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ソノ夢ハ #3

「あ〜懐かしいなぁ」

そんな幸せな一コマが新しく出来たページに躍動している事を確認し

“ご主人様募集中。連絡先を教えてください。あなたの奴隷になりたいメス豚より”

書き添えた。気がつくと数時間が過ぎており部屋の温度も上がっている。だから返事を待つ間クーラーの温度を上げ、シャワーを浴びる事にした。

 浴室には彼が残していった残骸が有り

「邪魔臭い」

彼女はそれを足で小突き、またぐ様にして水栓を捻る。

 愛子にはどの女性にもありがちなバスタイムの楽しみがあった。それはアーユルベーダのシロダーラの様に

“第三の目”

に向かってシャワーを注ぐ事。眉間から上の生え際に向かって、シャワーのノズルを一本の流水に切り替えお湯を流すやり方。

「あ〜」

愛子はだらしない声でそれを楽しんだ。シロダーラは

“脳をマッサージ”

すると言われているインドの医療の一種で、最近はエステでも体感できる様になっていて。彼女はその

“脳をマッサージしてもらう”

快感が好みだった。頭の中、ぐちゃぐちゃとかき回してもらえたらどんなに幸せか、もし死ぬんだったらそんな風にして死にたいと思えた。

 心も躯もさっぱりとした愛子はいつもの様に体を二度丁寧に拭いてから、タオルだけを巻いた姿で瞳をきらきらと輝かせながらパソコンの画面を覗き込んだ。あれから23分も経過している。彼女の望む

“ご主人様”

からの返事が来ていると思ったのだ。それなのに。

「嘘でしょう?」

愛子は小さく呻いた。

「馬鹿ばっか」

コメントは来ていた、コメントは。口汚いお褒めの言葉に、激励の叱咤。紛れ込んだクズ野郎のマジな

『あんた、本当に変態だよ。医者行った方が良いんじゃない?』

空気を読めないお説教。でも肝心の

“連絡先”

がない。

「信じらんない」

件数163。内、ヒット0 。

「有り得ない、本当」

彼女はページを再読み込みし、その現実に愕然とし、思わず呟く。

「てめえら、本当に付いてるもの付いているのかよ」

イライラしながらスクロール。

 そしてコメントは増えるばかり。でも肝心の相手は誰一人吊れない。とその時、昔流行った朝の連続テレビ小説のテーマソングが彼の部屋で響いた。

「もしかしてこれって」

立ち上がり彼が残して行った携帯を手に取ると、そこには女の名前が記されていて。

「こいつだ」

直感で彼を奪った女だって気がついた。だから愛子は

「良い事考えたぁ」

は虫類の様な笑顔を浮かべ急いで風呂場に戻り、シャワーを全開に出し携帯の通話ボタンを押す。

「はぁい、もしもしぃ。加納でございまぁす」

相手より先に声を出し

『あれ?』

少し戸惑った女の声に

「俊介様はぁ今ぁシャワーを浴びていらっしゃいますからぁ、私に電話番を御命じになりましたぁ」

ぺろっと真っ赤な舌を出す。

「今すぐにはお出になれませんのでぇ、ご用件をお給わりますぅ。ご主人様がぁお風呂からお上がりになられてぇ、私の愛のこもった全身でのご奉仕が終わりましたらぁ、ご連絡さし上げる事ができるかと思いまぁす」

『あ〜』

その女は言った。

『間違えました』

慌ただしく切れた電話。

「ざまぁ見ろ」

愛子は急に気分が良くなり、持っていた彼の携帯を思いっきり振りかぶって壁に叩き付ける。がちゃんと音を立て携帯の裏のカバーが外れ、小さなねじが飛び。彼がこれを知ったら怒るだろうな、なんて事を考え彼女は興奮した。携帯は開閉式。折角だからと彼女は壊れた携帯を手に取って、パキン、パネルの継ぎ目の脆い部分でまっぷたつに叩き割る。

「そうだ!」

それは彼女にとって神からの啓示の様に降り注いだアイデア。

「さすが私!」

手早く化粧をし、服も着替え

「火の元も電気も全部消したよね」

さくっとチェックを済ませると車の鍵をつかみ部屋を飛び出した。


 彼女が帰って来たのはそれから3時間後の事だった。手には大きな荷物を抱え、うきうきした気分は隠せずにいた。でも部屋のドアを開けた瞬間、そこに籠った暑い臭気に

「しまったなぁ」

思わず舌打ちをする。

「冷房消してくんじゃなかった」

なにしろ今日の気温は37度を記録し、人間の体温より暑い位だ。ホームセンターも車のクーラーも全開。だから余計この部屋の暑さに腹が立つ。

「畜生」

彼女は急いでクーラーと扇風機のスッチを入れ、誰もいない事を良い事に素っ裸になるとドライブスルーで買って来たハンバーガーにかぶりついた。真夏限定スペシャルバージョン、ホットジューシーダブルサンド。二枚入った大きめのパテにチリソース。それからたっぷりのケチャップ。彼女は潔癖性の母親に育てられた。その反動で自分がこんな風になったと感じる時が時々有って、そんな抑圧された心を解き放つためわざとだらしない事をしてみせる事が有った。今が正にそれ。唇の端から垂れたケチャップがだらりと胸元を伝い体を汚す、その気味の悪い感触を楽しんだ。

「んんっ」

べっとりと口元に付いたぬめりを右手の甲で拭い、まるで血の様に顔になすり付ける。指の間にもソースは入り込むから、まるで吸血鬼にでもなったかの様に隙間をしゃぶる。それはスプラッター映画というよりは、幼い子供が遊び食べをしている様な仕草。そんなくだらない事をしながら彼女は微妙な満足感を感じていた。クチャクチャと音を立てながら噛む肉の感触も、ちりちりと喉に引っかかる辛味も何となく良いことが起こる予感を運んで来る。でも現実は

「最低」

汚れた躯を洗おうと開けた浴室は不十分な換気の所為で空気が籠り、臭い。そのむせ返る匂いに慌てて換気扇を回し、浴室に冷たい水を流した。

「全く」

彼女は手早くシャワーを浴びると、ドアを閉めずに部屋のクーラーで浴室も冷やそうとした。

「腐られたら大変」

呟きながら。それからホットパンツにTシャツという出で立ちで、早速買って来た品物を確認する。

 それにしても良い世の中になったと思う。彼女が手にしているハンディチェンソーは替え刃が付いて特売の9800円。しかも誰でも使えて強力と来ている。ホームセンターのおじさんはとても親切で

『木を切りたかったらこうすれば良いよ』

詳しいアドバイスをしてくれた。だからそれに従う。

 まず固定。床に転がしたままの彼の重い体を浴槽に入れ、肩から上を外に出す。人間というものは不思議なもので、生きている時は関節や神経の働きが有る為か、その体を他人が自由に動かす事は比較的難しい。なぜか

“生きている”

バランスが有るのだ。しかし魂の抜けた体は違う。一変し

“モノ”

と化し足の先から頭の先まで重さが均一になり、巨大な

“肉塊”

になる。愛子は

「木偶の坊!」

彼の亡骸を浴槽のいたる所にぶつけながら押し込んだ。とりあえず頭を突っ込み、次に足を持ち上げ引っくり返し。てこの原理だ。それから頭を抜き出して。死後硬直が始まっていてやりにくかったものの、それでも床に置いていた角度が良かったのか、うつぶせて少し丸みを帯びたその姿勢は丁度良い形。それから高さの合う椅子を浴室に持ってゆき、愛子がそこに座る。

「これで良し」

彼女の両膝が彼の頭を両側から挟み込み、いい感じで固定が出来る。室温が高かった所為か太腿から伝わる彼の体は生温く、まだ生きている人間の頭が股間に潜り込んでいる感じで彼女は少し興奮した。

「危ない、危ない」

彼女の好物は虐めてもらう事。

『ここで

“死姦”

に目覚めちゃってどうするのよ』

さもおかしそうに笑いながら作業を続けた。

 ここまで来たらあとは十分なコードの長さだった。案の定それは足りなく、探すのも面倒な愛子はパソコンにつないでいた延長コードを抜いて継ぎ足す。ここまでは完璧。

 返り血で服を汚すのは嫌だから、愛子は服を脱ぎ捨て作業に取りかかろうとした。その露になった自分のエロスな肉体を不意に意識し、

「折角だから」

彼女は小さく呟いた。なにしろこれは日常的にする事じゃ無い。記念にビデオを撮っておいても罰は当たらないはずだ。アングルに自信は無いけれど、二台もあれば何とかなる気がし、手慣れた仕草でセットをする。先ほど感じた

“ぞくぞく感”

はなかなか良かったと思ったから、もし上手くいけば

“怯えながらも快楽を感じてしまうM女の姿”

を写せると思ったのだ。

 とりあえず刻む場所を間違えるのは嫌なので、マジックインキと定規で彼の体に線を入れた。真っ直ぐに。彼の肩は右が少し上がり気味で、その所為で線に左右差が出来る。それが気に喰わない事以外何とか上手く線をひく事ができ、彼女は早速チェンソーのスイッチを入れた。こう見えて図工は得意だったのだ。

「意外と振動があるものなのね」

そっと肌に刃を当てた瞬間

「あっ!」

ずるり。死んでいるはずの加納が動いた。


     続く


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