祖父母との食事
修正内容:加筆修正を行いましたが、内容に変更はありません。
向かった先は食堂で、これまた広い部屋だった。縦に細長い窓が幾つも並び、庭が見えるようになっている。太陽が昇れば、整備された庭を見ながら食事をとることができるだろう。それはとても贅沢で、羨ましいと思えた。
部屋の中央には、長く大きな白い長方形のテーブルが置かれ、レースのついた黄色いテーブルクロスが掛けられている。
祖父母が席につき、他のフォークやナイフが何本も置かれてある席に私たちも座った。
なんでこんなに食器があるのだろう。サイズは異なっているが、一本あれば十分のはず。私は首を傾げた。
それからどこに隠れていたのか、この館に勤めていると思われる女中が現れ、丸い空のお皿を置いていく。
空っぽのお皿とは、なんの間違いなのか。どうして誰もそれを指摘しないのだろう。それとも料理は盛られていて、自分にだけ見えないとか? 空想力溢れる年頃だったこともあり、そんな荒唐無稽なことを本気で考える。
そんな中、次に姿を現した男性がお皿の中にスープを注いでいく。
それで空だったのかと納得できたが、どうして最初からスープを注いでいなかったのか、新たな疑問が生まれる。
見れば周りの大人は皆、動じていない。そうか、王都ではこれが普通なのかもしれない。そう思うことにした。
「さあ、いただこうか」
「神への祈りを捧げてもいいかしら」
「ああ、忘れていた。浮かれていたようだな」
そう言うと祖父は笑うが、母は反応を返さなかった。
皆で祈りを捧げ、スープを口にする。
コーンポタージュは味が濃くまろやかで、甘みも強い。美味しい! これなら何杯でも食べられると思いおかわりをねだったら、母にはしたない真似は止めなさいと叱られた。
「気に入ってくれたようね。料理人も喜ぶわ」
感情を表情に出さないタイプなのか、またも祖母は無表情で言う。なにを考えているのか分からない相手に、どう返事すべきか分からず、曖昧に笑顔を返した。
一つの皿の品を食べ終わると、また新しい料理が運ばれてくる。どうして同時にテーブルに並べないのだろう。これまた誰も不審がっていないので、これも王都での普通なのかもしれない。ひょっとしたら、完成した順に運んできているのかもしれない。
「ジャスティーは今、何歳だったかな?」
祖父が笑みを浮かべ、尋ねてきた。
「この前、十歳になったの」
「村での暮らしはどうだ? 不自由はしていないか?」
「友だちもいて楽しいよ。春になったら毎年苺を摘むし、冬は雪だるま作ったりして遊んでいるし。もっと暑くなったら、近くの川で泳いだり魚を捕まえたりするのよ」
「あら。お勉強は?」
「ご安心を、学校に行かせています」
祖母の問いに、すかさず母が答える。
「小さな村だと聞いたが、学校があるのか」
「ええ。他の町から先生が来られるので、週に二日しか開かれていないけれど」
母の答えに、祖母の眉が咎めたてるように動いた。ここで初めて、彼女の表情の変化を見ることができた。
「まあ……。それで勉強していると言えるの?」
祖母の言葉に勉強嫌いな私はうんざりとした気持ちになった。週に二日でも嫌なのに、さらに日数を増やせと言うのか。冗談じゃないと、心の中で叫ぶ。
それにしても、どの料理も美味しい。不快な気持ちなど、すぐ吹き飛んでしまうほど。魚料理だけでなく、肉料理まで出てきた。肉は厚くて柔らかく、いつも食べる肉と全然違う。
こんなに美味しいものを沢山食べられて嬉しいけれど、祭りやバーティーでもないのに、贅沢して罰が当たらないだろうかと、少し不安にもなる。
しかも最後には、珍しいアイスクリームまで出てきた。村ではめったに食べられないお菓子だ。なにしろ冬の寒い日にしか作れない品。それなのに今は、暑さも感じる初夏の季節。どうやってアイスを作れたのだろう。
それを知って村の皆に教えたら、誰でも今の季節にアイスを食べることができるようになる。そうすればきっと、皆も喜ぶ。暑い時にひんやりとしたアイスを食べられたら、気持ちいいに決まっている。
だけど、初対面の祖父母に作り方を尋ねることは私にとって難関で、躊躇してしまう。
「ところで、チェルシーはどうしたの? 姿を見せないけれど、留守なの?」
コーヒーカップをソーサーに戻すと母が尋ねる。チェルシーとは誰だろう?
「……チェルシーは遠くに行っている。だからお前たちを呼んだ」
「そう、チェルシーは元気にしている?」
「変わりない」
私がチェルシーという人について尋ねる前に、母が祖父を見据え、非難がましく口を開いた。
「ところでお父様、先ほどから私たちと同じ料理を、残しもせず全て平らげていらっしゃいますね。余命幾ばくもないと聞いていたので心配していましたが、思ったより元気そうで良かったわ」
母の声は尖ってもおり、機嫌が悪い時の声だった。こういう時は黙っているのが一番だと知っている私は、そ知らぬ顔で運ばれてきたクッキーに手を伸ばす。
「本当にご病気ですか? 顔色も悪くない、食欲もある。とてもそうとは思えません」
「モディーン、お父様に失礼ですよ」
祖父は黙ったまま答えようとしないので、溜息をつくと母は立ち上がる。
「もう遅いから、ジャスティーを寝かせないと」
「部屋は二階の北を使え」
「分かりました。あなた、ジャスティー、行きましょう」
「あ、えっと……。おやすみなさい」
立ち上がり祖父母に頭を下げるが、祖母が『おやすみなさい』と答えてくれただけだった。
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