美術館での出会い~2~
令和元年8月20日(火)
加筆修正を行いました。内容に変更はありません。
男の子は眉根にシワを寄せ、しばらく私を見下ろしていたが、また同じ場所に腰を下ろす。どうやら立ち去るのを止めたらしい。
……許してもらえたのかな?
嫌ならこの場を離れるだろうし、うん。これは多分、許してくれたんだ。きっと絵を描く所を見てもいいということだ。と、都合のいい解釈をする。
しかし彼は三人の男性が描かれている絵に視線を向けままで、絵の続きを描こうとしない。
どうしたのだろう、なんで描いてくれないんだろう。そう思っていると、突然彼が質問を投げてきた。
「……君はこれだけの名画に囲まれて、自分もなにか描きたい気持ちが沸き上がってこないの?」
「絵の描き方知らないし……。あ、でもたまに友だちと一緒に、お花とか動物とかを地面に描くよ」
「地面?」
男の子の視線が、絵から私に移動する。
「うん。ほら、そこらに転がっている棒を拾って、地面にガリガリって」
身振りでその様子を伝えると、男の子は信じられないと驚いた顔を作った。
え? そんなに驚くこと? 私もそんな反応をされると思っていなかったので驚いた。
「……地面に絵、描いたことないの……?」
尋ねると頷かれる。
「でも、地面と棒なんてそこら辺にいくらでもあるから、よく使うよね? 遊び道具の定番だよね?」
首を横に振られる。これはやっぱり……。
「あべこべだね」
私の言葉の意味は伝わらず、彼は首を傾げる。
「うん。だって……」
私は彼の耳元に手を当て、周りに聞こえないよう答えを言う。
「お兄ちゃん、本当はお金持ちの人でしょ?」
瞬間、彼の目が大きく開かれた。
「洋服はボロボロだけど、お兄ちゃんの手とか顔とか綺麗すぎるもん。あたしたちは遊んだり家の手伝いしていたら、傷ができたり手が荒れるのが当たり前だから。だけどお兄ちゃんにはそういうのがないから、お金持ちかなって思ったの。えへへ、予想当たったみたいだね?」
当たったと喜んでいる私の手と、自分の手を彼は見比べている。
私の手にはまさに以前、父の手伝いで薬草を摘んでいた時にできた傷跡が残っている。
「君は庶民なのか? そんな高そうな服を着ているのに?」
「これはお祖父ちゃんに貰ったの。お祖父ちゃん、王都に住む貴族だからお金持ちなんだって。でも本当のあたしは、今お兄ちゃんが着ているような服ばかり着ている平民なんだ」
「ああ、そうか……。それであべこべ……。金持ちの僕が庶民の恰好で、庶民の君が金持ちの恰好……。なるほどね」
ようやく私の言葉に納得できたのか、男の子は頷く。それからはっとなると、辺りを見回しながら尋ねてきた。
「君、誰とここに来たの? そのお祖父さんと?」
「ううん。お父さんとお母さん。三人で王都に住むお祖父ちゃんに会いに来て、今日はお祖母ちゃんが観光に出かけたらって言ってくれて、それで美術館へ来たの。明後日には村へ帰るんだ。お父さんお医者さんだから、長く村を留守にできないの」
私が視線を向けた先では、両親が並んで絵を眺めていた。
「患者さんが待っているから仕方ないけど。でももっと長くいられたら、王都のいろんな場所に行けたのに……。それがちょっと残念」
しばし二人の会話が続きます。
美術館でこんなに会話してもいいのかなと思いますが、この美術館は模写OKなので、会話もOKな感じです。
美術品を傷つけたり、直接触れなければ、大半なんでもOKな感じの美術館ということでお願いします。




