引き金が少し柔らかく反動の無い拳銃を生成。それを父さんに渡す。
「おい…なんだこれは」
「それで此方を撃ってほしい」
「はぁ!?お前正気か!?」
そうは言っても、世界中に狙われても平気なのを証明したいだけだしな。
ただ発砲音が響くと通報されかねないので、家を包み込むイメージを頭に思い浮かべながら、音が漏れない空間を作る。適当に「消音空間」とでも名付けようか。
「大丈夫だ、拳銃程度じゃ怪我すらできん」
「…まあ、お前が言うならそうなのかもしれんが。ただ発砲音を聞かれたら」
「それなら既に音が響かないようにしたぞ」
「アニメの主人公でもそう持ってないような能力を平然と使いまくるなよ」
…気持ちは分かるけどさ。