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母と訪問者

修正内容:誤字脱字や言い回し等を修正。内容に変更はありません。





「オーベンス……」

「お久しぶりにございます」


 オーベンスと呼ばれた男性が頭を下げる。母と顔見知りらしい。


「どうしてここに……。……いえ、今さらなんの用ですか⁉」


 男性を吊り上がった目で睨みつける。母の口調が荒れ、変貌した様子に私は驚いた。

 母に続いて姿を現した父も驚いた顔を作ったが、すぐに男性に向かって頭を下げた。

 それに比べ、男性は身動き一つせず、ろくに父を見ようともしない。父は気にしていないようだが、失礼な男の人だと私はむっとした。


「ご主人様が重い病気を患われました。医師からは余命幾ばくも無いと診断され、生きている間に、モディーン様たちにお会いしたいと望まれています。本日はそのお言葉を伝え、返事を頂くため参上いたしました。ぜひゼバル様とお会い頂けないでしょうか」

「へえぇ、あの人が病気。あんな人でも病気になるのね。病気の方が逃げ出すかと思っていたわ。どんな事情があろうと、私はすでにあの人たちと関係はありません! 勘当したのはそちらでしょう⁉ 縁はとうに切れています! どうぞお帰り下さい!」


 そう言うと母は玄関を指す。


「モディーン、落ちつきなさい」


 母の肩に父が手を置き、穏やかに声をかける。そして母を守るためか、男性との間に立つよう移動する。


「突然の話に、妻も驚いています。このような状態では、すぐにお返事をすることはできません。後日お返事をさせて頂きますので、申し訳ありませんが、どうか今日はお帰りください」

「はっ。医者の貴方様が! 病で苦しんでいらっしゃる方の! 願いを! 無下にされると!」


 不必要なまでにわざとらしい大声を男性は出すが、それでも父は落ちつきを崩さない。


「そういうつもりはありません。何年も連絡を取り合わず、そちらの家とは関係を断絶したと思っていました。今になって会いたいと願われるとは思っておらず、妻も動揺しています。私たちに考える時間が与えて下さい、お願いします。なにか手紙など預かっておられませんか? 今日はそれを受け取るだけに留めさせて頂きたい」


 男性は大声を上げなかった。逆に無言で懐から一通の真っ白い封筒を取り出すと、父に渡す。


「また明日、この時間にうかがいます。よい返事を期待しております」

「承知しました」


 男性は私たちに背を向け、家を出ていった。父が慌てて見送ろうと後を追うが、男性は振り返ることなく馬車に乗りこみ、早々に去った。


「先生、どうしたんだい? 大きな声が聞こえたけど、大丈夫かい?」


 村の人の心配そうに尋ねている声が外から聞こえてくる。


「大丈夫ですよ。ご心配おかけしてすみません。王都で医師の勉強をしていた頃の知り合いでして……」

「あんな金持ちそうな奴と知り合いなんて、先生すごいね」

「あいつも医者なのかい? 先生と違って冷たそうな奴だったね」


 家の中に残っている私は、拾った布巾を差し出しながら母に尋ねた。


「……お母さん、今の人、誰?」

「……昔の知り合いよ。後でちゃんと説明するから。……ほら、皆と遊んでいたんでしょう? 戻って楽しんでおいで」


 布巾を受け取ると、そう言いながら背中を押して外出を促してくる。


 いつもは遊んでばかりいないで、勉強しなさい。家の手伝いをしなさい。って、怒るのに……。どうして? どうして怒らないの? どうしてそんな風に、無理に笑っているの?

 家の外に出され振り向くと、入れ違いに家の中へ戻る父と目が合った。父も母と同じように、無理に笑顔を作っている。なんで?


 パタンとドアが閉められ、両親の姿は消えた。


 たった一枚のドア。それは私と両親の間に生まれた、大きな隔たりそのものに思えた。

 まるで両親に拒絶されたようで、ショックを覚えた。それでも友人との遊びを再開すれば、やがて夢中になり、その間だけショックを忘れることができた。

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