王都、到着
修正内容:誤字脱字及び、言い回しの変更を行いました。内容に変更はありません。
空か明るくなり始め、星々の灯りが消える朝早く、二泊目の町を立つ。まだ眠たく、うつらうつらしながら馬車に乗ったせいか、この数日の疲れもあり、いつの間にか眠りについた。
肩を揺さぶられ目を覚ますと、父がもうすぐ王都につくと教えてくれた。
窓から見える太陽は、すでに南から西へと傾きだしていた。それにより、ずっと寝ていたのだと気がつく。
お昼を過ぎていると気がつけば、途端に空腹を覚える。朝食を食べずに宿を出発し、そのまますぐ眠ってしまったので昨晩からなにも食べていない。
鳴りだしたお腹を押さえると、母が泊まった宿で作ってもらったと、生野菜と焼かれた肉が挟まったパンを差し出してきた。水の入った瓶も用意されており、私は受け取るとほおばる。
パンを食べ終え水を飲み、やっと満たされた。
外を見れば、黒っぽい高い壁が左右に大きく広がっている光景が見えた。壁は終わりがあるのかと疑わせるほどに、どこまでも続いている。これが王都を囲む壁だと父が教えてくれる。
王都へ入るには、壁の途中に作られている門を通らなければならない。門を通らず王都に入るのは、王都侵入罪という重い罪となり、罰せられる。
さらに必ず通行証を見せなければならない決まりがある。反対に王都から出る時は、通行証がなくても構わない。ただし有事の際は、必要となる場合もある。
王都に住む子どもが通行証を持たず、遊ぶために壁の外に出て、帰ろうとしても門を通してもらえず困ることがよく起きるそうだ。
そういう時は一緒に出かけた者がその子どもの家族に知らせるか、門番に事情を話し、係の者が事実確認を取り、家族が迎えに来るまで壁の外で待機することになる。待っている間は真夜中だろうと何時間も壁の外にいることになり、心細い目にあう。だから間違っても一人で門から出るなと、母に釘を差された。
今回私たちは王都で暮らす祖父に呼ばれたので、祖父が事前に通行証を用意してくれている。
祖父に招かれた形で王都に入るので、私たち親子がなにか問題を起こすと、招いた祖父も責任を負うことになる。だから王都では、とにかく気をつけて行動するようにと、これまた母から注意を受ける。
責任を負うと、どうなるのかは教えてもらえなかった。ただ、祖父に迷惑をかけることになるとは想像がついたので、大人しく頷いた。
王都へ入ることが厳しい理由は、この都が国の中心であり、王の住まう都だから。単純なだが、絶対の重大な理由。不審者を王都へ入れ、国が亡ぶことを阻止する狙いがある。現にこの国が長く続いているのは、この厳しい決まりがあるからだと、多くの国民が信じている。
そんな壁の向こうはきっと、村と違う素敵な町並みが広がっているに違いない。両親が読んでくれた絵本の挿絵に描かれているような、王様やお姫様が暮らす素敵な家がたくさんあるに違いない。街を歩いている多くの人はきっと、お姫様のようなドレスで優雅に生活しているに違いない。そんな王都にもうすぐ入れる。私は期待で胸を躍らせた。
◇◇◇
高い壁に作られた陰に覆われている薄暗い門の前で、一旦馬車は停まる。
「北門から入るの⁉」
通行証を確認する門番に聞こえないためか、小声で母がオーベンスさんに問う。
「ご主人様がこちらを通るようにと命じられましたので」
「なぜ?」
「理由はうかがっておりません」
「どうせ勘当した娘が王都に戻った姿を誰にも見られたくないから、この門にしたんでしょうよ。本当、変わっていないわね」
頭に手を当て、首を困ったように振る母に対して、オーベンスさんは無反応だった。
王都へ出入りできる門で特に有名なのは、四つある。
まず西門。王都の西側は市場や様々な店が並ぶ通りが密集している商業エリアで、業者が多く利用する。
次に東門。こちらは国営の重要な建物が多く集中して作られており、貴賓はこの門をくぐることが多い。
三つ目が、東北の水門。これは王城の東側を流れる川が東北に伸び、それを利用して人や荷物を運搬する船用に作られた門。
最後に私たちが通ろうとしている北門。北側は平民が多く暮らす城下町が広がっている。最初は平民のために作られた門だが、王都の中心から離れるほど貧しい生活を送る者が多く、今では治安が悪いからと、好んで使う者はいない。今では大きいのに、寂れた門として有名になっている。
もちろん王都は広いので、この四つ以外にも小さいが、幾つも門はある。
「通ってよし!」
門番の強い声を合図に馬車が動き出すと、オーベンスさんがカーテンを閉めた。
「あまり外をご覧になるべきではないので」
ガタン!
言葉の意味を確認する前に、馬車が大きく揺れる。それを合図に大きくガタガタと揺れ始め、道の舗装が悪いのだと分かる。
さらに悪臭が鼻をついてきたので、思わず顔をしかめる。見れば三人も鼻に手を当てたり、私と同じく顔をしかめたりしている。腐った臭い、カビ臭さ、あらゆる悪臭が混じっている。なんでこんなに臭いのだろう。
馬車が揺れカーテンがふわりと浮かぶ。その時、驚くべき光景が私の目に飛びこんだ。
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