とりあえず外へ
叫んだら少し落ちついた。
そして異世界に来てしまったと理解した。
地球広しといえども、老いも若きも男が全員お坊さん頭状態の文化圏とか知らない。あと、男は歩かず少し浮いてるのがデフォとか意味不明。
どうやら、異世界最強魔術師(笑)らしいこの身体の持ち主が、死にそうな魂を異界(=地球)で見つけて、吸収して自身の延命の糧にしようとして失敗したみたいだった。ざまーみやがれ。
本来の魂がどうなったかは解らないが、元の持ち主の計算だとその場合魂が消滅してしまうようだ。つまり成仏しちゃってんだろう。ナンマンダブ。
そしてこの身体の記憶だが、私が対象の事象を考えると頭痛がして思い出すという、頭痛なしで思い出していただきたいのだがそうもいかないっぽい。理由は不明。
そもそもどうして乗っ取れたのかも不明なので、検証するにも時間がかかりそう。しないけど。
「とりあえず外に出ないとなぁ」
この世界の時計の見方も判明した。針が高速回転しているせいで見方はわかるのに何時か確認するのに時間がかかるという誰得な時計でした。動体視力の認識と頭の中を一致させるのに難儀したけど無事に克服できた。さすが最強(笑)の体。
うたた寝している間にココと地球の我が家の座標がズレてしまったようなので、近い座標を求めて移動する必要がある。
座標さえ近ければ帰り方はわかるので、楽勝モードでウキウキしながらドアに手をかける。少しだけ異世界を見てみたかった。
魔法使いがいるんだからドラゴンとかもいるかなーと思いながら、開けたら閉めるを実践した直後、透明感があってスラっとしたおみ足が飛んできた。
足の次は腕、膝、肘、頭突き、手刀、手刀、手刀。
さっきの時計の針以上の弾丸っぷりに対応できない。
ついでに体の周りで火花っぽい物が飛び散るので非常に怖い。
綺麗なおみ足も手も、ついでに頭も私の体には届いていないが、代わりに間近で火花が飛び散る。あ、今度は静電気のバチっていうやつが鳴った!
などと冷静っぽく冷静じゃない感じで呆けていたら、火花が小型の雷に完全に切り替わった。
なぜ? と思った途端に頭痛きた! めっちゃ痛い!!
蹴りとか風圧すらこないのに頭痛がハンパない!!
反射的にまぶたを閉じると脳裏に1人の美人さんが浮かび上がってきた。
―紫色を帯びた暗く上品な紺青色の髪に透き通った水のような瞳。
―表情がない顔に、計算通りの微笑が浮かんだ時の感動。
―こだわりぬいた華奢な肢体とバランスのいい肉付き。
ちょうど、目の前で暴れている人にそっくりである。
「・・・・・・人じゃなくてホムンクルスとかゴーレム的な何かなの!?」
さすが異世界。魔術的人造人間とかすげーなと感心しつつ頭痛継続中である。痛い。
どうやら火花はこの体の持ち主が組んだ魔術で、攻撃に対してオートで無害にしてるっぽい。
火花が小さな雷に切り替わったのは、防御の第一術式が燃料切れで機能停止したから。
物理担当の一番が止まったので、魔術担当の二番と波及もしくは間接被害担当の五番が頑張っているらしい。
ちなみに三番は身体への状態異常、四番は精神への状態異常をオートで相殺する魔術式だ。
「って、やばい!!」
このままだと二番と五番も燃料切れになる!
記憶から燃料補充を引っ張り出し、目の前の空間に点在するおぼろげな霧のような物に触れる。魔法とか魔術とか魔力とかがさっぱり分からんので真似だけやってみる。
中和反応が火花に戻った。
体や空間に変化はなかったが、無事に一番さんが再起動されたようである。一安心だ。
「アナタはマスターではナイ」
雷が火花になっても攻撃し続ける彼女は、射殺せそうな視線をこちらに向けて、小さく呟いた。
美人さんの睨みまじ怖い。
どうしたもんか。
美人さんを壊すわけにもいかないし、捕まえるとかならできるかなぁと考えていたらズキッと頭にきた。
「・・・・・・・・・何たる変態」
この身体の持ち主を心底軽蔑しながら、目の前の美女を抱き寄せてキスをした。