王都へ向かって出発
修正内容:誤字脱字及び、言い回しの変更を行いました。内容に変更はありません。
「わあっ。すごい、ふかふかぁ」
乗りこんだ馬車の座席はとても柔らかい。初めての感触だ。
これまで硬い木の椅子か、平べったいクッションの上にしか座ったことがなかったので、あまりの柔らかさにはしゃいだ。その場で何度も楽しくなり飛び跳ねる。
「こら! 飛び跳ねないの! 大人しく座っていなさい!」
注意してきた母は馴染んでいるように、自然と座っている。まるで知らない人のようだ。
私は母の落ちついた雰囲気にのまれ、大人しく座り直す。母の隣にオーベンスさん、私の隣に父が座る。オーベンスさんも母のように堂々としているが、父は少し緊張しているように見えた。
やがて馬車が動き出す。
私は窓から身を乗り出すように頭を出し、皆に向かって『行ってきます!』と手を振る。皆も『行ってらっしゃい!』と手を振ってくれる。それは互いの姿が見えなくなるまで続いた。
やがて皆の姿が見えなくなると、私は手を下ろし、しばらく村の方を見てから体を中に戻した。
そこからは、ほとんど村から出たことのない私にとって、見る風景全てが興味深く新鮮に映る。窓の外を飽きることなく眺めていた。
「今、この辺りを通っているんだよ」
話しかけてきた父が地図を広げ、現在のおよその位置を教えてくれる。わざわざペンまで使い道もなぞってくれるので、どこを通っているのか分かりやすい。
「お父さん、王都は遠いんだよね?」
「ああ、村から三日はかかる」
道中通る町で二回宿泊する予定だと教えてもらった。ただその町を観光する時間はないそうなので、残念だ。どうせなら知らない町も歩いてみたかった。
「お祖父ちゃんが待っている王都って、王様が住んでいる都なんだよね?」
「そうだよ。ちょっと古いけれど……」
次に取り出した地図は、王都の地図だという。
「古い地図だから、今と違う点が多いと思うけれど……。王様の暮らしている王城がある場所は、変わっていないはずだ」
父が指したのは、王都の南側。背後は山、東には川が流れている区域。そこはポッカリと白く、建物もなにも書かれていない。その白い場所はかなりの大きさもあり、地図の中で目立っていた。
「白くなっている、ここが王城のある場所だよ」
「お城って、こんなに大きいの?」
「もちろん。建物だけでなく庭園を含めての敷地だけど、村より広いとも。そこは高く白い城壁に囲まれていて、その壁は太陽の光を浴びると輝いて見え、それは綺麗なんだ」
「私も見たいなぁ」
「時間があれば行ってみようか。ただ今回はお祖父さんのお見舞いが優先だから、その時間が作れればだけど」
父の提案に私は喜んだ。
村で王城を見たことがある人は少ない。まして同年代はまだ誰も見たことがない。友人たちの中で王都へ行くのも、私が初めてだ。誰よりも早くお城を見られたら、帰った時に自慢ができる。そんな子どもっぽい優越感をあり、余計に王城を見たかった。
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