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祖母とのやり取り

前回のあらすじ

不機嫌で部屋に戻った祖父から両親は出て行ったと聞かされ、口答えをすると暴力を振るわれた主人公。

周りの大人は助けようともしなかった。

主人公は、孤独を感じた。






 祖父は気に入らないことがあれば怒鳴る、なにかに当たり散らすのが当たり前の性格だった。相手が家族でも使用人でも、気に入らなければ殴る、蹴る。

 とはいえ、その本性を見せる相手は限られていた。そういった行為が他者から非難されると分かっているのだ。だから人を殴ったりする場所は、必ず洋服で隠れる場所を狙うので、非常に性質の悪い人である。


 私は通いで教えてくれる家庭教師がつけられた。祖父は彼女の前では、仮面を被っている。先生と一緒の時は暴力を振るわれないので、勉強する時間が楽しみになった。


 夜一人になると、あの時サイドテーブルに置いていた地図と絵を手に取り、眺める。

 地図を見ては、このなぞられた道をたどれば、お父さんとお母さんのもとに帰れる……。と考える。

 今すぐにでも帰りたい。だけどあの長距離を歩いて移動するのは無理だ。馬でもないと、とてもたどり着けそうにない。仮に馬を手に入れられても、移動するのに何日もかかる。その間の旅費がないのも問題だ。


 喉が渇けば川の水を飲めばいい。眠るのも洞穴や雨風を凌げる場所を見つければいい。だけど問題は食糧。人様の畑から泥棒をするわけにはいかない。

 しかも途中、人を襲う動物たちが出ると言われている地域もある。もし襲われたら、子どもの私一人では戦えない。逃げることも難しいだろう。


 ……どう考えても、一人では村へ帰れそうにない。


 それでも私は諦めようとは思わなかった。それだけ村へ帰り、一日でも早く両親に会いたかったから。それにこんな暴力が支配する家での生活から、早く逃げたかった。

 足となる馬。旅費。動物たちへの対策方法。これらが揃えば、村に帰れるはず。

 お金はドレスを売れば、なんとかなりそう。でも、どこで売れる? どれだけのお金を得られる? もし売ったことが祖父に知られたら? 祖父のことを考えると、途端に息苦しくなり、心臓がばくばく音をたてる。


 絶対に知られてはならない、焦っては駄目。慎重にことを進めなければ。そう言って自分を落ちつかせる。


 なにしろ先日、すでに私はやらかしてしまったのだから。

 あの晩、寝る前に挨拶にと部屋を訪れてきた祖母に、地図を見つけられてしまった。

 慌てて背後に隠したが、なにを隠したと詰め寄られ……。隠し通せなかった。似顔絵には幸か不幸か、興味を持たれなかった。


「この地図はなにかしら? なぞってあるこの線は……。貴女の住んでいた村と王都を繋ぐ道ではなくて?」


 私は焦りながらも、落ちつくよう自分に言い聞かせる。万が一見つかった時のため、言い訳は考えていたので、落ちついてそれを言えばいい。

 全て嘘だとどこかで矛盾が出たり、後々首を締めたりする可能性が出てくる。だから真実と嘘を織り交ぜた話を考えた。


「ここに来るまで父がどこを走っているのか、地図をなぞり教えてくれました。道中、長い道のりに驚きました。私はそれまで、村とその周辺しか知らなかったので……。今思えば、狭い世界で生きていました。先日、先生にフレイブ王国の地図をもらいました。ほら、この地図だとあんなに長かった道が、この地図だと短いのです。この地図はそういった比較に使い……」


 万が一を考え、フレイブ王国全体の地図も手元に置いていたので、すぐに取り出して見せる。


「つまり、地理の勉強に役立てていると?」

「はい」


 祖母は無表情を崩さない。だから彼女が今、なにを考えているのか分からない。私の話を信じたのか、疑っているのか……。

 私は私で真実を気取られないよう、笑みを浮かべることを止めない。少しでも迷いや焦りを見せては駄目。両親のもとに帰るために、頑張れと己に言い聞かせる。


「……本当、貴女はモディーンに似ていること。この地図はお祖父様に見つかって、有らぬ疑いをかけられる前に処分しておきなさい」


 そう言うと地図を返してくれ、部屋を出て行った。

 ……助かった……? 信じてくれた……? それとも祖父への忠誠心を図ろうとしている……? 祖母の真意は掴めない。でもあの言い方だと祖父に言いつける気はなさそうで、それには安心した。



◇◇◇◇◇



 なぜ祖母はこんな家から逃げ出さず、何年も暮らしているのだろう。亡くなった叔母さんもそう。母も父と結婚するまで、家を飛び出さなかったと聞く。

 皆、こんな生活にどうして耐えられるのだろう。今すぐにでも逃げたい私には、理解できない。

 後に知ったが、叔母は祖父の性格に大変似ており、祖父が祖母に当たるように、叔母は自分の夫に当たっていたそうだ。婿養子だった彼は、耐える日々を送っていたらしい。

 叔母については生来の気質だったのか、それとも祖父に感化されたのかは、今では知る術がない。彼女にとって暴力は茶飯事で、悪いことだとは思わず、そもそも逃げたいという考えすら浮かばなかったのかもしれない。


 人が育つ環境は、『人間』を作る装置でもあるかもしれない。





お読み下さり、ありがとうございます。


令和2年4月27日(月)

加筆訂正を行いましたが、内容に変更はありません。

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