初陣
「あ!セリアさんおかえりなさい!」
「ええ、ただいま」
ソロモードが終わったセリアは、イルファナの待つデパートのフードコートへと戻ってきていた。
セリアが戻ってきた時はもう11時前と言った時間で、フードコート内にもぽちぽちと人が来始めていた。
「あら?それは…」
セリアがイルファナのいる席に着くと、その席には先程セリアが食べていたポテトが入っていた容器と同じ容器が4つもあった。
「え、えへへ…美味しくってつい…」
そのことに言及したセリアに、イルファナが顔を赤らめながら答えた。
「確かに、私もさっき食べたけど美味しかったわね。
色んな味もあったし、ついつい食べちゃう気もわからなくもないわ」
セリアは、まあ4つも食べることは無いけどね…と思いながらも、イルファナに同意した。
「ですよねっ!
あっ、でも私はコンソメ味が好きでー…全部コンソメ味で食べちゃいました!」
「えっ?4つ全て?」
「はい!コンソメ味オススメですよ!」
「そ、そう…それなら、お昼はどうするの?
私はまだ食べていないから、どこかで食べようと思っていたのだけど…」
セリアは、まさか4つ全部同じ味で食べているのは思っていなかったので、さすがに微妙な返事になってしまい、話題を逸らした。
「私も食べますよ!じゃがじゃがバーガーのポテトは別腹ですから!
セリアさんは、どこで食べようと思ってたんですか?」
そんなセリアの心を知らないイルファナは、セリアさんとお食事!とテンションを上げながら、さっきまでポテトをバクバク食べていたというのに、さっそくお腹をすかせてきていた。
セリアはどこでもいいと考えていたので、ここのフードコートでもいいわよ。と伝えると、イルファナも特に異論を唱えることもなく、フードコートで済ませることに決定した。
☆☆☆
そのままお昼時までフードコートで時間を潰すことにした二人は、改めてお互いの自己紹介をすることにした。
「えっと…私は今年で20になりました!
将来はボーダーになって、今までは観ている側だったけど…観客を沸かせられるような戦いがしたいです!」
「私は、知ってると思うけど26よ。
ボーダーになったのは…ある本を読んでから興味を持ったからね。それまでは《塔》のことはよくわからないものとしか思ってなかったわ。
私も…ボーダーを目指した理由はイルファナと同じよ」
「えへへ…改めてこういうのって、照れちゃいますね…」
「そうね…なんだか懐かしいわね」
イルファナは、学生の頃は何とも思わなかったけどこんなに恥ずかしくなるものだったっけ…と手でパタパタと顔を扇いだ。
そんなイルファナを見ながら、セリアはどんなチームを目指しているのかと質問をした。
「えっと、その辺のこともよく分かってなくて…陣地を取りたいなあとは思ってるんですけど…
そもそも、ボーダーってどうやって食べていってるんですか?」
「そうね…私はFFFに所属してたから、そこで給料みたいな感じで陣地ポイントを貰ってたわね。
フリーになってからは、各地のダンジョンもどきを回ってるわね。
直接報酬が貰えるとかいう訳じゃないけど、管理委員会の方から色々貰えるのよ。それで陣地ポイントの消費を抑えてやりくりしてるって感じね」
「そうなんですか…私みたいな人はどうしてるんでしょう…」
「私はあまり交友関係が広くないから、わからないわね」
セリアがさらっと悲しい発言をしたが、イルファナはかなり真剣に悩んでいたので、そこにつっこむことはなかった。
「そうなんですか…私は、暫くは両親が仕送りとかしてくれる予定なんですけど…
あっ、セリアさんはいつもどこで暮らしてるんですか?」
「今は管理委員会が経営してるホテルに寝泊まりしてるわ」
管理委員会は、チームに所属していないボーダーを支えるサポートの一つとして、ダンジョンやダンジョンもどきで好成績を残しているボーダーに低価格でホテルや貸家を提供しているのだ。
セリアも、そのサポートを受けていた。
「私は実家です…チーム結成の申請を出す時に拠点っていう項目があったんですけど、あれってやっぱりチームの家をどこかに作るってことですよね?」
「そうね。基本的には陣地内のカスタムでって感じよ。
ダンジョン攻略者は私みたいにしてる人が多いみたいね。バイキングの時とかにそういう話をしてる人がいるわ」
「へえ…陣地ポイントとかでどこかに家を買うっていう人は少ないんですかね?」
「ボーダーで自分の家を持ってる人は少ないわね。
家を買えるほど成功する人は、だいたい大手チームに所属してるから、そこの陣地に住めばいいのよね。
ダンジョン攻略者のトップ層くらいじゃないかしら?」
「ダンジョン攻略者…私は公式戦しか見たことないから、想像つかないです…」
「今日が初ダンジョンもどきなんだっけ?
ダンジョンもダンジョンもどきも同じようなものよ。基本的にはね」
基本的には。というのは、ダンジョンにはアナウンスや実況が無いので、相手へ与えたダメージやボードに影響を与えないスキルを使った時がわからないのだ。
なので、ダンジョン攻略者は何度もダンジョンに挑んで敵の情報を探り、攻略していかなければならない。
それが楽しい!というのがダンジョン攻略者で、相手のステータスがわかっていて、それを元に対策を練って戦うのが陣地戦なので、ボーダーは口を揃えてあれは別物。というのだった。
そんな話をしていると丁度お昼頃になってきたので、フードコートでご飯を食べることにした。
イルファナは相変わらずじゃがじゃがバーガーでホクじゃがバーガーセットを頼み、セリアは少し迷った末にラーメン屋さんで半チャーハン半ラーメンのセットを頼んだ。
「またじゃがじゃがバーガーなの?」
「はい!ホクじゃがバーガー、お肉とじゃがいもがマッチしてて美味しいんです!
セリアさんは、ラーメンなんですね」
「ええ、ラーメンって食べたことがないのよね。
せっかくだしチャレンジしてみようかと思って」
「私もあまり食べないんですよね…お父さんが好きなんですけど…」
「確かに、男の人はラーメンが好きなイメージがあるわよね」
ピピピピピピピッ
そんな話をしていると、店から渡された呼び出される機械が鳴り響いた。
「あ、あれ?今のどっちのが鳴りました?」
「ええと…どっちかしら…」
イルファナは憧れのセリアを前に、セリアは癖が出ないようにと話に意識が向いてしまうので、周りのことに意識が向けられていなかった。
呼ばれた場合コールと共にランプが点滅するのだが、二人はその事もすっかり忘れてしまうほど話に集中していたのだった。
結局二人とも取りに行ってみることにしたのだが、たまたま二人とも同時に呼ばれていたので問題はなかった。
お昼ご飯を済ませると、イルファナのソロの時間が近づいてきたので、今度はイルファナがダンジョンもどきへと向かっていった。
セリアは街を見て回るというので、お互いのタブフォンを認識させた。
タブフォンを認識させると、相手のタブフォンに電話をかけられたり、相手が公開設定にしていれば、相手のステータスやチーム情報、ダンジョン攻略状況等も確認する事が出来る。
片方が認識を解除すると、お互いの認識が解除される仕組みになっているので、基本的には仲が知れた相手とはとりあえず交換しておくというのが、ボーダーの主な考えだ。
初めてタブフォンの認識機能を使ったイルファナは、それがセリアだということもあり、ダンジョンもどきへ向かいながらセリアのページを眺めて無意識のうちに笑顔になっていた。
「あっ…すごい…」
セリアのページにはダンジョンもどきの攻略情報が開示されており、本当に色々な所のダンジョンもどきを攻略していた。
しかし、そこにはソロモードの攻略しかなく、自分がセリアのタッグ攻略の初めての相手なんだと思うと、嬉しく思うと同時に緊張もした。
「セリアさんの足を引っ張らないように頑張らないと…!」
そう意気込んだイルファナは、ソロモードでしっかりとボードファイトに慣れないと…と、確認したい事を復習しながらダンジョンもどきに向かっていった。
☆☆☆
ダンジョンもどきに着いたイルファナは、さっそく受付に整理券を見せると、ソロモードの所へと案内された。
「それでは、お楽しみくださいませ」
「はい!ありがとうございます!」
案内してくれた店員にお辞儀をしながら見送っていると、入り口に設置されていた機械がアナウンスを開始した。
『ウルカーナダンジョンもどきへようこそ。
タブフォンをお持ちの方はバーコードの提示を。お持ちでない方はフリープレイを選択してください』
「タブフォンのバーコード…?」
イルファナは、今までタブフォンは持ってはいたがあまり使ってこなかったので、あまり機能を把握していなかった。
ボーダーや審判が使う個人識別機能…つまり、タブフォン一つ一つに設定されているバーコードの表示なんて当然したことはなく、存在すら知らなかった。
「えっと…フリープレイでもいいのかな…?
でも、フリープレイだと記録が残らないんだよね…
マイページとかにあるかな…?」
イルファナがバーコードがありそうな所をしばらく探し回っていると、タブフォンの設定機能の下の方にバーコードとあったので、なんとかこの問題は解決できた。
イルファナは、今度セリアさんにタブフォンの機能とかも教えてもらわないとなあ…と思い、セリアさんに迷惑かけちゃってるのかなあと心配にもなったが、その分はいつかお返しできるように頑張ろう!と前向きに考えた。
さっそくバーコードをかざし、入り口から入っていくと、目の前にはいつも観客席から見下ろしていた光景が広がっていた。
「わあ…台が目の前にあるよ…すごい…」
台というのは少し盛り上がった所で、試合が始まるとそこにマス目が展開され、フィールドになる。
その台の前にまた機械が置いてあり、そこへ近づくと難易度の選択やルールの確認等ができた。
イルファナはとりあえず一通りルールを確認した。
ボードファイトの基本的なルール自体は知っていたので、ダンジョンもどき特有の休憩の取り方や、特殊ルール等を確認すると、さっそく試合を開始することにした。
「よーし…やっぱり初戦は勝ちたいよね!ばっちこーい!」
『難易度 イージーモード が選択されました。
イージーモード を開始します』
機械のアナウンスと共に、フィールドが展開され始める。
ルールは1vs2の5×5マスの掃討戦だった。
イージーモードは1階~3階までしかなく、敵もかなり弱く設定されている。
イルファナは配置場所を5-3に決めると、再びアナウンスの声が響いた。
『各チームの配置を確認します。
1-2.1-4にエネミー。5-3にイルファナ様。
それでは、戦闘を開始します』
『ターン3 イルファナ様の行動です。ムーブ可能です』
「あわわ、遂に始まっちゃった…」
何か実感のないままにフィールドについたイルファナは、アナウンスに行動を促されると、ようやく自分がボードファイトをプレイしてるんだという気になり、緊張の波が押し寄せてきた。
「えっと…タブフォンに行動を入力しながら行動を宣言すればいいんだよね…
スキルは…あった!ここをタップして…ス、スケルトン生成!
……あ、あれ?」
イルファナは思い切って宣言してみたが、アナウンスが反応することはなかった。
慌ててタブフォンを確認すると、スケルトンを出す場所を指定してないことに気づいた。
「あっ、出す場所!どこがいいのかなあ……前の方でいいのかな?
次こそ…スケルトン生成!4-2と4-3と4-4と……5-2!」
『イルファナ様、スキル:スケルトン生成を使用。4-2.4-3.4-4.5-2にそれぞれ、スケルトンA.B.C.Dが出現』
「……」
イルファナは、行動可能なものがなくなると自動的に自分の行動が終了するので、そうなると思いしばらく立ち尽くしていたが、アナウンスが試合を進めることは無かった。
「……あれ?まだ何かあったっけ…」
イルファナが慌ててタブフォンを確認すると、行動可能なものは光って、行動済や行動出来ないものは暗く表示されるのだが、ムーブの欄が光っていることに気づいた。
「あ、ムーブ…スケルトンが邪魔だなあ…
スケルトンを出す前にムーブしとけば良かったのかな…」
今から変に動いてもなあと思ったイルファナは、ムーブはせずに行動終了をボタンを押した。
『イルファナ様の行動を終了します』
「ううう…前途多難だよお…」
イルファナは、いきなりムーブの事を忘れるというミスをしてしまった事に少し落ち込みながらも、初めて自分の行動をしたことに感動していた。
「もうミスはしないもんね!絶対勝つんだから!」
イルファナはそう意気込みながらも、次からは慎重に行動をしないと…と、小さなミスをすることで、反って少し冷静さを取り戻していた。
むしろここからが本当のチュートリアル…!
セリアさんの戦いはデモプレイだったんだ…そうだったんだ…
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