生きていた祖父母
修正内容:誤字脱字及び言い回し等の変更を行いました。内容に変更はありません。
夕方、友人たちと別れ家に入ろうとドアの前に立つと、途端にショックを思い出した。
二度とドアは開かないのでは。そんな不安を抱えながら、緊張しつつドアノブを回す。
「……ただいま」
すんなりとドアは開いた。家の中は夕飯のために焼いた魚の匂いが漂っている。匂いにつられるよう、食卓のある部屋へ向かう。
「おかえり」
いつもと変わらぬ母の様子に、安堵する。大好きな母が優しい声を笑顔で向けてくれる。それだけで嬉しくなり、もう一度『ただいま』と言いながら抱きつく。
父も診察室から出てくると、三人で食卓に座り神に祈りをささげ、フォークを手に取る。
私はいつものように今日の出来事を両親に話す。それを両親もいつものように話を聞いてくれる。まるで男の来訪などなかったように。
食事も終え、母が片づけを始めると父が真面目な顔を向け、『大事な話しがある』と言ってきた。私は姿勢を正し、話しが始まるのを待った。
片付けを終えた母が席に戻ると、ようやく父が口を開いた。
「ジャスティー、今日来た男性のことだけど……。彼は、お母さんのお父さん。つまり、お前のお祖父さんに長く仕えている人で、今日はそのお祖父さんからの手紙を持って来たんだ」
そう言うと、開封されている白い封筒を食卓の上に置く。あの男の人が父に渡した封筒だ。
その手紙より、父の発言の方が気になった。
「お祖父ちゃん? あたしにお祖父ちゃんがいるの? 前聞いた時は、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもいないって言ったじゃない」
「ごめんね、嘘だったの……。お父さんのご両親が亡くなっているのは本当よ。でも、お母さんの両親は生きているの。お父さんとお母さんが結婚する前に、お母さんが二人と大ケンカして別れて……。それからずっと会っていないし、連絡も取り合っていなかった。それは変わることがないはずで、会うことはないのだから、ジャスティーには二人が亡くなったと話していたの」
そう話す母の声は、弱々しかった。
「……なんでケンカしたの?」
「お母さんが、二人の望む生き方を選ばなかったから」
どういう意味だろう。もっと詳しく話してほしかったが、今は教えてくれる気がないらしい。母はそれきり黙りこんだ。
替わりに父が手紙の内容を語り始めた。
「手紙にはお祖父さんが大病を患っており、余命少なく、皆と最期に会いたいと記されていたんだ」
「じゃあ、会いに行こうよ! だって、会いたいって言っているんだよね? きっとお母さんと仲直りしたいんだよ!」
私は深く考えず、祖父の願いを叶えたいと口にした。亡くなっていたと信じていた祖父に会いたいという思いもあった。
「でもね、ジャスティー。きっと会ったら……」
そこで母は口をつぐんだ。
私不思議に思いつつも、ケンカ別れしたので祖父に合わせる顔がないから、そんな態度になったのかと考えた。
本当はなにを言おうとしたのか、後に知ることとなる。
母は、『後悔する』と言いたかったのだ。
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