第22話 暗殺者は第二の拠点に到着する
俺達を乗せた警察車両は、二つ目の拠点へと移動する。
途中、馬に乗ったゴブリンの集団と遭遇したが、特に問題なく殲滅した。
奴らは槍や弓で武装していたが、こちらは現代兵器で武装している。
その時点で向こうに勝ち目はない。
接近される前に鉛玉で歓迎し、飛来する矢も撃ち抜けばいい。
少々の弾を消費しただけで簡単な作業だった。
運転するケイトがレベルアップしていたので、ちょうどいい経験値稼ぎになったと言えよう。
夕闇が迫る頃、俺達は二つ目の拠点に到着する。
そこはゲームセンターだった。
蛍光色のライトが点滅し、中から騒々しい音楽が絶えず漏れている。
そばに車両を停めた俺達は、銃を持って入口へと向かう。
店内へ入る段階で、俺は異変に気付いた。
「ん?」
濃密な血の臭いがする。
それも一人や二人といった話ではない。
大量の死体がなければ、こうはならないだろう。
暴徒達を殺しに来たつもりが、既に何かが起きているらしい。
とにかく、慎重に進んだ方がいいのは確かだ。
俺達は慎重に店内へと踏み込む。
薄暗い室内は、あちこちからゲーム音が鳴り響いていた。
様々な種類の筐体が並んでいる。
そこに紛れるようにして、いくつもの死体が転がっていた。
黒焦げだったり、全身に氷が刺さっていたり、床から生えた蔦に絞め殺されていたりと、非常にバリエーションが豊かである。
銃火器による死に方ではない。
これは魔術の仕業だった。
つまりどこかの魔術使いが、この拠点の暴徒を殲滅したのである。
(一体何のために殺したんだ?)
死体を調べていた俺は、いくつかの可能性を考える。
妥当なパターンと言えば、仲間内での裏切りや外部組織との抗争だろう。
元々、仲間意識も無いような連中の集まりだ。
いざという時は、あっけなく瓦解する。
しかし、銃殺された死体が一つもないのは不自然だ。
何人で実行したのかは不明だが、武器を限定する意味が分からない。
魔術が使えるとしても、普通は銃を使うだろう。
何にしろ、先を超されてしまったのは確かだ。
これについては別に構わない。
俺達の手間が少し減っただけである。
怒るどころか、むしろ感謝すべきだろう。
少なくとも暴徒よりは仲良くなれそうだった。
その時、俺はゲームセンターの奥に気配を察知する。
気配は一つで、耳を澄ますと微かに声が聞こえた。
この惨事を生み出した張本人だろうか。
なんとなく、暴徒の生き残りではない気がした。
「…………」
俺はジェスチャーをケイトに送る。
彼女は黙って頷くと、端の寄って待機の姿勢に入った。
意図は伝わったようだ。
俺は足音を立てないように気を付けながら歩みを進める。
手にはサブマシンガンを持っていた。
弾は既に装填しており、安全装置も外している。
相手の動き次第で、全弾をぶち込む所存だった。
仲良くなれそうとは思ったものの、相手がどんな奴かは不明だ。
既に狂っている可能性も十分に考えられる。
俺達を暴徒だと勘違いして襲ってくるパターンだってあった。
その際は容赦なく撃ち殺すつもりだ。
ここは弱肉強食の世界である。
たとえ勘違いだろうが、結果的に死んだ方が悪い。
どのような危険思想の持ち主でも、生きていれば正義となる。
俺の業界では珍しくもない風潮であった。
そういった物騒な心持ちで店内を進んでいく。
「あれ? うーん、おかしいな……こっちじゃない?」
電子音に紛れて、悩むような女の声がした。
距離はそれほど遠くない。
俺は筐体の陰から相手の姿を覗き込む。
ゲーム機の前で頭を抱えるのは、ローブを纏う若い女だった。




