母とアローンさんの関係
なんと、今回で100話目です!ここまで続けられたのも、読んで下さっている皆さまのおかげです。ありがとうございます。
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誤字を修正しました。
修正内容:「北」→「南」
「名乗るのが遅くなった、ドヴァルだ。先ほども話したが、城に勤める医師だった。しばらく前に辞め、薬草探しの旅に出ていた所、襲撃を聞いて医師が必要だと駆けつけた」
やっと一息つけるようになると、ドヴァル先生が握手を求めてきた。
「お前の父親であるファイオスは、昔、城の私のもとで修行していてな。そこでモディーンと出会ったんだ」
それからドヴァル先生は私の隣に腰を下ろすと、両親について語り出した。両親の馴初めを聞いたことがない私は、そうだったのかと驚く。
「当時モディーンは、現国王陛下の弟の運命の相手だから、城に出入りしていてな。特に幼い頃は、父であるゼバルによって受けた怪我を、よく治療してやったもんだ。そのせいで懐かれたのか、体調が優れなければ、すぐ私のもとに来てな……。ふふっ、あんなに小さかった奴に、こんな大きな娘が……。時間が流れるのは、早い」
昔の母を思い出したのか、その目が懐かしく細められる。
「だがな。まさか自分の弟子が、王族と結婚する予定の娘と恋に落ちるなんて、想像できるか? 打ち明けられた時、そりゃあ私は怒った。なんつう許されん横恋慕だと。
でもな、弟君が愛する人と結婚すると宣言され、王族を去った。そうなれば、まあ……。ファイオスたちに障害はない。私は認めたが、ゼバルは認めんかった。ファイオスより利用価値ある男のもとへ、娘を嫁がせたかったのだろう。だから二人は駆け落ちしたわけだが……」
「駆け落ち……」
それで……。初めてオーベンスさんが来た日のことを思い出す。
祖父母と結婚前、大ゲンカして別れてから、会っていないと言われた。そのケンカの理由は、父との結婚を認められなかったからだろう。
「お母さんが、二人の望む生き方を選ばなかったから」
今なら分かる。生き方とは、結婚を指していたと。
「すまんな。お前も知っているだろう、昔話をして」
「いえ、実は両親の出会いとか、教えてもらったことがなくて……。知らない話で、興味深かったです」
「じゃあ、アローンの過去も、教えてもらっていないのか?」
「過去、ですか?」
なぜ急にアローンさんの名前が出るのか分からず、きょとんとする。
「だから、アローンがモディーンの運命の相手だったって過去だ」
ドヴァル先生の言葉に、私は驚いた。
「お母上とは旧知の仲でね。もっともここ何年、会っていないが……。よもやこんな形で再会することになろうとは、想像していなかったがね」
旧知どころか……。運命の相手……っ?
「ええ、そうよ。もっとも出会ったころは、友人と呼べる仲ではなかったけれどね。なんていうのかしら……。あの頃は、お互いどう接していいのか分からなかったわ……。でもある日、私は彼女から大切な贈り物をいただいたの。それで私たちは、友人と呼べる仲になった。
モディーン様には今も感謝している。彼女は私にとって、大切な恩人でもあるわ」
「贈り物?」
「ええ、絶対に手に入らないと諦めていたもの」
アローンさんの運命の相手の母と、アローンさんが結婚したいと思ったレイネスさん。確かにどう接していいのか、分からない複雑な関係だ。
……もしかして、レイネスさんが諦めていたものって、アローンさん?
王族であり、運命の相手が見つかっているアローンさんと結ばれることは、普通なら起こり得ない。でも母にも別に愛する人ができ、アローンさんと結婚する気がなく、二人で婚約破棄という道を選んだ……。だからレイネスさんは、アローンさんと結婚できた。
アローンさんが魔法を使えるのは、国王の弟だったから……。王家の血筋どころか、王族だったなら当然だ。
ということは、フェーデとアローンさんは、叔父と甥の関係で……? だからフェーデは、アローンさんを慕っていたの?
「なんだ、この話も知らなかったのか。なんで隠していたのか分からんな。恥ずかしかったのか?」
自分の発言が、どれだけ私に衝撃を与えたのか分かっていない先生は、不思議そうに首を傾げる。
「まあ、いい。おい、ジャスティー。明日は他の避難場所に向かうぞ。聞けば南の方に医師が集中しているそうではないか。あれだけ薬草を集められたということは、どこになにが生えているのか、お前は知っているのだろう? その知識、患者と私のために使ってもらうからな」
こうして私は、人使いの荒い、少し風変りなドヴァル先生と、行動をともにすることになった。
お読みいただき、ありがとうございます。
モディーンとアローンが運命の相手とは、初期から決まっていました。
この関係をいつ、どのように作中で語るのかは悩みました。これまで何度も話に組み込もうとしましたが、今じゃないなと毎回、後回しをし、ようやく今回で明かすことになりました。
以前アローンが語っていた、妹のような存在というのが、モディーンです。
今後の作中で明かされることはないので、設定を記します。
モディーンの初恋は、アローンでした。
アローンは鈍いので、まさか自分がそうだとは思ってもいません。彼にとって彼女は『妹』で、恋愛対象ではない。という思い込みもあり、今もこの事実を知りません。
モディーンは不毛な恋にけりをつけた数年後、ファイオスと出会い、恋に落ちました。
ここまで考えてはいましたが、結局作中では書くことがなく……。
せっかくなので、後書きに記させて頂きました。




