第16話 暗殺者は暴徒を蹂躙する
俺の放った追撃の散弾は、次々と暴徒を倒していった。
連中はバイクごと転倒するか、地面に転げ落ちる。
彼らは少しの傷で運転が疎かになるため、始末するのは非常に楽だ。
散弾はちょうどいい得物だろう。
無論、その間にも暴徒達は反撃を試みてくる。
弾を食らいながらも、俺は気にせず射撃を繰り返した。
どうせ後で再生するのだから、痛がるだけ損である。
途中、勇敢にも接近してバットを振り下ろしてきた者がいたので、そいつに関しては蹴り飛ばした。
さすがにこの状態で殴られると、バイクから転落してしまう。
そうなると面倒なので、対処せざるを得なかった。
大胆なやり方だけは評価したいと思う。
そうしてテンポよく撃ち殺していると、残る暴徒は一人となった。
男はバイクに乗っており、少し先を走行している。
彼はケイトの運転する警察車両に接近していた。
何度か道を曲がっても、正確に追跡を続けている。
他の暴徒が殺された中でも、まだ諦めていない様子だった。
その執念には拍手を送りたくなる。
(意地でも標的を逃がしたくない気持ちは分かるが、相手が悪かったな)
俺は背後からショットガンを構える。
残る弾も少ない。
ここでさっさと仕留めておきたかった。
照準を合わせた俺は二連続で発砲する。
ほぼ同時に暴徒のバイクが限界まで傾いた。
そのまま右に流れて避ける。
弾はアスファルトに当たって火花を散らすも、暴徒は無事だった。
「おお、やるなぁ」
素直に感心していると、暴徒が拳銃を向けてくる。
発射された弾は、いずれも俺に命中する。
俺は軽く血を噴いた。
胴体に開いた穴を見て、微笑む。
(他の連中とは別格だ。あいつがリーダーだったのか?)
動きが妙に手慣れている。
少なくとも素人ではなかった
世界が変貌する前は、ひょっとすると同業者だったのかもしれない。
もっとも、そんなことは関係ない。
俺の前に立ちはだかる以上、障害として排除するだけだ。
前職が何であろうと、殺せばただの死体である。
俺はバイクを加速させた。
ショットガンはリロードだけ済ませて置いておく。
遠距離で撃っても躱されるだけだ。
弾の無駄遣いにしかならない。
確実に当てられる距離まで接近する必要があった。
対する暴徒は拳銃を連射してくる。
俺は被弾しながらも距離を詰めていった。
やがて暴徒の拳銃が弾切れを起こす。
オートマチックとは言え、リロードが完了するまでに猶予があった。
それまでに攻撃を行いたい。
(もう少しだ……)
俺は暴徒との距離を目測する。
ショットガンを手に取り、照準を合わせようとした。
その時、暴徒が拳銃をホルスターに仕舞う。
彼はおもむろに手をかざしてきた。
そこから赤い炎が噴射する。
「おおっ?」
俺は咄嗟に首を傾けた。
蛇のようにうねる炎が、顔のすぐ横を通過していく。
高熱で皮膚が焦げた。
炎はすぐに消失するも、暴徒は手を構えたままだ。
また同じことをするつもりかもしれない。
今のは魔術である。
特定のスキルによって会得する特殊能力だ。
警察署で聞いた話によると、体内に蓄積される魔力というエネルギーを使って発動するらしい。
それによって様々な現象を起こせるそうだ。
魔術に関する噂だけは聞いていたが、目撃したのは初めてだった。
それなりにレアなスキルで、警察署にも使える者がいるという。
興味が湧いて一目見ようと探したのだが、生憎と会えていない。
おそらく警部が俺を警戒して、密かに匿っているのだろう。
酷い扱いだが、我ながら危険人物なので仕方ないとも思ってしまう。
それはともかく、最後の一人となった暴徒は炎の魔術が使えるようだ。
これが奥の手なのだろう。
「……まあ、関係ないがね」
俺はバイクをフルスロットルで突進させた。
案の定、暴徒が炎を放ってくる。
それに合わせて、俺はバイクの座席からジャンプした。
炎はバイクに直撃して大きく燃え上がらせる。
空中に躍り出た俺は、暴徒のバイクへと落下していく。
暴徒はさらに炎を発射してきた。
俺は片腕を前に出して炎をガードする。
腕の焼ける感覚がしたが、ドラゴンの吐く炎ほどではない。
十分に耐えられる。
止められないと察したのか、暴徒のバイクが急加速した。
俺に着地されたくないようだ。
離された距離と位置からして、さすがに手も届かない。
だから俺は、冷静にショットガンを構える。
「あばよ、サイキック野郎」
撃ち出した弾が、暴徒のバイクの後輪を撃ち抜いた。
バイクは左右に大きくぶれると、歩道に乗り上げて転倒する。
直後、俺もアスファルトに激突した。
かなりのスピードで無様に転げ回り、全身から嫌な音を鳴り響かせる。
しばらくして回転が止まったので、俺は起き上がった。
ねっとりとした血が、勝手に口から漏れ出てくる。
体内の痛みから推測するに、肋骨が内臓に突き刺さっているようだった。
他にも怪我は多い。
両腕はあちこちが折れているし、右の足首に至っては皮膚を突き破って骨が露出していた。
割れた断面が外気に晒されている。
このままだと、物理的に歩くことができない。
俺は各箇所を力任せに押し戻していった。
大まかにさえ治しておけば、あとは再生能力が何とかしてくれる。
まったく便利な身体になったものだ。
スキルやレベルがない状態では、これらの怪我が完治するのに一週間はかかっていただろう。
このおかげで大胆な動きを躊躇わなくてよくなったのは嬉しい。
傷が塞がったところで、俺は少し苦労しながら立ち上がる。
歩いているうちに細部の再生が始まっていた。
骨も素手に繋がりかけているようだ。
その足で転倒したバイクのもとへ向かった。
暴徒は、血を流して倒れている。
瀕死だがまだ生きている。
「……っ」
虚ろな目の暴徒が、俺に手を向けようとしてきた。
その手を踏み付けて固定する。
たとえ炎が放たれたとしても、俺に当たることはない。
「物騒なことをするなよ。怖くて泣きそうだぜ」
暴徒の口にショットガンを突っ込む。
そして引き金を引いた。
銃声が轟く。
暴徒のうなじ辺りが破裂した。
アスファルトに鮮血が飛び散る。
俺は暴徒の口からショットガンを引き抜いた。
死体を漁り、拳銃と予備弾を拝借する。
胸ポケットに煙草とライターがあったので、そちらも貰っておいた。
俺は喫煙者ではないが、貴重な物資だ。
どこかで使い道くらいあるだろう。
一方、警察車両は、前方でスピンしながらも停車していた。
暴徒の全滅に気付いたのだろう。
車両は交差点の前でウインカーを点滅させている。
(まだまだ仕事は始まったばかりだ。頑張っていくかね)
俺はショットガンで肩を叩きながら歩き出した。




