覚悟の形~2~
「どうかしら。気に入ってもらえるよう、頑張ってみたのだけど」
広い部屋の中にはベッド、机、椅子、ソファ、鏡台、タンス……。足りない家具はないかのように、あらゆる物が揃っている。ベッドのカバーは花柄。窓のカーテンは無地のピンク色で、裾がフリルになっている。そっとカーテンに触れるてみると、とても上質な生地らしく、柔らかい手触りだった。
ベッドには、白いウサギのぬいぐるみが枕元に座っている。ふわふわした毛で作られ、黒くて丸い目が愛らしい。
「……可愛い」
ぬいぐるみを抱え、頬ずりをする。ひとしきり柔らかさを楽しみ、もとの場所に戻してあげる。
大きなクロゼットを開けると、多くの男の子の服が下がっていた。これがきっと、レイネスさんが話していた、アローンさんの用意した服なのだろう。数着だが、女の子用の服や寝間着もある。こちらはきっと、レイネスさんが用意したに違いない。
私が長期でアボッカセに滞在すると見越し、こんなに色々と用意してくれ……。二人の優しさの詰まった部屋。喜ばずにいられない。
「ありがとうございます。とても素敵な部屋で、嬉しいです!」
「そう言ってもらえて、良かったわ。今夜はアローン、どうせアコッセ様たちと話が長引いて、帰りが遅くなるでしょうから、二人で先に夕食をいただきましょう」
クッキーが美味しかったので期待していたが、やはり夕食も絶品だった。きっとレイネスさんは食堂を開いても商売が上手くいくだろう。
「さあさあ、長旅の疲れも癒してちょうだい」
お風呂もすすめられる。まさに至れり尽くせり。私なんかが、こんなに贅沢をしていいのだろうか……。
深夜の客人について口を閉ざし、大罪を犯した祖父の孫なのに……。
沈んだ気持ちを追い払おうと、湯の中で頭を大きく振る。
それにしても、大きなお風呂だ。足を伸ばしても余りある。お湯も熱すぎず、温すぎず、ちょうどいい加減だ。肩まで浸かり、あまりの気持ちよさに自然と声が漏れる。こんなにゆったりお風呂に浸かったのは、いつ以来だろう。
お湯に浸かっていると、体だけでなく、心も洗われ、じんわり芯から温もってくる。
お風呂から上がり、黄色のリボンがついている寝間着に着替え、アローンさんの帰宅を居間で待つ。だが、美味しいご飯を満腹になるまで食べ、お風呂で心身を温めたせいか、眠りが誘いに訪れた。私はその手の中に、気づかぬ内に落ちてしまった。
◇◇◇◇◇
目を覚ますと、真っ先に隣で寝ている白いウサギが目に飛びこんできた。
カーテンの向こうが明るく、日が昇っていると分かる。昨夜知らぬ間に眠ってしまった私を、誰かがわざわざベッドまで運んでくれたと理解するのに、時間はかからなかった。
お礼を言うどころか、迷惑をかけてしまった……。その事実に朝から落ちこむ。
せめて髪くらい自分で整えようと、鏡台に座る。いつもと同じ、変化のない私が鏡に映る。
……いつもと同じ? ……変わらない?
本心を言うことができず、後悔してばかり。情けないと嘆くばかり。そんな私を、鏡は映す。
……このままでいいの?
私は私らしくありたい。だけど、後悔して嘆くだけの自分は、もう嫌だ。
変わらないと……。強くならないと、立ち向かえない。変わらなければ、またなにかに後悔して、嘆くだけ……。
「………………っ」
ある決意を固め、鏡台や机の引き出しを開けていく。これだけ家具が揃っているのだ。日用品も、きっと用意されているに違いない。
果たして引き出しの中に、ソレはあった。さっそく手に持ち、決意を実行する。やり遂げると、すっきりとした気持ちになる。
鏡に映るのは、新しい自分。これが私の覚悟だ。強くなり、立ち向かう力を手に入れるため、変わるという覚悟。
後悔はない。




