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第8話 暗殺者は爆炎を巻き起こす

 俺はスライムに向けて銃撃を叩き込む。

 弾丸は命中するも、粘液に取り込まれて消化されてしまった。

 少しのダメージにもなっていないのは明らかだった。


 俺は車内を覗き込み、懸命に運転するケイトに話しかける。


「ブチ切れてるみたいだが、火で逃げるんじゃなかったのか?」


「私も、これは予想外の反応で……すみません」


 ケイトは悲痛な顔で謝ってくる。

 彼女もこうなるとは思わなかったのだろう。

 迫るスライムを前に、精神的に追い詰められている。

 それでも事故を起こさずに道を進めているのは、彼女の心の強さ故だろう。


 ケイトは自らの役割を完璧にこなせている。

 こちらから感謝こそすれど、批難する道理はなかった。

 だから俺は笑顔でケイトをフォローする。


「いや、これでいいさ。向こうも無傷ではないみたいだ」


 気休めの言葉ではない。

 スライムは一見すると完全に回復していた。

 しかし、最初の頃より体積が減っている。


 移動スピードは上がっているも、積極的に攻撃してこようとしなかった。

 放置車両からもなるべく離れようとする素振りがある。

 こちらの反撃を恐れている様子だ。


 先ほどの爆発は、スライムにとっても痛打だったらしい。

 やはり火が弱点なのは間違いない。

 同じ要領で爆発を直撃させていけば、迎撃できる可能性は高かった。

 それどころか完全に倒し切れる望みもある。


 長年に渡って培ってきた勘が囁くのだ。

 あのモンスターは倒せる、と。


 そうなってくると話は違ってくる。

 無敵のモンスターなら撃退するだけで十分だが、殺せるのならば是非とも殺してみたかった。


(あとは仕留めるまでの流れだな……)


 具体的な段取りを考えていると、スライムが溶解液を射出してきた。

 かなり正確な狙いだ。

 俺は咄嗟に腕でガードする。


「おっと」


 溶解液を浴びた腕が瞬く間に変色する。

 前腕の肉がピンク色の粘液となり、泥のようになってずり落ちた。

 激痛の末、骨だけとなってしまう。


 そこから逆再生のように肉が盛り上がって皮膚ができ始めた。

 しっかりとスキルが働いているようだ。

 素晴らしい。

 完治まではもう少し時間がかかりそうだが、別に力仕事をするわけでもない。

 治ると分かっただけで十分だった。


 その後、俺はスライムと激闘を繰り広げる。

 こちらからは車両の爆破で攻撃し、向こうからの溶解液は手足で受けた。

 警察車両が溶かされないようにする。

 俺は再生できるため、いくらでも被弾していい。


 たまにケイトから弾薬と手榴弾を貰った。

 彼女は相当な量の武器を所持しているようで、弾切れの心配はしなくて済んだ。

 収納スキルの利便性を思い知らされる。


 戦いが始まってからおよそ十分。

 警察車両は、相変わらず大通りを走っていた。

 狭い路地は格好の獲物となってしまうため、できるだけ避けてもらっている。


 俺は進行方向を一瞥する。

 交差点となったそこには、ガソリンスタンドがった。

 無人のタンクローリーが放置されている。


「……よし」


 良い手段を閃いた俺は、さっそくケイトに指示を送る。


「ガソリンスタンドに直進してくれ。合図を出したら曲がるんだ」


「えっ、あの、それは……」


 動揺するケイト。

 言い淀む彼女だったが、俺の顔を見て決意を固めたらしく、無言で頷いてくれた。


(いい覚悟だ)


 危ういところが目立つ新人だが、見所がある。

 ここぞというシーンで判断が早いのは才能と言えよう。

 彼女の場合、極限状態で真価を発揮するタイプだ。

 運転技術もなかなかで、収納スキルもいい。


(下っ端の警官にしておくのは勿体ない。あとでスカウトしてみるか?)


 基本的にコンビは組まない主義だが、こんな世界では話が別だ。

 ケイトは同行させるには最適な性格だろう。

 能力的にも及第点に達していた。

 タイミングを見て、それとなく打診をかけてみようと思う。


 無論、まずはスライムの処理が先だ。

 いつまでも相手をしてやれるほど暇ではない。

 俺はスライムに向けて大声を発する。


「ほら、かかってこいよ! ビビってんのか、このゼリー野郎っ!」


 スライムが大きく震える。

 奴は左右の建物に触手を伸ばしながら加速してきた。


 俺の挑発はしっかりと伝わったらしい。

 あのビジュアルで、意外にも知能があるのだろうか。

 よく分からないが好都合である。

 狙い通りに気を引くことができた。


 車両はガソリンスタンドに突進していく。

 背後から迫る触手を銃撃で弾きつつ、俺は距離を見計らう。

 そして、ケイトに指示を出した。


「今だ」


「はいッ!」


 車両はガソリンスタンドの目前で大胆なドリフトをかました。

 響き渡る甲高いスキール音。

 俺は振り落とされないようにしがみ付く。


 歩道に乗り上げながらも、車両はなんとか左折した。

 街灯にぶつかって倒しつつ、通りを引き続き爆走していく。


 一方でスライムは、勢いを止められずにガソリンスタンドに衝突した。

 弾みで粘液が飛び散る。

 無論、それで死ぬようなモンスターではない。

 スライムは蠢きながらもこちらへの接近を再開しようとしていた。


 俺はそこにサブマシンガンを向ける。

 引き金に指をかけながら、別れの言葉を呟く。


「お好みのウェルダンだ。たっぷり味わいやがれ」


 銃撃でタンクローリーを蜂の巣にしていく。

 そこから引火して、大爆発が巻き起こった。

 一瞬にしてガソリンスタンド全体が炎に包まれる。


 衝撃で周囲の建物のガラス窓が一斉に弾けて割れた。

 黒煙が立ち昇り、只中でスライムが燃えていく。

 そのまま地面に広がって蒸発してしまった。

 残されたのは緑色の乾燥した残骸だ。

 それも炎に巻かれて焦げ付いていく。




>取得経験値が既定値を突破しました

>レベルが上昇しました


>スキル【戦略 B】を取得

>スキル【爆破 C】を取得


>取得経験値が既定値を突破しました

>レベルが上昇しました


>取得経験値が既定値を突破しました

>レベルが上昇しました


>取得経験値が既定値を突破しました

>レベルが上昇しました




「ハッハッハ! いい焼き加減だ! こいつは傑作だなァッ!」


 俺は爆笑した。

 車両の上に寝そべって腹を抱える。


 最高に清々しい気分だった。

 アドレナリンが大量に分泌されているのを感じる。


 やはり変貌した世界はいい。

 今後も仲良くやっていけそうだ。

 大炎上するガソリンスタンドをよそに、警察車両はその場から走り去った。

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