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異世界が召喚されました。 ~モンスターとダンジョンの出現で地球滅亡の危機ですが、気にせず観光を楽しもうと思う~  作者: 結城 からく


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第26話 暗殺者はドライブを満喫する

 ゲームセンターを出た俺達は、警察車両で移動する。

 助手席に座る俺は、缶ジュースを開けて飲んでいた。

 ラジオから流れる音楽に合わせて、膝を指で叩く。


 こんなご時世でも、なぜか生きているラジオ局があるらしい。

 どこで放送しているのかは知らないが、上手くやっているようだ。

 いずれ他の街の様子も、この目で確認したいものである。


 そんなことを考えていると、後部座席から声がした。


「もうちょっと音楽を大きくできる?」


「ああ、できるよ」


 俺は声に応じながらラジオのボリュームを弄り、バックミラーを確認する。

 そこには魔術師アリエラが映っていた。

 彼女は窓の外を見ながら寛いでいる。


 自己紹介を終えた俺達は、共に行動し始めた。

 これといって目的もなかったアリエラ、暴徒殲滅を手伝ってくれることになったのだ。

 他ならぬアリエラが提案したのである。

 あの場で彼女を殺さないことが協力の条件だった。

 俺はその提案に乗った。


 アリエラはなかなかの腕前だ。

 魔術師というのも便利で、仲間にできれば心強いと思って承諾したのであった。


「こっちの世界ってすごいわ。そんなに小さな魔道具で音楽が聴けるんだもの」


「アリエラのいた世界では、こんなに発展していないのかい?」


「もちろんよ。移動手段は馬車くらいだし、灯りだって大抵は蝋燭とか松明なんだから」


「そいつは不便そうだ」


 モンスター達の出身である異世界は、文明が停滞しているらしい。

 この世界とは何十年――下手をすると何百年もの隔たりがある。

 とは言え、この街だっていつまで電気が持つか分からない。

 異世界よりも文明が後退する可能性もあった。

 今のうちにサバイバルの準備くらいはしておくべきだろう。


 ちなみに異世界人であるアリエラと普通に会話ができるのは、彼女が翻訳の魔術を使っているためだ。

 喋る内容が相手に伝わるように自動変換されているそうだ。

 便利な能力である。

 おかげでスムーズに意思疎通ができる。

 その魔術がなければ、やり取りできずに彼女を殺すことになっていたかもしれない。


「あ、煙草を持ってるかしら?」


「持ってるよ」


 俺はリュックサックから煙草とライターを取り出してアリエラに手渡す。

 彼女は煙草をくわえながら笑った。


「ありがとう。あなたも喫煙者なのね」


「いや、こいつは死体からくすねただけさ。俺は吸わない」


 どこかで使うタイミングがあるかと思ったが、別に無理して温存することもない。

 吸う人間がいるのなら、潔くプレゼントすればいいだろう。

 窓を開けたアリエラは、車外に紫煙を吐き出しながら呟く。


「煙草はいいものよ。気分は落ち着くし、魔力回復が促進されるの。ハンク、あなたも一本どう?」


「健康には気を遣っているものでね。遠慮しておくよ」


 俺の仕事の業界では、愛煙家がやたらと多い。

 副流煙はあまり好きじゃないが、文句を言うほどでもない。

 気遣いさえしてくれるのなら別に構わなかった。


 誘いを断られたアリエラは、運転席のケイトに話しかける。


「じゃあケイトは?」


「私も吸わないようにしていますね……」


「二人とも真面目なのねぇ」


 アリエラはは煙草をくわえながら嘆息する。

 既にこの世界に順応している様子だ。

 心身共にタフな女である。


 アリエラに感心していると、車両が急停止した。

 ケイトが険しい表情で前方を見つめている。


 そこには屈強な体格の鬼が立っていた。

 ゴブリンを何段階もパワーアップさせたような容姿だ。

 俺は窓を開けながら呟く。


「随分と強そうなゴブリンだな」


「あれはオーガよ。ゴブリンの上位種みたいなものね。馬車だって持ち上げるほどの怪力だから気を付けて」


 やり取りをしている間に、その鬼――オーガは近くの放置車両を持ち上げた。

 そのままゆっくりとこちらに近付いて、僅かに振りかぶる。

 どうやら車両をこちらに投げ付けようとしている。


 俺は窓の外に顔を出して苦笑した。


「はは、確かにあれは怪力だ」


「ど、どうしますか!?」


「そのまま直進でいい。素通りできるはずさ」


 ケイトに指示をすると、車両は前進を再開した。

 その間に俺は座席横からライフルを取り出す。

 ゲームセンターで入手したものだ。

 スコープも付いているが、今回は不要だろう。


 俺はライフルを構える。

 狙いの先にはオーガの姿があった。

 風を浴びながら狙撃し、オーガの両肘を撃ち抜く。

 オーガは短い悲鳴を上げて、持ち上げた車両を正面に落とした。

 さらに首を狙撃する。


 首のど真ん中に穴が開き、オーガが吐血した。

 しかし、奴は倒れない。

 血走った目でこちらを睨んでいた。


「へぇ、タフじゃないか」


「オーガは生命力の高さで有名よ。首を切り落とされたまま、二十の兵士を殺した逸話があるほどね」


「そいつはすげぇや」


 オーガが道路標識を引き抜いた。

 それを頭上に掲げるようにして構える。

 迫る俺達に向けて振り下ろすつもりらしい。


「させるかよ」


 俺はライフルで道路標識を狙撃した。

 甲高い金属音が鳴り響く。

 弾丸はポール部分に命中し、道路標識を半ばほどでへし折った。

 さらに指を撃ち抜くと、オーガは道路標識を取り落とす。


 止めにオーガの額を狙おうとしたところ、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと、アリエラが微笑を湛えている。

 爛々とした眼差しが、オーガを捕捉していた。


「今度はあたしの番よ」


 彼女の指先から火球が発射される。

 火球は加速しながら空中を突き進むと、吸い込まれるようにオーガのもとへ向かった。

 オーガの拳をすり抜けるようにして、その頭部に到達する。


 次の瞬間、爆発が起きた。

 オーガの頭部は、木端微塵に吹き飛んでいた。

 首の断面から、不規則に血が噴出する。

 オーガはふらつきながら、出鱈目に腕を振り回し始めた。


「逸話通りってやつかね」


 ぼやく俺はオーガの四肢と心臓に狙いを定め、ライフルの追撃を浴びせる。

 全弾を受けたオーガは怯み、道路に膝をついた。

 動きが鈍っており、立ち上がろうとしない。


「今だ。突進してやろう」


「は、はいッ!」


 ケイトがアクセルを踏み込む。

 車両は一気に加速し、首無しのオーガに衝突した。

 そのまま巨体を撥ね飛ばしながら通過する。


 車内が大きく揺れた。

 衝突部分はおそらく陥没しているだろうが、動作面には問題なさそうだ。

 俺はサイドミラーで後方を確認する。


 路上に倒れたオーガは、痙攣して血を流していた。

 さすがに起き上がる気配はない。

 放っておけば死ぬだろう。


「今のは良かったな」


「ええ、しっかりと芯を捉えていたわ」


「あ、ありがとう、ございます……」


 俺達の称賛を受けて、ケイトは照れ臭そうに礼を言った。

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