第27話 暗殺者は帰還する
その後、俺達三人は暴徒の拠点を襲撃し、次々と壊滅させていった。
連中はそれなりに強い。
殺しに慣れており、レベルも上がっている。
数も多く、戦力としては十分だろう。
他の生存者では、とても勝てない。
しかし、今回ばかりは相手が悪かった。
俺は暴徒よりも高レベルで、殺しにも慣れ親しんでいる。
連中の始末を続ける中で武器も入手してきた。
たとえ致命傷を食らおうと、時間経過で簡単に再生できる。
あとは彼らに鉛玉をぶち込むだけだ。
世界が変貌する前からやってきたことである。
立場や状況が変われど、本質的には同じようなものだった。
アリエラも活躍していた。
異世界で賞金稼ぎをやっていた彼女は、悪党を殺し回っていた過去を持つ。
こちらの世界でも習慣のように殺戮していた。
今回、明確な目的を手に入れたことで、さらにペースアップに成功した。
魔術による変幻自在の攻撃は強力の一言に尽きる。
暴徒の中には魔術を使う者もいたが、アリエラの発動スピードに追いつけず、あえなく死体になってしまった。
他の異世界の魔術師を見たわけではないので断言できないが、おそらく彼女は相当なプロなのだろう。
横で戦いぶりを確認したが、見事な手際だった。
同業者になれば、きっと有名になるに違いない。
俺の立ち回りもよく観察しており、邪魔にならないよう意識していた。
そういった心配りができるほどの余裕を持っている。
ケイトの護衛も担当してくれており、非常に戦いやすかった。
一方でケイトも奮闘した。
拙いながらも俺達の邪魔をしないように戦っていた。
彼女の銃の腕前は、決して下手ではない。
的確な射撃で堅実に暴徒を倒していた。
ただ、戦闘のたびに浮かない顔をしていたのが気になる。
嬉々として殺しまくる俺達を見て、何か言いたげにする姿を見せていた。
たまに陰で胃薬を服用する場面も目撃している。
殺伐とした空間でかなりのストレスを受けていたらしい。
こればかりは仕方ない。
彼女は新人の警官だ。
これだけ血みどろの殺し合いをすることなど皆無だったのだろう。
気分が悪くなるのも当然である。
ただ、今後を考えると治していくべき部分ではあった。
周りが強制して克服できるものではない。
ケイト自身が変えていくしかないだろう。
そうして拠点を潰し続けること暫し。
街は夜を迎えて、さらに明け方が迫る時刻に達していた。
辺りはうっすらと朝の気配を帯びつつある。
俺達は警察車両で移動していた。
放置車両や瓦礫を避けながら道路を走行する。
「あの角を曲がれば警察署ですね」
「やっと着くのか。結構長かったな」
俺はガムを噛みながら呟く。
現在は警察署に戻るところだ。
地図に記された拠点をほとんど制覇したので、経過報告に向かおうと考えたわけである。
街中には暴徒の残党がまだ潜伏しているだろう。
しかし、それらの撃破は俺達の仕事ではない。
あくまでも拠点破壊が主な目的だった。
十分に役目を果たしたと言えよう。
「ハンクさんもお疲れなのですか?」
「そりゃ人間だからね。疲れる時は疲れるさ」
俺は笑いながら答える。
ケイトは、俺を怪物か何かと勘違いしているらしい。
確かに俺は不死身とは言え、疲労は蓄積している。
もっとも、必要とあればここからノンストップで半日程度は戦えるだろう。
それだけの基礎体力は備えている。
ただ、そこまで無理をする場面でもない。
休めるタイミングがあるなら、しっかりと有効活用すべきだ。
「あたしも付いて行って大丈夫なのかしら」
「私が説明するので問題ありません。アリエラさんは心強い味方ですから!」
「あら、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
アリエラは、微笑みながらポップコーンを食べる。
途中で寄った映画館で作ったものだ。
時間の都合で長居はできなかったが、いずれ映画を観に行きたいと考えている。
このご時世なら、他の客を気にせずに楽しめそうだ。
和やかに会話をしながら進んでいると、前方の曲がり角から何かが飛んできた。
アスファルトを転がるそれを見て、ケイトが急ブレーキを踏む。
「えっ」
「ほほう、こいつは……」
俺は顎を撫でて注視する。
それは人間の腕だった。
張り付いた衣服の袖を見るに、警官のものだろう。
俺は固まるケイトに指示をする。
「止まらずに進もう。確認した方がいい」
「はい……分かり、ました」
警察車両は走行を再開する。
ほどなくして転がる腕を避けると、曲がり角を越えた。
そこに見えたのは警察署だ。
ただしバリケードは破られて、大量のモンスターが押し寄せているところだった。




