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新しい宝物~1~

「あの……。これ、本当に私が着て良かったの……?」

「そろそろサイズがきつくなっていたし、君が嫌でなければ」

「ううん、嫌じゃないの。お兄ちゃんが、また美術館に行く時、困らないかなって心配に……。あ!」


 慌てて彼の兄と姉を見る。なにしろこんな平民服を着て、お忍びのようなことをしているのだ。美術館に通っていることを、家族にも、内緒にしているのかもしれない。


「弟が平民服を着て、お忍びで外出していることは知っているよ」

「本当、そういう所もフェーデはお兄様に似ましたわね。私も人のことを言えませんけど」


 少女もお忍びで外出をしているようだ。お金持ちだって、のびのびと、一人で息抜きをしたい時があるのだろう。


「お帽子を被るのを忘れていますわ。そう、髪の毛もしっかりお隠しになって」

 少女が優しい手で私の髪を束ね、帽子の中に入れてくれる。


 この帽子も美術館で男の子が被っていたものだ。あの時、彼が着ていた服を今は私が着ていて……。

 そう考えると、途端に顔が熱くなり、全身がくすぐったくなった。まるでお兄ちゃんに抱きしめられているようで、恥ずかしくて嬉しい。照れながら笑うと、なぜか「可愛いわぁ!」と言いながら、少女が抱きついてきた。


「さてジャスティー嬢、君は、馬に乗れるかい?」


 あれ? どうして青年は、私の名前を知っているのだろう? 不思議だったが、彼は母と面識があるようだし、その関係で名前を知ったのかもしれない。


「乗れます」

 私は頷いた。


 村では馬に乗れない人は、ほぼいない。

 馬に乗れなかったら、村の外と行き来するのに、徒歩か馬車を利用するしか手段がないからだ。馬車を利用するのには、お金がかかる。乗馬なら必要なのは、持ち馬一頭。馬車よりお金がかからない。ならば安く済んで、楽に移動できる乗馬を選ぶことが、村の道理なのだ。


 もう何ヶ月も乗っていないので、少し不安だけど……。大丈夫だろう。


「実は敷地内に秘密の通路があってね。そこを通れば、誰にも知られず、王都を脱出できるんだ。通路は長いから、馬で移動するのが一番だからね」

「その通路は、どこに繋がっているんですか?」


 尋ねながら、ドレスの裏地に隠していた地図を青年に広げて見せる。


「地図とは用意がいい。このなぞられている道は……。村までの道のりかな?」

「はい。お父さんが王都に来るまで、どこを通ったのか、なぞって教えてくれたんです。これがあれば、村までの道のりが分かります。

 ……今日もしかしたら地図にない、逃げられる道を見つけられるかもと思って、隠して持って来たんです。道が分かれば、準備ができ次第、そこから逃げようと思って」

「なるほど」


 頷いた青年は、ある一点を指した。


「通路の出口はここ、南東に位置している。そこから北に降りれば、村から王都に来た道に出る。だが、君が向かうのは、生まれ育った村ではない。アボッカセだ。すでにご両親もアボッカセに向け、出発している。

 ご両親とは、アボッカセで再会できるだろう」


 一体、私の周りでなにが起きているのだろう。なぜアボッカセ? どうして両親も?


「二度と君たち親子に、デュシパート男爵が手出ししないと、約束しよう。だが君たちは今後、デュシパート男爵の友人や仲間に狙われる可能性がある」

「狙われる? どうしてですか?」


 青年の言葉に不安が押し寄せる。その不安を和らげようとしてくれたのか、男の子が私の手を握ってきた。


「今は時間がなくて、詳しい説明はできない。村に帰ってそのまま居続けるのは、彼らに居場所を知られているから、危険なんだ。どうか僕たちを信じてほしい」


 強く真っ直ぐな眼差しを男の子に向けられる。この瞳を疑うことは、私にはできなかった。

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