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フェーデの真実~1~

「傷痕は背中や腿を中心にあるが、とりあえず、歩行に問題なさそうで良かった。これからも大丈夫だと思うが、少しでも異常を感じたら、すぐに言ってくるように。

 ……すまなかったな、ジャスティー」


 アローンさんとレイネスさんが用意してくれた私の部屋で、父に体の診察を診察してもらう。診察を終え、背中を向け服を着ている私に、父は苦しげな声で謝ってきた


「なんで謝るの⁉ お祖父ちゃんに会いに行こうと言ったのは、私なんだよ……っ。お父さんとお母さんは、なにも悪くない!」

 着替え終わり振り返ると、泣きそうな父の顔があった。


「……そうか。そう言ってくれるか……。ありがとう」

 優しく私の頭を撫でてくれる。


「……ねえ、お父さん。私の背中、そんなに傷痕があるの?」

「そうだな……。なにかで切られたこともあっただろう? そういった痕もあるし、大きなアザもあるから……。見れば分かる……。自分たちで娘を助けることができない、情けない親で、本当にすまない……」


 俯いた父の体が震える。私の手から離れ、太ももに腿に置かれた手の上に、ぼたりと、大きな涙の粒が落ちた。

 私はただ泣いて、そんな父に抱きついた。


 私たち家族は再会してからずっと、自分が悪かった。アナタは悪くない。と、お互いに言いあってばかりだ。三人ともなにかを後悔し、自分を許せていない。家族が許してくれても、その後悔は、長く消えないだろう。


「……ああ、すまない。急にちょっと、な。どうだ? 背中はもう痛まないか?」

 目をこすると、ようやく父が顔を上げる。


「……うん。もうほとんど痛くない」

 私も父から離れる。


 そして、診察を終えたら、両親にあのことを相談しようと決めていたと思い出す。勇気を出すため、ぎゅっと、両手で拳を強く握る。


「お父さん。私、お父さんとお母さんに、相談したいことがあるの」

「相談? 分かった、母さんをこの部屋に呼べばいいのかな? 座って待っていなさい」

「うん、お願い」


 父が部屋から出て一人になると、これから両親に、上手に話せるのか不安になってきた。

 自分で思ったより緊張しているのか、手も汗ばんでくる。

 ……さあ、なにからどう話そう。


◇◇◇◇◇


「魔法使い……、ですって……?」

 深夜の客人の容貌と、若い青年で魔法を使えるようだと伝えると、母の顔が青ざめた。


「ああ、なんていうことなの……。ジャスティー、それは本当に、誰にも言っていないのね⁉ 貴女が彼らの姿を見たことも、話を聞いたことも! 誰にも知られていないのね⁉」

 私の肩を掴み、揺さぶりながら尋ねてくる。


「……お祖母ちゃんには、知られている……。盗み聞ぎしたところ、見られたの……」

「じゃ、じゃあ! あの男にも知られたの⁉」

「それはないと思う。だって、そのことで怒られたことがないから」

「そう、それなら安心ね。あの男のことだもの。盗み聞きされたと知ったら、貴女を気絶させるくらい殴るのが当たり前だからね」


 安心したのか、やっと肩から手を離してくれた。

 どうやら母は、祖父を駄目な方面には信用しているようだ。私も同感だが。


「モディーン、なにをそんなに慌てているんだい? まるで怯えているようだよ。魔法使いは珍しいから、まだその人が捕まっていなくとも、この目撃談を伝えれば、すぐに捕まえてもらえるはずさ」

「いいえ、ことは簡単じゃないわ。あのね、この国の魔法使いは、ある血統の者という証でもあるの」


 アコッセさんもそう言っていたと思いながら、頷く。

 父は初耳らしく、『そうなんだ』と言いながら、興味深そうに相槌を打つ。


「その血統というのは、王族。現国王陛下の直系親族でなくとも、先祖に王族が一人でもいれば、魔法が使えるの。

 さらにね、その青年、銀髪だったのよね? 銀髪の魔法が使える家系と言えば、真っ先に思い浮かばれるのはフレイブ王国の重鎮、シューペス公爵家しかないわ」

「なんだって⁉」

 父が飛び上がるほど驚く。


「だからこそ外国での、『死招き草』の商売が可能だったのかもしれないわね……。後ろ盾は大きいし、容疑が受けていなければ、立場上、調査状況を知ったり、介入することも不可能ではないわ。

 ……これは私たちだけで判断できる問題じゃない。危なすぎる。公爵家そのものが敵なのか、その青年だけが父の仲間だったのか……。それだけでも、状況が大きく変わるわ……。

 ジャスティー、よく頑張って黙っていたわね。それで正解だったのよ」

「……本当?」


 アコッセさんに黙っていたことで、ずっと罪悪感があった。でも母に正解だと言われ、重かった心が少し軽くなった。

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