戦闘~2~
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女王の命令⁉ なぜ⁉ 女王と繋がっていたとされるマシェットは、すでに捕まり処刑され、私が握っていた情報なんて、祖父たちの深夜の密会だけなのに!
ディランの後ろに控えていた一人の敵が、筒状の見慣れぬ道具を懐から取りだすと、道具を持ったまま、腕を空に向ける。
次の瞬間、爆発するような音が響き、筒の先からなにかが煙を吐きつつ、空へ向かう。やがて上空で破裂すると、煙の球を吐き出した。
光らないし小型だが、花火と同じ仕組みの道具かもしれない。
「まずいな……。今ので奴ら、仲間に居場所を知らせたかもしれない」
ロッシさんの言葉に、私たちに緊張が走る。
そうか、信号弾! これ以上敵の人数が増えては、私たちが不利になる一方!
「もしかしたら、ジャスティーたちがエルフィールを植え替えたことを、女王が知ったのかもしれないな。計画を頓挫させるお前の行動が許せなく、見せしめもあって、殺そうとしているのかもしれない」
「まさか、そんな理由で……?」
たったそれだけの理由で人を殺そうとするなんて、信じられない。
……いや。敵という理由だけで人を殺めた私も、女王となんら変わりがないのかもしれない……。
「とにかくジャスティーを狙ってくるのなら、相手の動きが分かりやすくて、いいじゃないか。やりやすい」
ロッシさんたち剣部隊が、すぐに私を守るように囲む。
「早い所こいつらを片付けて、全員でここから逃げるぞ!」
「おおっ」
皆が動き出す前に、ある考えが浮かんだ私は、提案することにした。
「ロッシさん! 狙われているのは、私だけです。なら、私が彼らを引きつけます。ロッシさんたちは、アコッセさんのもとへ行ってください。まだ敵は多く潜んでいるようです。アコッセさんのもとに、味方が一人でも多くいた方がいいと思います」
「馬鹿を言うな! お前一人で……っ。死ぬつもりか⁉ 無茶だ!」
「私は、団長と副団長の弟子です! 彼らに教わったことを生かせば、きっと大丈夫です! お願いです、ロッシさん。フェーデ殿下には、エルフィールが必要なんです。それがなければ、彼は助からない。アコッセさんを助け、フェーデ殿下を助けるためにも……。どうかお願いします」
泣きそうになりながら、懇願する。私はどうしても、フェーデを助けたい。だからお願い、ロッシさん……。
「……本当にいいのか? 後悔しないか?」
「はい」
私は顔を引き締めると、迷いなく頷く。
「分かった。まずはここを全員で突破! その後ジャスティーは敵を引きつけろ! 俺たちは副団長のもとへ向かう!」
「馬がまだ近くにいるはずだ!」
団員が口笛を鳴らせば、敵の背後からセドナーたち、馬の姿が見えてきた。
「行くぞ!」
ロッシさんに続き、弓を構えた私も、走り出した。
◇◇◇◇◇
「エルフィール、エルフィールっと」
最初の避難場所から移動する途中、ラウルはエルフィールを見かけていた。
大人の体の横幅くらいの正方形に近い範囲なので、多く生えている訳ではない。だがその場所は幸い、ファイオスたちがいる避難場所から離れていない。
それを聞きつけたドヴァルが、すぐに摘んで来いと怒鳴るように言うと、無理やりラウルを出立させた。そして彼は今、その場所に到着した。
「あった、あった」
場所を覚えていたので、すぐに見つけることができた。
生えているだけ全部摘んでこいと言われているので、さっそく茎に手をかけるが……。
ふと思う。
エルフィールは、病気を治す薬の材料。もし摘まなければ、薬が完成しなければ……。恋敵のフェーデは助からず、命を落とすだろう。そうすれば、ジャスティーの目も覚めるかもしれない。
黒い感情に覆われ、ラウルは動きを止める。
さあっ。と吹いた風により、エルフィールや草花が揺れる様を、ただラウルは据えた目で眺めていた。
もし、もしフェーデが助からなければ……。邪魔者がいなくなれば……。
ジャスティーを、手に入れられるかもしれない。
その時、ぴいっ。と、鳥の鳴き声が聞こえてきた。直後、数羽の鳥が一斉に飛び立つ音も聞こえた。
途端に我に返ったよう、はっとする。
「……っ。なにを考えているんだ! 人の命がかかっているんだぞ!」
頭を強く横に振り、覆っていた醜い感情を振り払おうとする。
それでも一度生まれた醜い感情を、完全に捨てることはできなかった。心のどこかに残っているソレは、囁く。
エルフィールを摘むな。エルフィールが無ければ、邪魔な恋敵を排除できると。
その声が聞こえない振りをし、改めて茎を折ろうとした時、背後から草を踏む、何者かの歩く音が聞こえてきた。それもゆっくりとだが、近づいて来る。
……敵か⁉
「誰だ!」
身の危険を感じ振り返れば、一人の女性が立っていた。
その女性の頬には、なにかで切ったような痕がある。それも最近のものではなく、ずっと以前の傷と分かる痕。
「なんだ、あんたか」
見知った女性だったので、ほっと息をつくラウル。
その女性はアコッセからの命令を受け、避難場所を移動するラウルの後を、いつの間にかついて来ていた。
元の場所から大分離れた頃にようやく気がつき、なぜついて来ている! と強く怒った。
それに対して彼女は、中枢の方がより強い人がいるだろうから安全そうだし、知り合いもいるかもしれないと答えた。
戦闘訓練を受けていない者を一緒に連れるのは、危険だとは分かっている。だが送り返すことも、一人で帰すことも危なくてできない。
仕方なく二人で、アコッセの待つ避難場所へ向かうことへ決めた。
女は表情も少なく、口数も少なかった。それでも話しかければ、短い返事だが、一応は答えてくれる。
そこで名前も教えてもらった。
「エルーノと申します」
エルーノと名乗った、ほぼ会話もない同行者とは、避難場所に着くなり別れた。その後、エルーノが知り合いに会えていたのかも分からないし、なにをしていたのかも知らない。
そんな彼女が、なぜまた自分の後をつけて来たのだろうと、不思議ではあった。
「エルーノ……。なんでまた、こんな場所にいるんだ。どこに敵がいるのか分からないのに、一人で動き回るなと言っただろう? どこに敵がいるか分からないんだからさ、本当に危険なんだよ。これ摘んだら俺も戻るから、あんたも一緒に避難場所へ戻ろう」
「……それ、なんですか?」
エルーノは、屈んだままのラウルの後ろを指す。その先にあるのは、エルフィールだった。
「あ? 薬草だよ。薬を作るのに使うから、摘みに来たんだ。そういえば、知り合いに会えたか? もし会えていなかったら残念だけど、今度こそ、この避難場所で大人しくしてくれよ。誰だって家族や友人に会いたくても、我慢しているんだ。あんただけ、特別扱いはできない」
そう言うとラウルはエルーノに背を向け、一本、また一本と、エルフィールを手折る。
エルーノという知人と会話できたからか、あの嫌な囁きもまるで消えたように、鳴りをひそめた。
「薬草って……。ひょっとして、それがエルフィール?」
「ああ」
答え、ふと手を止める。
なぜエルーノは、エルフィールが薬草になることを知っている?
それは今や重要機密扱いで、団員以外は知らないはず。団員の誰かが彼女に漏らした? いや、もしかしたら……。
ラウルはごくりと喉を鳴らす。
一度疑惑が浮かべば、途端にエルーノが怪しく見えてくる。
確かに彼女は奇妙だった。危険と分かっている状況なのに、自ら移動する自分の後を追いかけてきた。
もし敵の仲間だったら? 自分は敵に襲われないと、自信があったら? それならば歩き回れることに、説明がつくのでは?
彼女は本当に知り合いを探しているのか? そもそも本当に、知り合いなんて存在しているのか?
次々と疑問が浮かぶ。
つうっ。と、頬を汗が伝う。
震えながら摘んだエルフィールを胸元に隠し、ラウルは立ち上がりながら、剣を抜いた。
お読み下さり、ありがとうございます。
活動報告で少し触れましたが、終盤ということで、推敲に時間をかなり割いています。
推敲にあまり時間を割かなかった話が、どうにもモヤモヤしていまして……。
やはりここは、更新頻度より、作品の中身を重視しようかなと。
その結果が、この話かい?
と逆の意味で驚かれそうですが、一応これでも本人なりに、うんうん頭を唸らせております……。
更新頻度が落ちるかもしれませんが、今後ともよろしくお願いいたします。




