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悲劇の悪魔は自由奔放に活動する  作者: ねお
第二章 裏の犯罪取り締まり組織
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説得

また5000文字越えてしまった…

大事になるとまずいので、一旦友香達にはメンタルケアも兼ねて女の子と一緒に遊んでもらうことにした。

近場の公園に向かい、そこで鈴木さん一家と雑談をしつつ時間を潰す。


どうやら鈴木さんの父はまだ仕事中らしく、帰ってくるとしても夕方の5時くらいだろうとのこと。

そのため、作戦の決行も5時に予定している。


時間になったら、問題のいじめっ子の家族の元に向かうつもりだ。


「えぇ!?お姉ちゃんすごーい!!」

「あ、アリエルさ~ん…」


…そして、鉄棒で遊んでいた友香が力を入れすぎたこか鉄棒を歪ませていた。


…ごめんなさい管理してる人。あとで直しておきます。


「…あんな小さい子なのに、凄い力があるのですね」

「えぇ。だから私も安心して行動できてます」

「…ほんとに子供なんですよね?」

「あれでもまだ中学生なんです…」

「アリエルさーん!これ修理しむぐっ」


口を滑らせかけた風谷の口を朝霧が塞ぐ。


(一般人がいる前で堂々と人の機密情報を話そうとするな)

(ごめん、つい…)

(あとで修理するから心配するな。朝霧、助かった)

(いいよ~、魔法1つで手を合わせるね)

(どう考えても釣り合わないだろ)


魔法のどれか1つだけでも、下手すれば数億円ほどの価値があるレベルで貴重だろう。誰も持ってない力というのは、使いこなせるだけで影響が大きい。

そもそもどうやって教えればいいんだ…まだ習得させる方法すら分かってないんだぞ。


ちなみに鈴木さんの母はそこまで驚いてなかったが、鉄棒をへし折るなんて普通は無理だ。

相当な怪力の持ち主なら可能かもしれないが、風谷ほど華奢な見た目をしてたらまず不可能だと思う。

力があればあるほど目に見えて筋肉が発達してるもんだしな。


「にしても、夏希がされてるいじめは…」

「…はい。あの女の子が話さなかったのも頷けます」


暴力とか、そういったタイプのいじめではなかった。物を隠したり、聞こえるように陰口を言ったり小さいものではあった。


だが悪意というのは、ただぶつけられるだけでも不快になるものだ。内容に差があれど、そのいじめが軽いか重いかを他人が簡単に決めていいものではない。

それは、いじめの内容を教えてくれた時に夏希ちゃんが流した涙が語っていた。


「本来なら、他人を傷付けて良いような事態はあってはいけません。喧嘩であれ、仕返しであれ、いつかは自分に返ってきます。

そして悪化していけば、今度は周りの人をも巻き込む。反抗すればするほど、人の心を理解する力を失ってしまう歪んだ性格の子供が生まれてしまう。そして巻き込まれた側は、心の弱い子から順に心を壊されていく」

「…そうですね」


上下関係というのは、本来集団を纏めるために必要となるものだ。

間違っても「誰かを見下す権利」とかいう、性格の悪い奴しか得のしないものではない。それは上下関係というより、主人と奴隷という表現の方が正しい。


上下関係というのは、互いが認めあって初めて成立する。認めあってないのなら、それは横暴な主人に振り回される奴隷でしかない。

下の立場の人が一方的に敬意を示してる場合は…どうなんだろうな。


「暴力沙汰になることを想定していましたが…できるだけ説得を中心に頑張ろうと思っています。

そのためには当人達が頑張らないといけません。その最中に殴られそうにでもなったら、私達が守りますのでご安心ください」

「ありがとうございます」


そうして、少しの間公園で時間を潰した。





夕方の5時になり、家に戻ると玄関で鈴木さんの父が待っていたので挨拶をする。


「初めまして、アリエルという者です」

「妻から話は聞いています。本日はご協力お願いします」


握手を交わす。温厚そうな人だが、手の感触からかなりの力強さを感じる。


「ところで…1つ確認がしたいのですが」

「なんでしょう?」

「そちらのお嬢さん方を連れていくのは危険なのでは…?見たところ小学生のお子さんに見えますが」

「なるほど。…友香」

「なにー?」

「鈴木さんのお父さんと力比べをしてやってくれ。間違っても本気でやるなよ」

「え、本気じゃダメなの?」

「いいからやってみろ。すぐ分かる」

「はーい」

「あの、すみません。聞き間違いじゃなければ、僕では力不足かのようなのですが…」

「そうですね…では、友香と押し合ってみてください。本気でやっていただいて構いません」

「…分かりました」


そうして、二人が位置についてお互いに手を合わせる。


「それじゃ…始めっ!」

「…鈴木さん?全力で押しても良いですよ?」

「い、いや…これでも本気、なのだが…!?」


風谷はびくともしてなかった。

見た感じ、風谷は5~6割くらいの力で押さえてるのだろう。なのにも関わらず、大の大人が本気で押し込もうとしてるのを全く苦にも感じず抑えきっていた。


「お父さん頑張ってー!!」

「えっと…少し力入れますね」

「なっ、押され――」


そのまま風谷が一方的に押しきっていった。


「嘘!?」

「お姉ちゃん、怖い…」

「なんで!?怖くはないよ!?」

「…まあ、ガタイの良い男の人を楽々押してたら怖いよね。私も見てて怖かったもん」


良い機会だったから今の人間離れした力を確認させてやりたかったのだが、鈴木さんのお父さんには申し訳ないことをしたかもしれない。


「…こんな華奢な女の子が僕より強いなんて」

「これで理解していただけたかと…」

「まさか、そちらのお嬢さんもですか?」


朝霧の方を向いてそう言う。


「友香ほどじゃないけどね…」

「流石に全く一緒って訳じゃありませんが、私の見立てでは拮抗してると思ってます」

「…末恐ろしい。こんな若い子達が既にここまで強いなんて、将来どうなってることやら」


魔法でズルしてるから素の力って訳ではないんだけどな。


「ちなみに、アリエルさんのお力はどれほどで?そちらのお嬢さんがあれほどの力だったので気になりまして」

「無理!絶対勝てない!」

「誰来ても勝てませんよ、この化け物は…」

「朝霧?」

「世の中って広いですねぇ…」


人前で化け物言うなし。


「お疑いのようでしたから力比べをさせていただきましたが、時間がありません。これからいじめっ子の家に向かいたいのですが、大丈夫ですか?」

「…はい、問題ありません。行きましょう」


いじめっ子の住んでる場所は知っている。そして「地図展開」の性能を利用したら、すんなり発見できた。


小学生だから遠い場所に住んでるわけでもなく、そこそこ近くのありふれた住宅街の内の中にいた。

ナビゲートが無いと迷いそうだな、これ。


皆で目的地に向かって歩きつつ、雑談を交わす。


「お姉ちゃんはどうしてそんなに強いの?」

「え?う~ん…頑張ったから?」


返事に困った友香がこっちを見ていた。

確かに、ただ鍛えたってだけじゃ説明つかないもんな。


「秘密だ。うちはこれでも組織の人間なんでな」

「はーい!なんかカッコいい」

「でしょ~?」

「その組織って何人いるの?」

「5人だ。もっとも、残りの二人は新人だからお留守番してもらってるが」


真也はともかく、静華さんは今連れてくと危険だ。そうなると、兄である真也も当然連れていけない。


「少ないね」

「結成されてばかりだしな。こういったトラブルの解決だってまだ2回目だ」

「私達は初めてだけどね」

「…本当に大丈夫なの?」

「あの力を見ただろう。信じてみてくれ」

「うん、分かった」


そうこうしていると、例の家についた。

「長島」…ここだな。


「……」


夏希ちゃんは萎縮していた。


「大丈夫だよ、何かあっても私達が守るからね」

「…よし。皆は後ろで待機しててくれ」


インターホンを押す。

古いタイプのようだ。少しすると、足音が聞こえてきた。


「はいはい、どちら様でしょうか」


出てきたのは30代前半くらいの男の人だろうか。今のところ普通の人だな。


「思考透視」を使いながら心の内を探る。


「突然の訪問申し訳ございません。○○学校の件について、そちらのお子さん含めお話をさせていただけませんでしょうか」

「えっと…うちの子が何か?

(学校にこんな人いたか?誰なんだ)」


…心当たりがある人の反応ではないな。


「鈴木さん」

「はい。お久しぶりです、長島君のお父さん」

「これはこれは、お久しぶりです。運動会ぶりですね」


知り合いか?

いや、運動会の時に少し顔を合わせただけみたいだ。


「簡潔にお伝えします。そちらのお子さんがうちの娘をいじめている…と、お聞きしました」

「…何?(あのバカ息子…何をしでかしたんだ)」


武力行使の必要性が完全に消えたな。

この親から悪意を感じられない。


「夏希」

「あ…うぅ…」

「いじめられてきた夏希ちゃんが言わないと意味がないんだよ。勇気を出してみて」

「…はい」


完全に怯えている。

その反応で察したのか、長島さんは頭を抑えていた。


「…夏希ちゃん。うちの息子がすまなかった。

この後ちゃんと叱る。その上で謝らせる。だから、うちの息子に何をされたか教えてくれないか?」

「…どんくさいやつは学校くるな、って。一緒にいるとバカが移る、って言われました」

「……教えてくれてありがとな。すいません、連れてきますので少しお待ちください

(あいつにも報告しないとな…バカ息子がグレたのは俺達の責任だ)」


良かった。これなら穏便に済みそうだ。


「将暉ぃ!!ちょっと来い!!」

「なんだよ急に!?入ってくんなよ!」

「ぶん殴るぞ。良いから来い!」


耳が良いため、二人のやり取りがはっきり聞こえてくる。

…長島さん?ちょっと荒っぽくないですかね?


少しすると、長島君と一緒に父が戻ってくる。

長島君はと言うと…拗ねた表情だ。


「げっ」


そして、夏希ちゃんを見るなり嫌そうな表情をする。

こいつ…


「お前、この子に何をした」

「知らねーよ。無視されてるからって嘘ついてるだけじゃねーの」


直後、長島君が吹き飛んだ。

父が殴ったのだ。しかも一切の手加減なく。


「がふっ!?」

「え」

「ちょっとっ!?」

「長島さん、やりすぎです。今のは虐待で訴えられてもおかしくありませんよ」

「こんの、バカ息子がっ!!

甘やかしてやったのに、なんでこんなふざけた考えが出てくるんだ!?」

「ひっ」

「長島さん、抑えてください。怯えてるでしょうが」

「反抗期だと思ってそっとしておいた俺がバカだった。今日は飯抜き――」

「おい。人を無視して虐待に走ろうとするな」


これ以上は長島君の方が恐怖を植え付けられてしまう。予定になかったが、少し殺気を放出して牽制する。


「うっ!?…すみません、取り乱しました」

「そもそも、何故理由も聞かずに手を出したのですか?

確かにいじめは悪いことです。ですがいじめにも根本的な原因があるんですよ。愛情が足りない、自分がもらえないものだから嫉妬した、とかの理由があったりもするんです。

本当に反省してほしいのなら暴力に頼るべきじゃない。…今のあなたの息子さん、見えてますか?」

「…あ」


今まで殴られるなんて全然されてなかったんだろう。涙でぐしゃぐしゃになり、恐怖で目を大きく見開き、吹き飛んだ後から微動だにしていなかった。


「俺は…どうして…」

「…はぁ」


長島君の方に近付く。

さっきのこともあり明らかに怯えている。そんな姿に罪悪感を覚えつつ、そのまま目の前まで寄ってからしゃがみこむ。


そして、こっそり「快癒光」を使う。

大の大人の拳は、尋常じゃないくらい痛いはずだから。


「…あれ?」

「内緒だぞ。痛かっただろ」

「…うん」


すぐに自分が何かしたことに気付いたんだろう。

少しだけだが、警戒心が緩まった。


「なぁ、どうして夏希ちゃんをいじめたりなんかしちゃったんだ?話してみな」

「…最初は、げんきな子だなって思ってたんだ。だけど運動会のとき、夏希ちゃんのお父さんがおおごえで応援してて、それがうらやましくて」

「自分が応援されないのが悔しくて、いじめてしまったか?」

「違う!…最初は違ったんだよ。ぼくも応援されたくて、がんばったんだ。だけどお父さんもお母さんも他のみんなの話ばかりで、終わった後もおつかれさまとしか言ってくれなくて」

「…お父さんとお母さんは、話を聞いてくれない人だったのか?ちゃんと話はしたか?」

「してない」

「そっか。なら、謝ろうな。君のお父さんにも、夏希ちゃんにも」


促すと、長島君は夏希ちゃんと長島君の父の方へ向き直る。


「…夏希ちゃん、ごめんなさい。もう絶対やりません。また前みたいにいっしょに話したいです」

「…いいよ。もうしないでね」

「お父さんも、ごめんなさい」

「…俺のほうこそごめんな。ちゃんと話し合うべきだった。

痛かったよな…話を聞いてやれなくて、応援してやれなくて、ほんとにすまなかった」

「…うん」


一件落着、かな。


正直、殴り出した瞬間少し焦った。

下手すれば死んでた可能性もあったのだから。


「長島君のお父さん。1つ約束をしてください」

「…なんでしょうか」

「二度と、息子さんを本気で殴らないと誓ってください。一歩間違えたら、貴方は自分の息子を殺していたんですよ」

「っ!…はい。この度は、大変申し訳ありませんでした」


そう言って深々と頭を下げ謝罪をする。


こうして、友香と風谷の初のお仕事が完了した。





「長島君を落ち着かせてる時のアリエルさん、別人みたいだったよね」

「男の子相手だったからな。どうするのがいいかってのは、男同士なのもあって案外分かるもんなんだよ」


ましてや、実の父から強く殴られた後だ。

少しでも優しく対応して安心させてやりたかった。


「私にもあれくらい優しくしてほしいな~、なんて」

「変なこと言ってないで修行しろ」

「え~良いじゃん、アリエルさんも私のこと好きな癖に」

「岩を風谷に向けて撃ってやろうか」

「ごめんなさい冗談ですからっ!?」


…やっぱり、誰かを救えるって楽しいな。

虐待、よくない

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