アボッカセでの再会~3~
広場では、団員たちの整列が組まれだしていた。その場の誰もが顔を引き締めており、刺すような緊張感が伝わってくる。
ラウルとデューネも彼らに触発されたのか、表情が変わる。
三人で指示された通り、一番後ろの端っこに立つ。
先ほどまでの落ちつきのなさが嘘のように、ラウルは真面目な顔でじっと立っている。紫色の瞳は、前方に向けられたまま、動かない。なんだ、真面目にすれば様になるじゃない。横顔を覗き見ながら、そんなことを思う。
そして全員が整列を終え、どれほど経っただろう。
もうすぐ冬。日差しはそんなに強くないが、風は冷たい。
ただ立っているだけなので、足先からどんどん冷えてくる。それに案外、立っているだけというのは辛い。そんなことを言えば、きっとアローンさんに、鍛錬が足りないと怒られるだろうが、考えるくらいは許してほしい。
そういえばと、あることに気がついた。
どうして私たちは、建物と向かい合って整列しているのだろう。
フェーデの出迎えのため、整列して待機しているのに、建物に顔を向けているのは、とても奇妙だ。
王都から来るのであれば、私たちの背後にある通りから現れるはず。背中を向けての出迎えは、不敬に当たるのではないだろうか。
本当にこのままでいいのかと、不安になる。誰かに確認したいが、とても話しかけられる雰囲気ではない。
「全員起立!」
アコッセさんの声が響く。
それを合図のように、誰もがさらに姿勢を正す。私のように考え事をしていた者は、尚更だ。
緊張の糸が真っ直ぐ広場に張り巡らされる。誰もが糸の一部であり、その糸を緩ませてはならないと分かっている。呼吸までにも神経を注ぐ。そうでもしなければ、すぐにでも、糸は緩むだろう。
「第三王子、フェーデ殿下のおなりだ!」
驚いたことにアローンさんを従え、フェーデが建物の中から出てきた。いつの間に建物の中へ? すでに到着されていると、誰も言っていなかったのに。
この瞬間、私を含め、糸を途切れさせた者が出た。それは驚きを隠せない者たち。早々の失敗に、私は唇をかむ。
フェーデは、建物の入り口前。階段の一番上に立ち、私たちを見下ろす。その立ち姿は十二歳と思えぬほど、堂に入っている。真っ直ぐ口を結び、笑いもせず、広場全体に視線を向ける。
美術館で会った時と違う。ぐんと彼との間に距離が生まれた。それは実際の距離より、何十倍……。いや、何百倍と離れているよう錯覚を起こすものだった。
あんなに近かったのに、今はこんなに遠いなんて……。
……いや、違う。この距離が正しい。今までが、近すぎたんだ……。
私と彼の身分の違いを、改めて思い知らされ、さらには二人の立つ世界まで分かたれている気になる。
「敬礼!」
しまった! 出遅れた! 慌てて皆に続き、王家に忠誠を誓う敬礼を行う。
「気を楽に。皆の出迎え、感謝する。今より一か月ほど、アボッカセに滞在することになった、フェーデ・レイム・フレイブだ。よろしく頼む」
子どもながら、はきはきとした声。これが王子としてのフェーデ。私の知っている彼と別人だ。
「殿下、どうぞこちらに」
挨拶が終わるなりアローンさんに促され、建物内に戻る。その後ろ姿を見届け、やっと私たちは息をつく。
「……すっげー緊張した」
大きく息を吐くと、ラウルはその場に座りこむ。
「うん……。威厳ある方だね。ちゃんと僕、息できていたかな」
「呼吸止まっていたら、死んでるだろ。それよりファロン。お前、敬礼遅れただろ? 後で団長に叱られるぞー」
ラウルにしっかり気づかれていたのか……。私は素直に謝る。
「ごめん……。まさか建物の中から登場されると思っていなくて……。驚いたら、反応が遅くなった……」
「あー、あれな。俺も驚いた」
「もしかして、二人とも知らないのか?」
なにを? そうデューネに尋ねようとした時、いつもの調子に戻った兵団員の皆に声をかけられる。
「ははは。お前たち、まだまだだな。これくらいで、そんな死んだようになってどうする」
「お前ら忘れたのか? 王子と一緒に一か月、訓練をするんだぞ?」
「あー、そうだったぁ!」
皆にとどめを刺されたラウルが叫んで、地面に寝転がる。
「おーい、坊主三人! 団長が呼んでるぞ!」
一体なんの用事だろう。私たちは顔を合わせた。




