祖父の企み~1~
2019年9月8日(日)
加筆訂正を行いました。ストーリーに変更はございません。
美術館の後は念願だったお城を見ることができた。
父の話していた通り、白く高い壁は太陽の光を浴び輝いて見えた。壁の向こうは煉瓦や石で組み立てられている建物が複数、頭の先だけかろうじて見える。
王様の部屋がどこかは教えてもらえなかった。壁に近い建物は警備兵や城に勤めている者たちが居住している、宿舎が建っているとは教えてもらう。宿舎は主に独身の者が利用しており、既婚者は城の近くに家を持って家族と暮らしていることが多いとも。
美術館で出会った男の子が言ったように、壁の向こう側へ行くことはできない。だけど王の居城を見ることができた。それだけでも満足だった。
帰宅すると、すぐ夕食だと言われ食堂に案内される。
歩き回りお腹が空いていたので、その晩も美味しく豪華なご飯をいただく。この晩も一回で魚料理と肉料理を同時に味わえる。昨晩は牛肉で、今日は鶏肉。連日こんなに豪華な食事を食べられるなんて本当にお姫様みたいと、幸せな気分になる。
食事中、美術館に行った話を祖父母に聞かせた。祖母は相変わらず無表情だが、祖父と一緒に相槌は一応打ってくれる。表情からでは話に興味があるのか分からないが、聞く気がない訳ではないらしい。ただ聞いて楽しんでいるのか、その顔からは読み取れない。
それでも美術館で見た数々ドレス。入口の初代国王の像。祖父母に聞かせる話はたくさんあった。でも男の子との出来事は恥ずかしくて、語れなかった。
男の子を思い出すと褒められキスされたことを思い出す。そうすれば途端に顔が熱くなり、胸は、きゅうっ、と謎の締めつけが走る。その甘い締めつけは嫌ではないが、なにを意味しているのかこの頃は分からず、軽く混乱させた。
◇◇◇◇◇
次の日も私は、祖父から贈られた新しいドレスに袖を通す。
この日はスカートが二段になっている、黄色いワンピース。白い靴下の足首辺りの後ろ側には、小さなピンク色のリボンがついている。
鏡の前で前日と同じように回りながら全身を確認する。
もし昨日会った男の子がこの姿を見たら、また『似合っている』と褒めてくれるだろうか。そう想像するだけで、顔が自然とほころぶ。そんな私を父は複雑そうな顔で見ていた。なぜだろう。
そして朝食をいただき、村の皆への土産を買いに三人で出かける。もちろん行き先は西エリア。ここは様々な店が並ぶ通りが密集しており、土産を選ぶのには最適である。
なにがいいかと、いくつもの店を渡りながら三人で考える。結局土産は日持ちする甘いお菓子を選んだ。村では甘いお菓子を食べられる機会が少ないので、これなら皆も喜ぶだろう。美味しそうにお菓子を食べる友人たちを想像し、顔がゆるむ。
他にも外国から入荷している珍しい品々が並ぶ店などを見て回る。見たことがないモノが多く、買えずとも楽しい。しかも美術館では展示物に触れなかったのに、ここでは多くの商品に触れる。重さや質感を知ることもでき、それも面白かった。
祖父の見舞いに王都へ来たはずなのに思ったより元気そうなので、昨日からすっかり観光を楽しんでいる。
祖父に悪いと思うがこの二日間、朝食後は調子が悪いと寝室に向かうが、母が言うように食事は全部平らげている。顔色も悪くなく、歩く姿も力強く見える。病気だと言われていなければ、健康な人と誰もが思う様子だった。もしかしたら誤診かもしれないと、父も呟くほどだった。
◇◇◇◇◇
買い物を終え、祖父の家に戻ったのはもうすぐ夕刻を迎える頃。
買った土産をトランクに詰めたりまとめたりする手伝いをする前に、男の子に描いてもらった絵と地図が土産たちに潰されないよう、まずベッド脇のサイドテーブルの上に避難させる。
荷物をまとめ終わった頃、祖母が夕食前に軽く皆でお茶でもどうかと誘いに来た。
サロンで五人揃い、お菓子をつまみながらお茶を楽しむ。こんなに甘くて美味しい焼き菓子も、もう食べられなくなると思うと残念で、つい欲張って幾つも口に運ぶ。
こんな姿をあの男の子に見られたら、淑女らしからぬ行為で憧れには程遠いと呆れられてしまうかもしれない。だけどこんな贅沢は最後になるかもしれない。だから今だけは許してほしい。
「なあジャスティー、毎日ドレスを着て美味しいご飯を食べて、こんな大きな家で暮らす生活をどう思う?」
お菓子を口一杯に頬張りながら、尋ねてきた祖父へ視線を向けた。
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