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第7話 暗殺者は巨大モンスターに追走される

 膨張する粘液は、地上にどんどん溢れてくる。

 ついには車道を占領する程度のサイズにまで至った。

 それなりに弾力があるのか、高さも伴っている。

 まるでゼリーのような質感だった。

 それが揺れながら近付いてくる。


 俺はサイドミラーで様子を眺める。


「あれもモンスターなのか?」


「ス、スライムですよ! 物理攻撃が効きにくい強敵です!」


 ケイトは真っ青な顔をしていた。

 彼女はアクセルをベタ踏みして、警察車両を急加速させる。

 相当に慌てているのは明らかであった。


「戦ったことがあるのかい」


「一度、警察署を襲撃されました。あの時は何とか撃退できましたが、多くの命が犠牲となりました……」


「そいつは災難だったな」


 悲しそうに言うケイトに、俺は慰めの言葉をかける。

 ただ、生憎と彼女を気遣う余裕はない。


 スライムは徐々にスピードを上げてこちらに接近し始めていた。

 言うまでも無く俺達を狙っている。

 何もしないままでは、ほどなくして追いつかれるだろう。


 そう判断した俺は彼女に手を差し出す。


「銃を貸してくれ」


 ハンドルを握るケイトは首を横に振る。

 彼女の視線は、しきりにスライムを気にしていた。


「スライムに弾丸は通用しません。ただ吸収されてしまうだけです」


「それでもいい。いざという時に使えたりするんだ」


 とにかく武器は必要だ。

 あんな不定形のモンスターに素手で挑むほど、俺は馬鹿ではない。

 銃の有無は大きく、様々な使い道が考えられる。

 ケイトは通用しないと言っているが、おそらく活躍してくれるだろう。


 少し逡巡するケイトだったが、やがて片手を俺に向ける。

 そこにはサブマシンガンが握られていた。

 オークと倒した時のものと同じ型である。

 加えて予備弾倉もいくつかあった。


「助かるよ」


 俺はまとめて受け取る。

 武装としては申し分ない。

 ひとまずやれることが格段に増えたと言えよう。


「念のためにこれもお渡しします」


 ケイトがそう言うと、彼女の手の上に手榴弾が出現する。

 取り出すような動作は見ていない。

 まるで転送でもされてきたかのように現れた。


 俺は手榴弾を掴み取りながら尋ねる。


「それはどうやっているんだ? オークとの戦いでも同じことをしていたが」


「私の持つ【空間収納】のスキルの効果です。見えない鞄から物を出し入れできるイメージで――っ!?」


 説明するケイトは、途中で目を見開いてハンドルを切った。

 車両が急旋回して激しい揺れに襲われる。


 そして、すぐそばに大量の粘液が落ちてきた。

 スライムが飛ばしてきたのだ。

 着弾箇所から白煙が昇り、道路が溶けていた。


 それを目撃した俺は眉を寄せて唸る。


「溶解液か。厄介な能力だな」


「人体に浴びれば、たちまち死んでしまいます……同僚が何人もやられました」


 ケイトは唇を噛んで言う。

 確かに道路を溶かすような威力なら、人間だとひとたまりもないだろう。

 彼女の様子から察するに、悲惨な状態になるに違いない。


 俺は再びサイドミラーを確認する。

 スライムはあちこちに溶解液を飛ばしながら加速していた。

 だんだんと距離を詰めつつある。


 俺はシートベルトを外すと、銃を手に席を立った。


「このままだと追いつかれそうだ。俺が迎撃しよう。あいつの弱点を知っているかい」


「前に撃退した時は、火を受けて逃げていました。体積も減っていたので、高熱や火といったものが苦手みたいです」


「なるほど、それはいい情報だ」


 俺は開いた窓を潜り抜けて、車両の上に移動した。

 強風を受けながらも、しっかりと車体を掴んで飛ばされないようにする。

 その状態で運転席のケイトに指示を発した。


「このまま適当に走り続けてくれ。止まらないことが重要だ」


「わ、分かりましたっ!」


 ケイトが懸命な口調で返事をする。


 俺は身体を起こして後方を見やった。

 スライムは依然としてこちらを追跡している。

 止まる気配は無かった。


「さて……」


 俺はケイトから貰った手榴弾のピンを抜く。

 それをスライムに向けて放り投げた。


 手榴弾は粘液に張り付いて、爆発を起こす。

 スライムの一部分が吹き飛び、焼けた部分が白く変色した。

 そこが脆くなってぼろぼろと崩れる。


 しかし、すぐさま再生し始めた。

 元の状態に戻ったスライムは、平然と追いかけてくる。

 若干ながらも体積が減った気がするが、ほとんど誤差の範囲だろう。


(火力不足といった感じか……面倒だな)


 俺はその様子から分析する。

 スライムが小型なら、手榴弾でも殺せそうだった。

 ただし、あれだけ巨大だと、生半可な威力では仕留め切れない。

 再生能力も持っているようなので、瞬間的な火力が必須である。


 これは警官達が苦戦するのも納得だった。

 彼らの所有する武器で、スライムを倒すのは至難の業だ。

 人員を増やして対処できるような相手ではない。


 どうしたものかと考えていると、頭上から影が差す。

 見上げると、スケルトンが降ってくるところだった。

 近くの建物から落下してきたらしい。


「おいおい、今はお呼びじゃないぜ?」


 俺は苦笑しながらスケルトンの首を掴む。

 そのまま身体を反転させて引き倒した。


 スケルトンは骨を鳴らしながらもがく。

 もっとも、大した膂力ではない。

 俺の行動を妨げるほどではなかった。


「ちょっと餌になってくれ」


 スケルトンを持ち上げると、そのまま後方へと投げ飛ばす。

 道路にぶつかって転がったスケルトンは、迫るスライムに衝突した。

 逃げる間もなく粘液の中に取り込まれ、白煙を立てながら溶けていく。

 骨が形を失って完全に消えるまで数秒。

 スケルトンは、いとも簡単に吸収されてしまった。


 なかなかの消化能力である。

 人間が触れれば最後、あっけなく溶かされて死んでしまうだろう。

 内部に取り込まれたらほぼ即死と考えていい。


 接近戦は良くない。

 やはり遠距離から仕留める必要があった。


「おっ」


 俺は道端に放置車両を発見する。

 それだけなら珍しくない。

 しかしその車両は、派手にひっくり返っていた。

 底部を露出している。


 俺はサブマシンガンを構えた。

 照準を車両に固定する。

 警察車両はその車両のそばを通り過ぎる。


 続けてスライムがその真横を抜けようとした。

 その瞬間、車両の底部に向けて銃撃する。


 弾丸を浴びた車両が爆発を起こした。

 手榴弾よりも幾分か強力だった。


 至近距離でそれを受けたスライムは、蒸発するような音を立てて停止していた。

 爆発を受けた箇所がごっそりと減っており、泡立ちながら痙攣している。


(やったか……?)


 俺は銃を下ろして様子見する。


 しばらく震えていたスライムだったが、泡の発生を止めた。

 欠損箇所が膨らんで元通りに修復し、一定のテンポで脈動する。

 そうして持ち直したスライムは、怒り狂ったような激しさで接近を再開した。

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