第13話 暗殺者は暴徒と遭遇する
俺とケイトは隣接する駐車場へ赴くと、警察車両に乗り込んだ。
塗装が剥げている上、車体のあちこちが変形している。
いずれもモンスターとの戦いで付いたものだ。
それでも故障はしておらず、まだ十分に乗れる状態だった。
出発の際、ケイトが控えめに話しかけてくる。
「あの、警部からあまり弾薬を使いすぎるなと言われまして……」
「できるだけ節約しろってことかい?」
「そうですね、すみません……」
ケイトは申し訳なさそうに言う。
別に彼女は悪くないのだが、なぜか反省している様子だ。
警部の主張は真っ当なものであった。
保有する弾薬は有限だ。
現状、武器の補充もままならない。
たまたま【空間収納】を持つケイトは、余分に武器を渡されている。
彼女一人がいるだけで、弾切れのリスクが軽減されるからだ。
そのために普段から大量の武器を所有している。
しかしそれは、無駄遣いしていいということではない。
ストックされた武器は、非常時の備えだった。
むやみに浪費してはいけない。
無論、生死に関わる状況で出し惜しみするのは論外だろう。
命を落としかねない場面なら、躊躇いなく銃を使うべきである。
それにも関わらず、警部がこのような忠告をしたのは、俺がいるために違いない。
俺なら必要最低限の武器でも戦えると思われているのだ。
同時に隙あらば銃火器を無駄遣いすると警戒されている。
どちらの判断も的中しているので、なんとも反論しがたい。
とにかく、武器の浪費を抑えながら仕事をこなせばいいだけだ。
別に難しいことではない。
世界は様変わりしたが、やることは同じであった。
「それと警部から、武器やガソリンの確保も頼まれました」
「ああ、俺も聞いている。暴徒の始末と並行して進めようか」
色々と細かい指示が多いものの、あまり文句は言えない。
原因の一端が俺にあるためだ。
ガソリン不足は、警察署から最寄りのガソリンスタンドが爆発したためだった。
俺がスライムを仕留めるのに使ったあの場所である。
あれのせいでガソリンの補給源が断たれてしまった。
罪悪感を覚えているわけでもないが、今は署内で寝泊まりする身だ。
多少は貢献してもいいだろう。
武器もガソリンも暴徒の拠点から拝借するだけである。
どのみち彼らを殺しに行くのだから、大した労力ではなかった。
俺達を乗せた警察車両は出発する。
運転はケイトに任せて、俺は助手席に座っている。
外の景色を横目に、拳銃の動作確認を行う。
手の中にあるのは、古びたリボルバーだ。
まるで西部劇のガンマンが使いそうな代物で、装弾数六発の古典的な銃であった。
これは暴徒から奪ったものだ。
旧式だが威力は十分ある。
連中をぶち抜くだけのパワーは持っていた。
予備の弾もそれなりに確保している。
他にもサブマシンガン等の強力な銃を入手していたが、いずれも残弾数がやや心許ない。
しばらくはリボルバーで我慢するつもりだった。
移動を始めてから二十分ほど経った頃、俺達は暴徒達の拠点付近に到着する。
地図上で危険地帯と記されたそこは、一見すると他のエリアと変わりない。
荒廃した街並みが広がるのみだ。
ただ、直前までと雰囲気が違った。
どこか嫌な空気が漂っている。
嗅ぎ慣れた暴力の臭いがしていた。
「ここから先は暴徒が占有している地域です。慎重に進んでいきましょう」
「了解。まあ、向こうは察知しているんじゃないかな。襲撃を受けるのも、時間の問題だと思うぜ」
「お、脅かさないでくださいよ……」
ケイトは不安そうな顔をして、しきりに周囲を見始める。
走行速度も落として、安全運転を心がけているようだった。
そんな彼女の姿に、俺は肩をすくめて苦笑する。
(脅しじゃないんだがね)
建物の陰では、何者かが動く気配がしていた。
こちらの様子を窺っている。
敵意に近いものも感じた。
そういったものにケイトは気付いていない。
連中の縄張りは、思ったより厳重に見張られているらしい。
なかなかのホットスポットのようだ。
「いざという時は、俺が対処しよう。君は運転に専念してくれればいいさ」
「本当に、お願いしますね?」
「ああ、信じてくれ」
頷く俺は、前方の変化に気付く。
両脇の建物から複数の人影が現れるところだった。
ざっと数えて二十人ほどだ。
彼らは、こちらの進路を塞ぐ形で横に広がる。
まだ距離はあり、目を凝らしても向こうの表情は分からない。
ただし、武装しているのは視認できた。
考えるまでもなく、暴徒達である。
俺はリボルバーを弄びながら微笑する。
「さっそくお出ましのようだ」
「ど、どうしますか!?」
ケイトは動揺して停車させる。
それでも片手は拳銃を握り締めていた。
まだ拙いものの、彼女はそれなりに場数を踏んでいる。
戦うだけの覚悟はあるようだ。
反応としては及第点だろう。
内心で評価をしつつ、俺はケイトに指示する。
「まずは下がってくれ。この位置関係は良くない。連中を誘き出そう」
「はい!」
車両がバック走行で来た道を引き返す。
曲がろうにも狭い路地しかないため、そのまま真っ直ぐ戻っていった。
その間に暴徒達が銃を構える。
彼らの銃口は、こちらを狙っている。
「おっと、不味い」
俺はケイトの頭を押さえ、無理やり下げさせる。
直後、暴徒達が銃撃を開始する。
放たれた弾丸が、フロントガラスを割って車内に飛び込んできた。




