第33話 暗殺者は再会を心待ちにする
仮眠を終えた警部と共に、俺は探索を再開した。
彼女の動きは、さらにキレを増している。
今まで相当な疲労が蓄積されていたのだろう。
それが解消されたことで、万全のパフォーマンスを発揮できるようになったようだ。
今までの状態が絶不調だったことに驚きである。
初めて出会った頃に比べると、警部は本当に強くなっている。
彼女はこの世界に順応していた。
正義に固執する癖はあるものの、生き残れるタイプだ。
この絶望的な警察署でも単独で行動できていることからも、それは明らかであった。
警官繋がりで言うと、ケイトも意外としぶとい印象だ。
彼女は非力でいつも動揺しており、お世辞にも逞しいとは評し難い。
ただ、ケイトからは成長の余地を感じた。
彼女は思い悩みながらも、決して考えを止めない。
自分にできることを全力で遂行しようとする。
この世界でなかなかできることではない。
そこには強靭な精神力があった。
元の世界を取り戻そうと動く姿は、立派な英雄である。
暗部を渡り歩いてきた身からすれば、眩しさを覚えてしまうほどだ。
無論、彼女のようになりたいとは思わないし、なれるとも思っていない。
それでも彼女の末路は気になる。
当初から関心はあったが、それがより顕著になった形だ。
まずはこのダンジョンから生還できるか問題だが、これに関してはあまり心配していない。
ケイトは窮地に追い込むほどに底力を見せるタイプである。
アリエラが同行していることも加味すれば、きっと生存できるはずだ。
(これで死体と対面したら笑うな……)
それなりに探索してモンスターに遭遇してきたが、飛び抜けて強い個体はいない。
彼女達だけでも対処可能なレベルだった。
今回のトラブルで、ケイトはきっとさらに成長しているだろう。
果たしてどんな風になっているのか、再会するのが楽しみである。
ダンジョンと化した署内を歩くうちに、下り階段を発見した。
そこにはゴブリンがおり、警官の死体を食っていた。
手や口を赤く染めて、一心不乱に咀嚼している。
「ぐっ……」
凄惨な光景を目にした警部は顔を顰める。
彼女は拳銃を連射すると、その場にいたゴブリンを残らず射殺した。
相変わらず見事な腕だった。
一発も外さず、的確に頭を撃ち抜いている。
ショックを受けても、それが彼女の攻撃を鈍らせることはない。
俺は滑らないように気を付けながら階段を下りていく。
途中、死体を漁りながら、警部に話しかけた。
「そういえば、ダンジョン化を止める方法について知っているのかい」
「まだダンジョン化の原因が不明のままだ。まずはそれを絞る必要がある」
警部は苦い表情で言う。
確かに彼女の言う通りだ。
ダンジョン化という俗称が付いているだけで、この現象は色々と謎すぎる。
加えて世界が変貌してから、それほど時間が経っていない。
未だにあちこちがパニックで、秩序が失われている状態が続いていた。
超常現象の解明などしている暇はないだろう。
「異世界人なら、原因を知っているのではないか。おそらく向こうの世界から流入した現象だ」
「アリエラか。確かに彼女なら知っていそうだ」
真相にはそれほど興味がないが、知っておいても損はないだろう。
どのみち彼女とは合流したいと考えている。
死体から拳銃と弾を入手した俺は、さらに下のフロアへと向かった。




