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異世界が召喚されました。 ~モンスターとダンジョンの出現で地球滅亡の危機ですが、気にせず観光を楽しもうと思う~  作者: 結城 からく


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第14話 暗殺者は暴徒を撃つ

 俺は銃撃を真正面から浴びた。

 鉛玉が体内を蹂躙し、一瞬で血みどろになる。

 上体は穴だらけで、車内も同じような有様だった。

 座席もずたずたに引き裂かれている。


 頭を下げていたケイトだけは、なんとか無事だった。

 再生能力を持たない彼女は、たった一発の弾丸が致命傷になり得る。

 同行者として、気を配らなければならない。

 仕事という形を取っている以上、彼女を死なせるつもりはなかった。


 ケイトは俺を見て驚愕する。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


「平気さ。それより運転に集中してくれ。もう顔を上げても大丈夫だ」


 俺は口内の弾丸を吐き出しながら応じる。

 身体は既に再生を始めていた。

 満身創痍であるものの、気にするほどではない。


 そもそもスキルが無くとも死ぬ怪我ではないのだ。

 仕事によっては、これより酷い傷を負うこともあった。


 俺は、世界が変貌する前から不死身と評される体質だったのだ。

 ましてや現在はスキルの補正も加わっている。

 少し蜂の巣にされたくらいで、怯むことはない。

 むしろ暴徒達から目を離さない方が重要だった。


 一斉射撃を終えた暴徒達は、建物からバイクを引っ張り出すと、それらに乗って走り始めた。

 大半が二人乗りで、後ろに跨る者が銃のリロードを行っている。

 俺達を徹底的に追い詰めるつもりらしい。


「上等だ。やってやるよ」


 俺は車外に身を乗り出すと、リボルバーを構えた。

 照準を合わせて発砲する。


 弾丸は先頭の暴徒の額を捉えた。

 転倒したバイクは、後続の一台を巻き込んでクラッシュする。

 火花が散り、投げ出された暴徒がアスファルトと熱烈なキスをしていた。

 あの様子だと、粉砕骨折で済めば幸運といった感じだろう。


「はは、いいね」


 微笑む俺は、リボルバーの撃鉄を起こす。

 妥協した上で使うことになった銃だが、これが意外と悪くない。

 俺はさらに連射し、同じ要領で計三台のバイクを追加で破壊した。


「あ、あの! 生きたまま捕縛しなくていいのですかっ?」


「捕縛なんてしない。警部が俺に頼んだんだぜ? つまりはそういうことさ」


 連中を逮捕したいのなら、他の警官に任せているだろう。

 間違っても俺に仕事を回さないはずだ。


 一方、残る暴徒達は一向に退く気配を見せなかった。

 彼らは唸るバイクを加速させて、俺達との距離を詰めようとしている。

 味方の被害を見て逃げ出すパターンも想定していたのだが、思ったより肝が据わっている。

 覚悟を決めているようだ。


(面白いじゃないか)


 俺は堪らず笑みを深める。


 臆病風に吹かれて逃げ出すようなら、こちらから追い縋るつもりだった。

 変わらず向かって来てくれるのなら好都合だ。

 わざわざ追いかける手間も省ける。

 このまま全滅するまで攻撃し続けてくれるのがベストだった。


 暴徒達が再び銃を構える。

 狙いは運転手であるケイトだった。

 俺は彼女の頭を下げさせる。


 間を置かずに銃撃が行われ、俺はまたもや蜂の巣になった。

 もちろん死ぬことはない。

 何度か深呼吸をしているうちに、傷は塞がっていった。

 まったく便利な身体である。


「おや」


 銃撃の間に、暴徒達はすぐそばまで接近していた。

 彼らのうち何台かは車両の脇を並走してくる。

 後ろに乗る奴らが、バットやゴルフクラブを構えていた。

 その顔には愉悦が浮かんでいる。

 嗜虐的な衝動を隠そうともしない。

 変貌した世界に順応しているのが一目で分かった。


 暴徒が凶器をフルスイングで叩き付けてくる。

 警察車両の窓が粉砕され、ケイトが悲鳴を上げた。

 運転席側を走る暴徒が、車内にいる彼女の腕を掴む。

 引きずり出して攫おうとしていた。


「ドライブデート中なんだ。無粋な真似はよしてくれ」


 そう告げた俺は、ケイトの腕を掴む暴徒に向けて発砲し、その片目を穿つ。

 脳漿を散らした暴徒は、白目を剥いて脱力した。

 ケイトは怯えながら手を振り払う。


 さらに俺は、ハンドルを掴んで大きく切る。

 運転席側を並走するバイクが、車両と建物に挟まれて転倒した。

 当然、搭乗していた暴徒は巻き込まれて地面をバウンドする。


 そういったことが起きたにも関わらず、残る暴徒達はまだ追ってくる。

 随分としつこい。

 過半数が死んだというのに、撤退のそぶりすら見せなかった。


 たぶん彼らに仲間意識はないのだろう。

 隣を進むバイクが吹き飛んだところで、どうでもいいのだ。

 だからこうして突き進んでくる。

 暴徒達は、損得勘定を抜きに殺しを楽しんでいるようだった。


(いくらなんでも染まり過ぎだろう……狂ったのか?)


 まさかここまでクレイジーな集団がいるとは思わなかった。

 その事実に苦笑いしつつ、俺はケイトに指示を送る。


「俺が囮になる。暴徒から離れたところで、車体を切り返してくれ」


 返事を待たずに俺は車外に出た。

 リュックサックとリボルバーは助手席に残して、車両の上に移動する。

 手には一本の軍用ナイフのみを握っておいた。


 背中を強風に煽られながら、俺は追いかけてくる暴徒達を眺める。

 彼らはすぐさま銃を撃ってきた。


 俺は無抵抗にそれらを受ける。

 少し仰け反りながらも、ゆっくりと持ち直した。

 込み上げた血を吐き捨てて、俺は笑う。


「ははは、どうした。これで終わりかい?」


 暴徒達の間に怯えが走る。

 ようやく恐怖を見せてくれた。

 色々とネジの外れた彼らでも、蜂の巣になっても平然としている男は異常らしい。

 良いリアクションである。


 この空気を利用しない手はない。

 彼らが怖がっているうちに、さっさと始末しようと思う。

 ナイフを掲げる俺は、バイクの一台に跳びかかった。

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