第18話 暗殺者は暴徒の拠点を訪れる
その後は特に話題もなく移動を続けた。
ケイトはすっかり怯えてしまっている。
データベースで閲覧した俺の素性と経歴を思い出したのだろう。
たぶん行動を共にしているうちに、彼女は勘違いしたのだ。
悪党を倒す俺に善人という印象でも持ったに違いない。
そこまで能天気じゃないにしても、話し合えば分かるのだと考えたはずだ。
言葉も通じるし、現在は協力関係を結んでいた。
ケイトが誤解する気持ちもよく分かる。
しかし、実際は大きな間違いである。
俺は人殺しを生業とするような男だ。
悪性で言えば、暴徒達と何ら変わりない。
連中より最低な面だって持ち合わせているほどである。
根本的に警官とは相容れない。
利害が噛み合わないのなら、あっけなく敵対している。
もしケイトを撃ち殺すことになっても、俺は決して躊躇しない。
今までもそうやって生きてきた。
裏切りなんて日常茶飯事だ。
逆に裏切られることだって何度となく味わってきた。
基本的に騙される方が悪い。
もし騙されたとしても、先に相手を殺してしまえば正義と言える。
俺が居座るのは、そういう業界だった。
皮肉にも、変貌した世界とは相性が良い。
培ってきた技術は、フルに活用して楽しめていた。
(ケイトのような人間は、どこまで生き残れるのだろう)
俺はふと疑問を抱く。
彼女の死に様には興味があった。
俺とは対極に位置するような人間だ。
この世界を生きていくには、厳しい性格をしている。
おまけに彼女は、壮大な目的を掲げていた。
それを本気で実行に移そうとしている。
(……埋葬くらいはしてあげるかね)
微笑する俺は、頭の後ろで手を組む。
些細な楽しみが増えた。
俺自身、明確な目的もない。
今後のケイトの活躍は、そばで眺めていようと思う。
そんなことを考えているうちに、俺達は暴徒の拠点に到着した。
地図通りの場所であるそこは、路地に面したバーガーショップだ。
集客を考慮しているのか不明な立地であり、殺伐とした雰囲気を漂わせている。
遠目にも気配が感じられた。
店内に暴徒がいるようだ。
隣接する建物にもいるのか、閉め切られたカーテン越しに視線を感じる。
路上に見張りはいない。
屋外は平気でモンスターが徘徊しているため、突っ立っているだけでも危険なのだろう。
その証拠に、バーガーショップの前には、射殺されたゾンビやゴブリンが散乱していた。
暴徒達は迎撃を繰り返しながら生活しているらしい。
さらには街中の生存者も襲撃していた。
なかなかに充実した毎日を送っているようだ。
ケイトは少し離れたところで停車した。
バーガーショップからは死角になった地点だ。
奥まった袋小路で、車を盗まれないか不安になる。
もっとも、最悪の場合は他の車を盗めばいい話だった。
そこら中に放置車両がある。
一台くらい貰っても文句は言われないだろう。
「……では、行きましょうか」
ケイトは車両から降りた。
構えた手には拳銃が握られている。
少し震えているが、問題なく撃てるだろう。
ケイトは戦うつもりらしい。
別に彼女は待機でもよかったのだが、やる気ならば止めはしない。
俺も助手席から降りる。
腰には拳銃を吊るし、手にはショットガンを携える。
リュックサックには他の武器や道具も詰めてあった。
俺達は二人並んでバーガーショップへと近付いていく。
「緊張しますね……」
「深呼吸をして、肩の力を抜くんだ。それでいて、五感は研ぎ澄ませる。いつ攻撃されるか分からないからね――」
俺は気楽な調子でアドバイスしつつ、視線を上にずらす。
バーガーショップの二階から何かが放り投げられた。
浅い放物線を描いてこちらへと飛んでくるのは、黒いボールのような物体だ。
目を凝らさずとも分かる。
ピンの抜かれたそれは、手榴弾だった。




