修行・不老魔法のメリット
「朝霧に入場許可を。資格ランクはBだ」
『畏まりました』
色々あったが、朝霧の登録を済ませる。出会って間もないからCにしようかと思ったが、それだと自宅に入れなくなってしまう。
それに風谷の唯一の友人らしいしな。常に一緒でいられるようにした方が良いだろう。
「さて、朝霧には説明をしていなかったな」
必要最低限の説明をする。
自分は元人間の悪魔で、突然変異で誕生したこと。
原因は心当たりがあるが、もしそうなら自分以外にも悪魔が存在するかもしれないということ。
万が一巻き込まれた時、死ぬ可能性があること。そのため、風谷に成長促進効果のある不老魔法を掛けてるということ。
これからその成長のために修行をするということ。
風谷に不老魔法を掛けてる、という所で朝霧がかなり驚いていた。
「友香、不老ってことはずっと成長しないってことなんだよね?」
「そうだよ?」
「本当に良いの?ずっとそのつるぺた体型のままになるんだよ?」
つるぺたって。
「う~ん…アリエルさんなら多分解除できると思うよ?それに今の身体だからこそ動きやすいかもだもん」
「それはそうかもだけど…」
「何より、アリエルさんはこの身体の方が好きそうだし」
「…そういえばそうでしたね」
その刺すような視線やめてもらえないだろうか。
別に自分だって好きでロリコンでいるわけではない…はず。
「も~、優ちゃんそんなにアリエルさんを睨まないの。確かにロリコン…のはずだけど、そのお陰で私にもチャンスができたんだから別に嫌ではないよ?」
「それって…あ、待って。それアリエルさんの前で言って良いの?」
「平気、全部知られてるもん。女の子の事情もえっちなことも」
「え?」
「いつも心を覗いてるわけじゃないって以前言わなかったか!?」
もうやだこの子…
「…あ~、確かにアリエルさんの魔法なら普通に心覗けそうだよね。ってことはアリエルさんが好きなのもバレてるんだ」
「うん…ってあれ、私言ってないよね?」
「…逆になんでバレないと思ったの?」
まったくだ。
心底嬉しそうな声で「私にもチャンスが」とか言ってたら、鈍感でもない限り普通に気付くぞ。
そもそも魔法披露する前の会話でもアプローチとか言ってたし。
「…んで、アリエルさん?どこまで知ってるんですか?」
「…説明するのは良いんだが、その前にその敬語やめないか?切り替え大変だろ」
「それだと友香と区別つかなくなりません?」
「それ触れちゃいけないやつ!」
確かにそうだけどその話はダメだ。
「…はぁ、分かった。でもまだアリエルさんを信用したわけじゃないからね。それだけは覚えておいて。友香に手を出したらただじゃ…あ、そういえば女の子が苦手だったんだ。
こうして話してる分には違和感無いからすぐ忘れる…」
「アリエルさんって逃げる時凄いんだよ?小声で早口になりながらも、人間離れしてないギリギリの動きで女の子達から逃げ回ってるんだもん。
焦ってる時こそ力加減が難しくなるはずなのに、全く油断してなくて感心しちゃった」
「…まあ、17年間逃げ続けてたらそりゃ慣れもする。最初の頃は怪我も多かったが最近は減っ…てなくないか?あれ?」
おかしいな、昔より怪我する場面が多い気がする。
今は悪魔の身体であるおかげでかすり傷1つ負わないけど。
さて、話が逸れたな。
「まあそういうわけだ。身体は成長しなくとも力はどんどん付いてくる。
長時間身体を動かさなかったりしたら分からんが、頑張れば二人にも人間をやめた力を得ることは難しくないはずだ」
「えー…何年掛かるんだろ」
「まあ、普通はそう考えるよな」
だが普通で済まないのが魔法クオリティ。
「実は栄養も通常より力に蓄えられるようになってるから、運動と食事の2つを常に意識してれば通常の数倍成長するはずだ。運動量が多ければ多いほど食事要求量も多くなるから、多めに食べる必要はあるけどな。
そのため、いくら食べても太らない」
太らないってのは女子にとって魅力的なものだろう。
二人とも目を輝かせた。
「え、太らないなら私もやる!」
「そういうと思ってたから予め魔法をセットしておいたぞ」
「時空間隔離」は魔力の消費が激しい上に、発動に時間がかかる。かといって会話の最中に詠唱するのは申し訳ないため、先にセットしておいて任意発動型にしてみた。
これ自体は簡単だったらしくすんなりいけた。
合図を出して不老魔法を朝霧にぶつける。
「何か、変な感じ…」
「だよね。私も掛けてもらってた時同じだった」
「風谷曰く、身体がムズムズする感覚らしい」
「…それ無かったことにしない?今になって恥ずかしくなってきちゃった」
「ムズムズするというより、身体全体にそよ風が当たってる感覚に近いかも」
くすぐったそうだなそれ。
「よし、これで問題ない」
「これでスイーツが食べ放題に…!」
「いや、太らないとはいえ修行量に対して食べる量が多すぎるとお腹壊すぞ?」
「じゃあ早く修行したいっ!」
そんなに食べたいのか。
「じゃあ専用施設に入るぞ。いつまでも突っ立ってたら疲れるだろ…って、そうだ忘れてた!」
「何?」
色々あって忘れてた。
風谷はここに来た時からずっと同じ格好だ。
服はボロボロで、直視してないから分からないがおそらく身体も汚れている。
風呂に入ってもらう前に服が必要。しかし女物の下着を生成するのは自分が嫌だし、風谷達も不快に感じるだろう…いや、風谷はむしろ喜びそうだが。
だが、ボロボロの格好のままで出掛けさせると回りから注目を浴びるかもしれない。と、なると上着だけ生成すれば良いか?
…上着生成もちょっと嫌だけど、背に腹は代えられん。
「朝霧と風谷、ちょっと渡すから両手を前に」
そう言ってから直視をしないように「創造生成」で上下の上着だけを渡す。
幼女愛好家になってから服装は結構気にするようになったため、個人的に可愛いと思った服装で今の季節で活動しやすいのを選んだ。
今は夏だから薄着のものを。肌の出しすぎはこっちが困るからある程度ちゃんとしてるものを選んでいる。
勿論、今後も使うかもしれないから質にはかなり気を付けている。気を付け過ぎて、地球上に存在しない頑丈で伸縮性の高い素材を使ったくらいだ。
本当はもう少し肌の露出を減らしたいんだが、夏の間とか修行中は夏服の方が活動しやすいから仕方が無い。何より蒸し暑い。
「これは?」
「服がボロボロだろ、これで一旦表面だけ整えておけ。それから風谷と二人で買い物にいってこい」
「あ~…完全に忘れてた。ありがと、アリエルさん」
正直これだけ小さい二人だ、同行しないのはちょっと心配だが服の買い物に付いていきたくはない。
それに一応中学生らしいし、多少のやり取りはできると思っている。
実際、見た目に反して結構知識があるようだしな。
「下着がない…」
「あのな、男に女物の下着を用意させないでくれないか」
上着だけでもちょっと怖かったんだから勘弁してほしい。確かに下着も汚れてるなら着替えたいかもしれんが、こればっかりはどうしようもない。
二人に「念力移動」でとりあえず一人3万円ずつ持たせてから、見送ることにした。
さて…今の内に修行用の道具を用意しておこう。
手元に数字の書かれた白いブロックを生成しながら、二人の帰りをゆっくり待った。




