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誕生日

俺の誕生日は、姉と一緒だ。

もちろん、生まれた年は違う。

それも、15年も。


気づいたときは、もう姉と二人暮しをしていた気がする。

母がいない訳ではない。

ちょっと変わった母だった。

俺はいつもそんな母をあまりにも客観的に分析していた。

母だけど、母じゃない。

俺にとっての母は、やっぱり姉だった。

俺を生んだ母がどう変わっているかは、そのうちわかる。


「ねぇ、今日どうする?」

姉が歯磨きをしながら俺に聞く。リビングの入り口に仁王立ちしていた。

タンクトップにスエットのズボン。

姉の部屋着だ。

「うーん。もういいんじゃない?俺ももう18だよ。」

俺は目玉焼きをツツキながらこたえる。

姉の十八番のリョウリだ。

「えー。いいじゃん。年に一回しかないんだよ。」

今日は7月2日、俺達の誕生日だ。

「なにかしたいことでもあるの?」

口の周りの卵を拭きながら聞く。

「そうなのよ。ちょっと考えてることがあって!」

と、口をガボガボさせながら言う姉。

ふーん。珍しい。

姉はいつも俺の考えを尊重してくれる。

やらなくていいのでは?と、言うと、

そうだねと言って、希望を聞いてくれることが多いのだが、今日は違った。

「そうなんだ。やりたいことって?」

「ふっ…。言うわけ無いじゃん。サプライズだよ。」

「内容言わないだけじゃん。もうサプライズじゃないよ。」

「…」

姉が微妙な顔をしている。


少し抜けたところがある姉は、いつも俺に指摘されてきた。

一番よく覚えてる抜けてるエピソードはこうだ。

昔俺が小学3年生でクリスマスの時。

姉はもう働いていて生活が不規則だった。

というのも姉は看護師で、夜勤があるという意味だ。

宮本家のクリスマスは、枕元にプレゼントが置いてあるタイプだった。

そのクリスマスの時も、いつもどおり、朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあった。

俺は心を踊らせてプレゼントを開けようとした。

さすがサンタ。この大きさは俺が欲しかったゲームソフトで、願いが届いたと心を踊らせた。

包装紙をとろうとした時にキレイに結ばれている大きなリボンの隣に付箋が貼ってあってあることに気付いた。

その付箋にはこう書いてあった。

「琢磨くんのプレゼントです。沙耶のは隣の緑の箱ね。 翔」

翔さんのことは知っていた。

姉の恋人で姉の病院に勤めている医者だった。三人でご飯を食べたこともあった。

こんなわかりやすいところに貼ってある付箋に気付かず、姉は枕元に置いたのだ。

その時、俺はすべてを理解した。

でも落胆はしなかった。だって姉だし。

日々の生活の中で、姉のやらかしは他にもあった。

それもあり俺は少しませていたのかもしれない。

姉の努力に感謝して中身を出し、すぐにゲームを始めた。


「内容は言わないから、サプライズってことにしておいて。」

姉が口から歯磨き粉を少し落としながらそういった。

「はいはい。遅れるよ。車混むんじゃなかの?」

「しまったヤバイ。」

そう言うと姉は洗面所にダッシュした。

姉の愛情はすごく感じている。

なんだか微笑ましくて、俺は微笑みながらしじみの味噌汁を飲んだ。

歯をゆすぎ戻ってきた姉が寝室に駆け込みながら俺に言う。

「今日19時スタートだから。それまでに帰ってきてね!」

「わかったよ。今日は部活ないからすぐ帰ってこれると思う。」

「ならばよし。」

姉が慌ただしく着換え、化粧道具を握りしめながら玄関ドアを開けて出ていくまで、俺はぼんやりテレビをながめながら今夜のことを考えていた。

7月2日19時、物語が始まる。

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