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異世界が召喚されました。 ~モンスターとダンジョンの出現で地球滅亡の危機ですが、気にせず観光を楽しもうと思う~  作者: 結城 からく


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第23話 暗殺者は魔術師と遭遇する

 ローブの女は、真紅のロングヘアーを揺らしていた。

 色白で紫色の瞳をしている。

 外見から考えるに、二十代半ばといった具合だろうか。


 彼女はゲーム機を睨んでいた。

 何か悩んでいる様子だ。

 俺は彼女の背後に回り込むと、銃を向けながら話しかける。


「やあ、何かお困りかい?」


 女がこちらを振り向く。

 特に驚いた様子もない。

 彼女はあまり関心がない様子で呟いた。


「あ、まだ残ってたのね」


 女は軽く指を振る。

 その瞬間、彼女の周囲に無数の氷が出現した。

 氷は徐々に鋭利な形に削れていくと、あっという間に槍のようなフォルムになる。


 氷の槍は、俺を狙って次々と射出された。

 俺はゲーム機の間を跳びながら回避していく。

 どうしても当たりそうな分だけ銃撃で破壊した。


 氷の槍は室内に突き刺さる。

 ゲーム機を粉砕し、火花を噴出させた。

 たまに狙いがずれて天井に炸裂して、電灯が割れて一部が暗くなる。


 槍が尽きたところで、俺は足を止めた。

 空になった弾倉を捨てながら文句を口にする。


「おいおい、危ないな。親切心を踏み躙らないでくれよ」


 今の魔術は、馬鹿にできない破壊力だった。

 人体は簡単に貫通できるだろう。

 店内に転がる死体の一部は、氷によって殺傷されていた。

 やはり前方に立つあの女が殺したと見て間違いない。


 女はほとんど予備動作もなく魔術を発動させていた。

 魔術について詳しくないが、相当に手慣れているのは間違いないだろう。


(こいつは気を抜けないな……)


 俺は笑みを深める。

 警部とは異なるタイプだが、あの女と同じくらい場数を踏んでいる様子だ。

 無駄に攻撃を食らうと、たちまち畳みかけられそうだった。

 再生能力に頼ってゴリ押しするのはナンセンスである。


 対するローブの女は、俺を見て感心したような顔をしていた。

 彼女は微笑しながら両手を広げる。

 その動きに合わせて、いくつかのゲーム機が浮遊した。

 宙に浮いた状態で静止する。


「なかなかやるじゃない。あなた、只者じゃないわね?」


「そっちこそ素人ではないな。殺しのプロって感じだ」


 俺が称賛すると、女は得意げに鼻を鳴らした。

 彼女は自慢を口にする。


「当然よ。これでも賞金稼ぎをやってるんだから。世界が変わろうと、悪党を殺すだけよ」


 女の言葉は、正義感に溢れているように感じられた。

 しかし彼女の愉悦に歪んだ表情は、それを否定している。


 あれは殺人を快楽や娯楽と捉えている人種の反応だ。

 過去に何人も見てきた。

 大義名分を盾に、思う存分に殺しを満喫するのである。

 ローブの女は、その典型例だった。


 そして彼女の台詞から、俺は一つの事実を察する。


(世界が変わろうと、か。なるほどな)


 おそらく女は、別の世界からやってきたのだろう。

 言うなれば異世界人である。

 モンスター達と同じ次元の出身と思われる。


 最初に変貌が発生した時、旅客機内にもそれらしき人間がいた。

 そいつから奪った剣で俺はドラゴンを抹殺したのだ。

 モンスターばかりが目立ちがちだが、人間もこの世界に迷い込んでいるらしい。


 まあ、そんなことは関係ない。

 ただの考察だ。

 実際がどうだろうと、俺の行動に変化はなかった。

 俺はサブマシンガンの照準を女の頭部に向ける。


「動くなよ。綺麗に脳天をぶち抜けなくなる」


「ふふっ、やってみなさいよ。あなたの武器より、私の魔術の方が速いから」


 女は不敵に微笑む。

 虚勢ではなく、本当に怯んでいない。

 肝も据わっているようだ。


 俺達は睨み合って沈黙する。

 先に動いたのは俺だった。

 サブマシンガンを乱射しながら走り出す。


 マズルフラッシュに照らされる先では、ばら撒かれた弾丸が女に殺到していた。

 女は手を前に突き出す。

 すると半透明のガラスのような壁が生まれて、弾丸を防いだ。

 細かい亀裂は走っているも、貫通までには至らない。

 拳銃弾とは言え、なかなかの耐久性だった。

 さらには浮遊させたゲーム機をずらしてガードしてくる。


 やがてサブマシンガンが弾切れとなった。

 それを悟った女はバリアーを解除し、手を振って火球を飛ばしてきた。

 サッカーボールくらいの大きさの炎が、俺を狙って正確に飛来する。


 俺は走って避けようとするも、火球はカーブを描いて追尾してきた。

 避け切れないと判断して、サブマシンガンを投擲して火球にぶつける。

 火球は乾いた音を立てて弾けた。


 俺は熱気を浴びながら床を転がる。

 その勢いで片膝立ちになると、拳銃を引き抜いて連射した。

 女はゲーム機の裏に跳び込んでやり過ごす。


(いい反応だ。銃撃戦にも慣れているようだ)


 俺はこまめに移動して、現在地を悟られないように意識した。

 そして不意を突くタイミングを窺う。


 女はなかなか動きが良い。

 こちらの作戦を読んでいる。

 狭いゲームセンター内を動き回り、上手く位置取りをキープしていた。


 たまに飛んでくる魔術は神出鬼没だ。

 直撃すれば、致命傷である。

 再生する前に追撃を叩き込んでくるつもりだろう。

 追い詰めたつもりになっていると、一瞬で形勢を覆されそうだった。

 油断ならない強敵である。


 そんな時、背後からケイトが駆け付けてきた。

 彼女は拳銃を構えながら真正面を陣取る。


「か、加勢しますっ!」


「あら、女の子?」


 顔を出したローブの女が意外そうに言う。

 ケイトの登場に虚を突かれたらしい。

 なんとも隙だらけな様子だった。


 そんな絶好の機会を逃すはずがない。

 俺は床を蹴ってゲーム機を跳び越えると、一息にローブの女へと接近した。

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