第19話 暗殺者は拠点を襲撃する
「えっ、わわっ!?」
手榴弾を目にしたケイトは驚愕する。
彼女は足を滑らせながらも後ろを振り返ると、慌ててダッシュした。
爆発の範囲外に逃げようとしている。
「いきなりだなぁ」
俺は額に片手を当てて手榴弾を観察する。
正確な投擲だった。
もっとも、俺は爆発が直撃しても死なない。
覆い被さることで被害を小さくすることもできる。
ただ、その必要さえもなかった。
「よっと」
俺は足元に転がる金属パイプを爪先で蹴り上げる。
それをキャッチして振りかぶり、落下する手榴弾を打ち返した。
衝撃がいきすぎないように、絶妙な手加減を加える。
手榴弾は鋭い軌道で反転し、バーガーショップ二階の窓を突き破った。
騒ぐ声がして、間もなく爆発が起きる。
炎と黒煙と共に、血塗れの暴徒が外に吹き飛んできた。
落下した暴徒はぴくりとも動かない。
爆発の直撃で死んだらしい。
全身に金属片が突き刺さり、顔が分からなくなっている。
「ははは、ツーヒットってところかね」
俺は笑いながら駆け出す。
隣接する建物から暴徒が顔を出して、こちらに向けて銃撃を行ってきた。
直進する俺は膝を撃ち抜かれる。
「おっと」
よろめいて転ぶも、片脚を引きずりながら壁の陰に隠れる。
そこから腕だけを出してショットガンを発砲した。
「ぎゃぁっ」
悲鳴が上がった。
顔を覗かせると、散弾を浴びた暴徒が落下するところだった。
ショットガンの性質上、弾は散らばる。
しかし、これくらいの距離なら十分に当てられる。
同業者の中でも、銃の腕には自信があるのだ。
上には上がいるものの、ただの暴徒に負けるほどじゃない。
俺は片脚を確認する。
既に再生済みで、存分に動けそうだった。
壁の陰から飛び出した俺は、そのままバーガーショップへと直進していく。
後ろを見ると、ケイトも追従しようとしていた。
焦りながらも怯えや恐怖は見られない。
視線は状況把握に努めている。
(良い傾向だ)
少なくとも、足手まといにはならないだろう。
新人警官にしては上出来である。
俺はバーガーショップの入り口前に到着した。
腕だけを店内に見せびらかす。
すぐさま銃撃が始まり、弾丸を受けた片腕がずたずたになった。
血みどろで骨まで露出している。
「あーあ、グロいな」
肩をすくめた俺は腕を引っ込める。
しっかりと待ち伏せされているようだ。
迂闊に踏み込めば、すぐさま蜂の巣にされるだろう。
その場でケイトの到着を待っていると、隣の建物から暴徒が飛び出してきた。
暴徒が彼女に銃口を向けたので、即座にショットガンで後頭部を粉砕する。
「ひっ」
血と脳漿がケイトに降りかかった。
弾が当たらないように配慮したのだが、少し角度が悪かったようだ。
「すまないね。後でシャワーを借りよう」
ケイトに謝りつつ、俺は倒れた暴徒の手から銃を奪い取る。
それは箱型のサブマシンガンだった。
連射速度の高さから扱いが難しめだが、俺の好みである。
殺傷能力も十分に秘めていた。
俺はケイトにそのサブマシンガンを押し付けておく。
隣接する建物には、暴徒はまだ潜伏しているようだった。
しかし、すぐに出てくる気配はない。
ひとまずは放っておいても大丈夫だろう。
そこまで確かめた俺は、リュックサックから手製の爆弾を取り出した。
ボトル型のそれは、洗剤の容器を使っている。
即席の安全装置を解除し、店内へと放り投げてやった。
数秒後、爆発が炸裂した。
複数の断末魔が響き渡り、異臭が漂ってくる。
爆弾の内容物が気化したのだろう。
店内は大騒ぎだった。
隣では、ケイトが涙目で咳き込んでいる。
彼女は制服の袖で口と鼻を覆っている。
かなり辛そうだ。
「ガスマスクがあればよかったな」
探せば署内にあったはずだろう。
呑気に呟きながら、俺は店内へと侵入した。




