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異世界が召喚されました。 ~モンスターとダンジョンの出現で地球滅亡の危機ですが、気にせず観光を楽しもうと思う~  作者: 結城 からく


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第32話 暗殺者は空気を読む

 探索ペースはだんだんと上がっていた。

 予想以上に警部がパワフルに暴れまくるためだ。


 彼女の銃は、的確にモンスターを撃ち殺していった。

 しかも威力が不自然に高い。

 廊下を破壊しながら突進してくるオーガを、たった一発で仕留めることもあった。

 頭部が潰れても数秒は暴れることのできるモンスターが、鉛玉による風穴だけで静かになる。


 さすがに気になったので理由を訊いてみたところ、警部の持つスキルが要因だと判明した。

 彼女のスキルは【粛清 B++】と【射殺 B+】だ。

 前者は悪性の高い存在に対する攻撃力を向上させて、さらにスキル使用者が秩序的であるほど効果は高まるらしい。


 後者は、弓や銃火器の威力を底上げである。

 加えて霊的存在や、生命力の高い相手にも効果的なダメージを与えられるようになるそうだ。

 ひとたび彼女が銃を使えば、鉛玉だろうと怪物殺しの銀弾になるということだった。

 オーガを即死させられたのは、このスキルのおかげだろう。


 どちらのスキルも、初期段階で取得したものらしく、警部らしい能力であった。

 まさに彼女ならではと言えよう。


 余談だが、スキルの後に付いたアルファベットは、そのスキルのランクを表す。

 CよりB、BよりAの方が効果が高く珍しい。

 加えて+の表記もあればあるほど良いそうだ。


 一般人が所持するするスキル、ほとんどがCかD止まりらしい。

 Bを持っていれば評価されるという風潮だった。

 Aは皆無で、警察署の生存者の中では、それこそ【殺人術 A】を持つ俺くらいしかいないそうだ。

 相当に稀少なのだろう。

 正直、効果のほどは実感できていないが、何らかの形で俺に貢献してくれているのだと思われる。


 つまり要約すると、俺が例外なだけで警部のスキルも十分に強力で珍しい。

 元のスペックの高さも相まって、次々とモンスターを撃破していた。

 俺が同行していなくても、まったく問題ないくらいだった。

 彼女は高い安定性を維持して探索を行っている。


 そうして警部と合流してから一時間半が経過した。

 俺達はモンスターの死骸だらけの部屋で休憩を始める。

 入口は棚を倒して封鎖しておいた。

 外から叩く音と呻き声が聞こえるが、しばらくは持つだろう。


 俺は室内を調べて、コーラとポテトチップスを発見した。

 カロリー過多な組み合わせだが、これだけ運動しているのだから別に構わないだろう。

 どちらも開封して、嬉々として飲み食いをする。


 その最中、ふと視線を感じた。

 警部が呆れたような目でこちらを見ている。


「……呑気だな。もう少し気を引き締めることはできないのか」


「リラックスは大事だ。常に集中し続けるなんて、無理な話だからね。オンオフの切り替えはできた方がいい」


「貴様は既にオフのままだろう」


 警部は手痛い反論を投げてきた。

 俺はチップスを頬張りながら笑う。


「はは、そいつは否定できないなぁ」


 笑いながらコーラを呷る。

 甘ったるい味が、きつい炭酸と共に喉を通過していった。

 チップスの塩味を洗い流せたところで、俺は警部に尋ねる。


「そっちこそ、気を張りすぎじゃないか? 随分と体力を使っているだろう。仮眠を取るべきだと思うが」


「…………」


 警部は眉を寄せた。

 彼女は少しばつが悪そうに呟く。


「気付いていたのか」


「もちろん。仕事柄、弱った人間には敏感なんだ。殺す時に優先順位が付けやすくなるだろう?」


 俺が冗談めかして言うと、警部は考え込んだ。

 やがてペンを持った彼女は、床に一本の横線を引いた。

 ちょうど俺との中間地点にあたる場所だった。

 端から端までしっかりと引いている。

 線の向こうに立つ警部は、ペンを置いて俺に告げる。


「三十分だけ仮眠を取る。ただし、これ以上は近付くな。半歩でも越えた瞬間、貴様を射殺する」


「分かった分かった。神には誓えないが約束するよ」


 俺は気楽に応じる。


 警部はまったく信じていない顔でため息を吐いた。

 椅子に座った彼女は、腕組みをして目を閉じる。

 しばらくすると、微かな寝息が聞こえ始めた。


(……今はゆっくりさせてあげようかね)


 さすがにここで邪魔するほど、野暮な真似はしない。

 チップスを楽しみながら、俺は静かに微笑した。

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